第301話 三対三
突然のグレシアの登場に、敵の魔人達は全員驚き、フィフスは少しホッとしたような顔になります。
「結晶が光ったとはいえ、よくここが分かったな。」
「具体的な場所はそこの彼女が教えてくれたのよ。」
彼女が指を差す方向には、物陰に隠れている美照がへコへコとしながら膝を震わせてこちらを見ていた。
「なるほどな。流石メガネの妹、こういう事態に慣れてやがる。」
「ゴー君!!」
美照の近くから声が聞こえた二人が視線の先を変えると、瓜が本来の姿に戻ったユニーに乗っかって二人の所までやって来ました。途中に通り過ぎた美照は初めて見た本物のユニコーンに目を飛び出させてしまいます。
「エエェ!? あれ、もしかして本物のユニコーン!!?」
これによって三対三になり、挙げ句向こうからすればお互いも敵同士のため、完全に不利な状況になっています。こんなことになっては仕方ないと魔人達はそれぞれ一時撤退し始めます。
「ユニコーンだと!? 冗談じゃない! こんな所であんなのの相手なんて出来るか!!」
「に~げ~ろ~!!」
「逃がすわけ・・・」
「待て!・・・」
グレシアは氷巣形成を発動して戦闘を続行しようとしますが、フィフスに止められたことで遊園地の中で堂々と戦闘を行なうのはマズいと気が付き、この場は敢えて見逃しておきました。
「チッ・・・」
悔しそうに舌打ちをするグレシア。フィフスは彼女の隣に移動して張った肩をもどう反動に息をつくように話します。
「仕方ねえ、これ以上目立つのも何だ。」
「既に目立ちまくってるわよ。」
彼女の声にフィフスも見れていなかった周辺に目が行き、一般の客が大勢こちらを注目しきっています。
「やっば・・・」
一行は隠れていた美照を見つけて引っ張りながら、なんとか人混みを巻くことに成功しました。フィフスもグレシアも急いで移動したがために、その中にいくつか他とは違う視線があることに気が付きませんでした。
「・・・」
「・・・見つけた。」
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どうにか人目から巻いた一行。ユニーも姿を戻したことで非戦闘員の女子二人も走ることになり、止まった箇所で息切れをしています。
「フゥ・・・ フゥ・・・」
「な、何なのよぉ・・・」
「遊びに来たのがとんだ災難ね・・・」
グレシアが美照の左肩に右手を当てて慰めると、前似いるフィフスが一番落ち込んでいました。
「ちょっと、どうしたのよアンタ、なんで美照以上に落ち込んでるわけ?」
グレシアからの率直な問いかけに当人は背中に暗い闇を背負って口を開きながら更に落ち込みました。
「いや、ここんとこ休日の度に何かと魔人がらみの騒動に巻き込まれててな・・・ 連中は俺にゆとりを与える気は一切ねえのかって・・・」
春休みは船の上での死闘、新学期に入ってすぐに狒々の調査、それからも人気委女優の護衛にストーカーの手伝いと、実際このところの彼は休日の度に何かと酷い目に遭っていました。しかしそれは常に共にいる瓜も同じ事です。
気が沈み込んだ二人にグレシアが対応に追われてしまいます。
「それは・・・」
「ああもう! 二人とも止めなさいよ!! こっちまで気分が重くなるじゃない!!」
しかしそのとき、フィフスにとってはよりマズいことになりました。顔を下に向けた瓜は、偶然視界の中に美照の左腕に付けられているブレスレットが入ってしまったのです。
『ん? あれって・・・ もしかして・・・』
瓜がもしやと思うと、美照が腕を動かし、ブレスレットの中心部が見えました。そこには、特徴的な傷跡が見えます。
『やっぱり、あれは私が付けた・・・』
瓜が物思いにふけっている中、美照は息を整えきり、すぐに二人の間に立ちます。
「ふ、二人とも。いつもこんな感じなの・・・ ですか?」
美照はグレシアの契約者ではありません。そのため平次よりもこういう機会に会うことが少なく、瓜以上に心配になるのは無理もありません。
「まあな。」
「三人同時に出てくることはあまりないけどね。」
と魔人の話に戻ったために、グレシアがフィフスに聞いてみます。
「それでフィフス、今回アイツらは全員揃ってアンタを狙ってるみたいだけど、心当たりは?」
「知らねえよ。人から恨みを買う事なんてしょっちゅうだからな。」
「・・・」
「・・・」
事情を知っている瓜とグレシアはフィフスの台詞に何も言えなくなりますが、美照はそうではありません。
「先輩が嫌われているなんて! そんなこと・・・」
「美照。」
弁解しようとする彼女に、それは止めておけとグレシアが止め、彼女を黙らせます。自分の憧れの先輩が謙遜する姿にどうにも歯がゆい想いを感じていた美照ですが、自分よりも彼のことを知っているグレシアの前ではそれを口に出来ません。
重い空気が流れ始めると、フィフスは両手を後頭部に当てて軽口を言い、それを濁します。
「ま、自分で言うもの俺はモテるからな。大方それで俺を欲しがる女の子達が争ってんじゃねえか? ハッハッハ!!」
「アンタねえ・・・」
「それは流石に・・・」
「冗談がきついです、先輩・・・」
フィフスの寒い冗談に女子三人が苦笑いをし、ユニーも瓜の左肩の上でやれやれと首を振っています。
「なんだよ、そんなに冷めなくてもいいだろ?」
と、フィフスが一番戸惑っていたそのときでした。
「五郎君!!・・・」
突然どこからか名前を呼ばれた彼は、三人のうちの誰かかと思って聞き返します。
「今、誰か呼んだか?」
「いえ・・・」
三人揃って首を横に振ります。じゃあ誰だと周りを見回すと、いつの間にか後ろにいた誰かに、突然彼は飛びかかられました。
「五郎く~ん!!!」
「ウワッ!!・・・」
思わずフィフスが受け止めると、抱きついてきた女性は彼の顔を見て瞳をウルウルとさせていました。
「会いたかった・・・」
「ハイィ?」
フィフスは身に憶えの無い事に混乱しました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
モチーフ紹介
・火車
『北風と太陽』より太陽
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