第306話 三者三様
突然戦場に現れた美照の友人のユキ。唐突な彼女の存在に圧倒される全員。しかし人形の口から放たれた火炎の右側から狒々が飛び出て来ました。
「あっぶねぇ!!」
『人を巻き込まないために加減したのが仇になったか・・・』
「へヘッ! こんな大乱闘なんてごめんだ!!」
内心で舌打ちをするユキ。出ていったその脚で逃げ出していく狒々を追う彼女でしたが、そんな彼女の目の前を別の火炎が通り過ぎていきます。
「ッン!?」
攻撃に振り向くと、彼女の方に体を向けている火車がいます。
「あ~はは~! 邪魔するならお前も消さないと~。頭数は減らすに限るよね。」
「チッ、面倒ね・・・」
彼女の方に向かう火車、それをいいことにどんどん距離を離す狒々を見たフィフスは、走り出しながら周りに顔だけ向けてに指示を出します。
「後輩! 悪いが火車の相手しててくれ!! ユニー! 瓜を連れて付いてこい!!」
「ハイッ!」
「仕方なさそうね。」
「エッ? 私は・・・」
美照は自分に何も言われなかったことに逆にどうすればいいのか分からなくなっていると、瓜から顔を向けられてお願いされます。
「危険なので降りてください。」
「いや、それなら先輩も・・・」
「私は・・・ 離れられないので・・・」
「はい?」
訳の分からないまま美照は降ろされ、ユニーは瓜を乗せたままフィフスが走った方向についていきました。距離が離されていく彼女の姿に手を伸ばしながらも、行っても何の役にも立てないことを自覚して立ち止まっていまいます。
「・・・」
「テル!!」
手を下ろす美照に声が聞こえたことでハットなり、そこに火車の火炎が向かい、グレシアに突き飛ばされる形でどうにか回避します。
「イテテ・・・」
「ごめん、もうちょっと下がってて。」
「グレ姉・・・ 分かったわ・・・」
頭を下げてもやついたところがありながらも美照はこれ以上戦闘に巻き込まれて彼女達に迷惑をかけないために黙ってそこから離れていきました。
膠着状態になる中、火車はユキを挑発するようにケラケラ笑いながら話し出します。
「ふ~ん、あの子、君の友達かい?」
「だったら何?」
「そう分かったら、やることは決まってるじゃん。」
火車は言葉を切ると美照が向かった方向に走り出しました。
「ハハッ! 追えるものなら追ってみな人間ちゃん。」
完全に人間であるユキを舐めている火車。それに反して彼女は挑発に乗ることもなくまた巻物を広げ、模様の一つに触れます。
「口が達者ね。でもそれはここを切り抜けてからにしなさい。」
模様は光り出し、喜炎とは違う人形が火車の目の前に召喚されました。
「何っ!? 離れた場所にも召喚出来るのか?」
「<水流術 哀水>」
油断していた火車は相性の悪い水の攻撃を至近距離から直撃し、大ダメージを受けてしまいます。
「ギャアァーーーーーーーーー!!!」
「人間も人形も舐めないことね。」
ユキは更に喜炎を呼び出し、追加で一気に畳み掛けました。
「ガアアァァァァ!!!」
火車は抵抗も出来ずに受け続け、そのまま跡形もなく消滅してしまいました。
「へえ、やるじゃんあの子。」
感心するグレシアにえんらえんらが攻撃を仕掛け、それが彼女を覆ってしまいます。
「ゆ~だ~ん~き~ん~も~つ~!!」
しかし衝撃で発生した煙が晴れると、グレシアとえんらえんらの間に氷の分厚い壁が構築され、彼女には全く攻撃は届いていません。
「な~に~?」
「油断してたのはアンタの方ね。」
グレシアの後ろには既に地面に刺さって氷巣形成を発動していた杖があります。彼女はテリトリー内に入ったえんらえんらを見逃すはずがなく、すぐに相手の体を足下から冷気で固めてしまいました。
「そ~ん~な~ぁ~!!・・・」
「これ以上逃げられるのもなんだし、これで終わりにさせて貰うわ。」
固まって動かないえんらえんらにグレシアが氷越しに手を触れます。
「<氷結術 凍砕>」
術の行使されたえんらえんらは抵抗することも出来ずにそのまま氷ごとヒビを入れられ、粉々に粉砕されました。
「相性問題くらい考える事ね。ま、機転が利かなきゃ意味無いけど。」
粉々になった相手の破片を見てグレシアは一言言葉をこぼしました。
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そしてユニーの背に乗って狒々を追いかけていたフィフスと瓜。しかし小さい分小回りは向こうの方が効くようで姿は見失ってましたが、焦って動いたのか痕跡が丸わかりです。
「余程焦ってるのか・・・ 丸わかりだな。」
「ですけどこの方向、人の密集地に向かっていますよ。」
「急ぐに限るか・・・ ッン?」
痕跡を追って入っていたはずのユニーが突然足を止めます。何事かとフィフスが下を見ると、殺気まであった足跡その他の痕跡が一つも無くなっていました。
「これは・・・」
妙なことにフィフスが考えていたそのとき・・・
ドカアアァァァンッ!!!!・・・
一行の後ろから大きな音と地響きが響き、まさかと感じた一行が方向転換してそっちの方向に一目散に走り出しました。
そしてそこに到着した彼等は、目の前の光景の衝撃に絶句していまいます。
「・・・」
「・・・」
どうにか口を開いたフィフスは出したのは、このことに関する疑問でした。
「どういうことだ、これは!?」
一行の目の前には、大きく衝撃を受けて陥没した地面。そしてホどんどがへしゃげて頭の一部だけが判別できる狒々の残骸でした。
<魔王国気まぐれ情報屋>
ユキの巻物にはそれぞれ感情ごとに属性の違う人形を召喚します。ものによって威力も異なり非常に応用が利くようになっています。
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