第298話 ユキからの世話焼き
「ハァ~・・・」
小鳥の鳴き声が聞こえる昼下がりの一年生の教室の窓際。少女、『石導 美照』は先程からため息を連続し、一人ぼおっと外の景色を眺めています。
「ハァ・・・」
「今日だけでもう二十回目よ。」
後ろから声をかけられて彼女は目を丸くし、反射的に後ろを振り返ると、彼女の友達『ユキ』が呆れきった顔でこちらを見てきます。
「そ、そんなにしてた?・・・」
「ええずっとね。こっちがイラッとくるくらい。」
「ユキって時々ドライよね。」
美照が自分の友達の冷たい言葉に涙を提灯のように流して揺らして少し落ち込むと、ユキの方から彼女の様子の元凶を口にします。
「どうせあの先輩のこと考えてたんでしょ? 自分を助けてくれた相手かもって・・・」
「ウグッ・・・」
美照が図星を付かれて目線を逸らしながら両手の人差し指の先端を当てていじけていると、今度はユキがため息をつき、ポケットからある物を取り出して彼女に手渡しました。
「これは・・・」
「これで少しはお近づきになったら? でないと話にならないでしょ。」
「ユキ・・・」
美照が顔を上げ、ユキが頷きます。
『わざわざこんなものをくれるなんてね。ホントに世話を焼いてくれてるんだ・・・』
と美照が自身の友人の寛大さに痛み入る思いでいると、その心情を一瞬にして壊す出来事が起こりました。
「石導 美照ってのはこのクラスにいるか!?」
「ッン!!?」
突然教室の外から自分の名前を呼ぶ大声に美照が驚いて背中をピンと張って口をバッテンのようにしてしまいます。
教室にいたクラスメイト達はその人物に注目します。あろうことかその人物は、ついさっきまで二人の間で上がっていたフィフスその人でした。驚いて固まるクラスに対し、彼は首を傾げます。
「聞こえてなかったのか? 石導 美照って奴は~!!・・・」
「ハッ! ハイッ!! 私です!!」
次にまた自分の名前を叫ばれ、これ以上クラスで編に目立つのを避けたかった美照、口を元に戻して赤面しながらも右手をピンと上げ、それとは反対し脚は震えながら小刻みに動かして教室を出ました。
「あ、あの~・・・ 私に何のようで・・・」
会話のこともあり、まともに彼の顔を見れずに首から逸らしてしまう美照。そんな彼女にフィフスは特に変化のない軽口で一言
「話がある。」
と言って彼女を人のいない場所にまで連れて行きました。
「エッ!? エッ!!?」
気になっている異性にそんなことをされて最早語彙力がなくなってしまう美照。そして二人がいなくなってからのクラスでは、既に予想談義が盛り上がりだしていました。
「ねえ! 今のって!!?」
「もしかしてそういうこと!?」
「はぁ・・・ あの子も大変ね・・・」
クラスの盛り上がりにユキはまたしてもため息をついてさっきまでの友人と同じように窓の外を眺めました。
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そうして人のいない体育館裏に来た二人。場所が場所ということもあって既に美照のテンションは上がりきっています。
『オイイイイイイィィィィィィ!!!! これってもしかしてそういうことなの!? まさか、いやでもそんなご都合な・・・』
彼女が頭の中での自問自答でパニックになっていると、フィフスはそれで変化する彼女の表情を面白く思いながらもすぐに本題に入りました。
「おい、」
「ハイイィィィィィ!!!」
フィフスは右手を彼女に差しだし、目線を真っ直ぐ向けてハッキリ伝わるように言いました。
「俺のブレスレット、返してくれ。」
「ブ、ブレス・・・ レット?」
美照は一瞬彼が何のことを言っているのか分からずに膠着してしまう。そこに彼はブレスレットについて詳細に説明しました。
「お前がこの前付けていたブレスレット。装飾の中心に傷があるやつだ。返せ。」
それを聞いて美照はハッとなります。そのブレスレットこそ、自分を助けてくれた『運命の王子様』の唯一の手がかりであったからです。自分からその持ち主を名乗り出たと言うことは、つまりそういうことなのでしょう。
「それって!!・・・」
美照は急いで思い立ったものを取り出そうとします。しかし何故かこんなときに限ってブレスレットをはめておらず、ポケットの中にもありません。
「アッ!・・・」
そこで彼女は思い出しました。今朝随分と目覚めの悪かった彼女は、半分寝たままの状態で兄『平次』に世話を焼かせてようやく学校に登校できたということを。つまり、ブレスレットは今、彼女の自室に置きっぱなしになっていたのです。
「あ~・・・」
見てるの全身からマズいと汗が流れ出します。そんな後ろ姿を見たフィフスはまさかと思った事を言います。
「・・・なくしたのか?」
「いいいいえ!! そんなことは!! 今日はたまたま家に置いてきてしまっただけで・・・」
「んじゃ明日必ず持ってこい!! あれは大事なものなんだ!!」
喰い気味で頼んでくるフィフス。近付かれる顔の圧に押されながらも目線を逸らす美照ですが、そのときにユキに渡されてからずっと握り締めていたものの存在、そしてさっき彼女から言われたことを思い出しました。
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「これで少しはお近づきになったら? でないと話にならないでしょ。」
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そこで彼女は腹を決めて目付きをキリッとし、フィフスの目を見てちゃんと話し出しました。
「じゃ、じゃあ! こっちからも条件があります!!」
「条件? 生憎金はあまりないぞ。」
フィフスは何か物乞いでもされるのかと思ったのかそう答えますが、そこに彼女は手に持っていたものを前に出してハッキリ伝えました。
「今度の週末! 私と一緒にここに行ってください!!」
「・・・はい?」
フィフスは予想の斜め上を行かれて拍子抜けてしまった。美照がユキから渡されていたもの。それは、とある遊園地のペアチケットだったのです。
こうして二人は、お互いの目的のために週末『遊園地デート』に行くことになってしまいました。
ということで今回から別騒動の始まりです。今回もオチャラケ多めになっていますので、楽しんでもらえると幸いです。
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