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第1話 異世界の魔王子様

 さっきの戦いの後、先の見えない森林の奥で、フィフスは何かが見えるように前を進んでいました。


 「ったく、こうも易々と勇者気取りのやつに潜入されるとはな・・・ 連中は何してんだ!! 」


 と少し愚痴をこぼしていると、フィフスはどこかから速い足音を感じました。すぐに気を立たせたのですが、相手はすぐにそこにやって来ました。しかし、その方に対しフィフスは緊張を解きました。なぜなら、彼は自分の味方だったからです。


 「探しましたよ、フィフス王子! 」

 「何だよ、お前か、ルーズ。」


 そこにやって来た少年は<ルーズ> フィフスの側近の執事でありました。森に行って帰ってこないフィフスを心配し、迎えに来たのです。


 「わざわざご苦労なことだな。正直ここまで追っ手が来るとは思わなかったぞ。」


 「貴方の勝手な行動には幼少期から慣れてますから・・・ たまには僕達振り回される使用人のことを考えて欲しいです・・・ (特に僕に・・・) 」


 「別にお前は俺がここにいることはわかるだろ。それでも急ぎで来たのは、上の連中に急かされたからか? 」

 「そこはお察しください。国王陛下も、これ以上家族を失いたくはないでしょうし・・・」


 「もう半年も前のことだろ、過保護はありがたいがそれを重役連中に利用されたらそれこそ面倒なんだが・・・ 」


 「僕に言われても困ります。」


 「はいはい、だが・・・ 」


 フィフスは目付きを変えて続けます。


 「俺がいなかったら、また不審者の侵入を許すとこだったぞ。」

 「!?・・・ またですか! 」


ルーズは驚きました。実はさっきのような、国内に侵入者が入ってくるのは、一度や二度ではなかったのです。


 「やはり例の事件以降明らかに数が増えてやがる。」

 

 例の事件、それは半年前に突然起こりました。魔王国の国民、そのおおよそ三割が突如行方不明になったのです。その中には、元々魔王軍の有力な戦士だった方々も数多くいました。その結果、国の防衛は乱れに乱れ、今となってはそこまで強くない自称<勇者>にまで国に入られている現状だったのです。


 「かといって、わざわざ王子が出向く必要はないのでは・・・」

 「あいにく信頼できるやつがそういなくてな。それなら自分でやった方がはやいだろ。」

 『その結果上層部から僕がガミガミ言われるんですが・・・』


 そう内心思いながら、ルーズは話を切り替えました。


 「それはそうとして、はやく城に戻ってください。本日は重役との会合ですよ。王子も出席するようお達しがきていますよ。」

 「ケッ、社交辞令は嫌いなんだよ。めんどくせえからとっとと・・・   ッン!?」


 そのとき、フィフスは突然動きを止めました。それにつられて、後ろにいたルーズはぶつかってしまいます。


 「あ、すいません・・・ どうしたんですか? 」

 「ルーズ、・・・」

 「はい?」

 「どうやらまた野暮用のようだ。」


 そう言ってフィフスは後ろに方向転換してダッシュしました。


 「ちょっと、王子!? 会合の方は・・・」

 「どうせまた見合いだろ。適当に理由つけて断っとけ。」

 「そんな!!・・・ はぁ、また重役連中にどやされる・・・」

 

 そんな文句を言いながら、仕方なくルーズはフィフスについて行きました。



 そうして気配を感じた場所へといった二人でしたが、そこには・・・


 「なあ、ルーズ・・・」

 「何でしょう?」

 「俺は夢でもみてんのか?」

 「いいえ、現実です・・・」

 「にしても・・・」






 「我が名は勇者シゲル、大魔王を倒し世界を救うものだ!」


 「我が名は勇者ヒデキ、大魔王を倒し世界を救うものだ!」


 「我が名は勇者サワベ、」  「我が名は勇者キョウジ、」


 「我が名は・・・」  「我が名は・・・」  「我が名は・・・」


 「「「世界を救うものだ!!!」」」



 「いくらなんでも多くね・・・」


 二人の目の前には、勇者がこれでもかというほど現れたのです。あまりの多さに森の木の陰に隠れている者もいました。


 「何これ、新手のドッキリ?」

 「そんなわけないですよ王子。この状況でしょうもないこと言わないでください。」

 「ざっと数えて百ってとこか。」


 フィフスはじぶんの手首を鳴らします。そのとき、二人の後ろから不意を突いた勇者が襲ってきました。


 「食らえーーーーーー!!」


 しかし・・・


 ガシッ!!


 「は!?」


 次の瞬間あったのは、フィフスがその勇者の剣を軽く左手で掴んでいた光景でした。


「正義の勇者が聞いてあきれるな・・・」


 グシャ!!


 フィフスはつかんだ剣を軽く握り潰し、そして落ちてきた男を顔面から殴り飛ばします。それはルーズのすぐ左を通り過ぎて、ひときわ大きい大木にぶつかって気絶してしまいました。


「はーー、 始まってしまった・・・」


 ボソッとルーズがそう言いますと、相手の集団が一斉に襲いかかってきました。


 「ウオーーーーーーーーーーー!!」


 それは絵に描いたようなとんでもない絵面でしたが、フィフスはそこに正面から飛び込んでいきました。


 そして・・・


 彼の突進によって相手の二割程が吹っ飛んだのです。


 「ナッ!?」 「まじか・・・」


 「戦車(王子)石ころ(勇者達)によるワンサイドゲームが・・・」


 そこから先の展開はルーズにとって予想通りになっていました。迫りかかってくる相手の攻撃を、フィフスは軽く回避し、反撃を行っていくだけの単純作業と化していたのです。


 「ほぼ毎度これに付き合わされている僕の身になって欲しいものですよ。」


その頃フィフスは相手の頭を鷲掴みにしながら、そこへ近づいて来た男を蹴り飛ばしていました。


「おいおい、こんなもんかよ。」


 しかし、そんなことを言っていた彼の後ろから敵の一人が剣をしまい、己の魔力を込めていました。そして、フィフスがそれに気づくのと同時にあいては技を振るったのです。


 「食らえ!! <火炎術 放射炎>!! 」


 彼はそう言って手に持っていた赤い石に息を吹きかけました。するとそこから火炎が放射され、フィフスに向かっていったのです。ですが・・・


 「は!?」


 いつの間にかフィフスは男の後ろに立っていました。


 「どこ見てんだ。」

 「どうなってんだ、ついさっきまでこいつは俺の目の前にいたぞ・・・」


 そうして反応が遅れてしまった男は腹を殴られ気絶しました。そしてフィフスは前方にいる多くの勇者にこう言ったのです。


 「<魔術>を使えるやつがいるのはおどろいたぜ。なら・・・」

 「おや、あれをやる気のようだ。下がっとこ。」


 フィフスは両手を開いて指を曲げ、両腕を上に上げて手首のところでクロスしました。すると、両手から黒い稲妻が起こり、それによって手のひらの上にそれぞれ炎が発生し、それを肩の真横に下げながらフィフスは続けました。


 「お手本を見せてやるよ・・・」

 「な、何だ!?」

 「構うな、いくぞーーーーーーーーーー!!」


そしてフィフスは両腕を正面にし、左手の平の前に右手を重ねました。

 

 『<火炎術 破壊炎> 』


 すると彼の手から、瞬時に広範囲かつ強力な炎が飛び出してきました。唐突のことに相手は対応仕切れずに、前方から攻めてきた敵はほとんどが炎に包まれてしまいました。


 『<破壊炎>、熱を発生させ操る火炎術の中でも特に威力の高い王子の得意技ですね・・・』


 そんなことを思っていますと、ルーズの後ろの木陰から三人の敵が飛び出してきました。


 「こいつ動いてないぞ!!」

 「いける・・・」


 そうして剣を構えて上から不意打ちをしようとしましたが、それに気付いていたルーズは右手を胸に当てながらボソッと呟きます。


 「全く・・・ 正義の勇者を自称してやってることがこれですか・・・」


 そしてルーズは瞬時に振り返り、同時に右腕を勢いよく横に振るいました。


 『<疾風術 風刃斬撃>』


 すると、腕を振るった風圧が斬撃となり、三人の敵は真っ二つに切り裂かれました。

 そのすぐ後にフィフスがその場に戻り、残っていた敵にフィフスが目を見開き、首を傾げながら言います。

 

 「で、てめえらの中でまだやりたいやつがいるか?」


 残りの勇者達がそのとき見たのは、二人の化け物を中心とした周りに血と炎が充満した地獄絵図でした。


 「ヒッ、ヒィーーーーーーーーー!?」

 「な、何なんだよ、お前は・・・」

 「魔王でもないのに、強すぎだろ・・・」


 この光景を見て、腰が引いた勇者の一人がそう言いますと、ルーズがフィフスの前に出ます。


 「当たり前だ!! お前達、この方をどなたと心得るか。我ら魔人一同が絶対的忠誠を誓いし、この国を治める大魔王様の御子息にあらせ、自身も強大な戦士でありし・・・」


 「ルーズ、・・・」

 「はい、何でしょう?」

 「・・・長い。」


 それを聞いて驚くルーズを横に彼は前に出た。




 「俺はフィフス、魔王子フィフスだ!!」




その名を聞いて、その場にいた男達は全員揃って恐れおののきました。


 「フィ、フィフスだと!?」

 「う、嘘だろ。こいつが・・・」

 「やっぱり、化け物だ・・・」


 そして残った男達は我先にとその場を半回転して次々と走り去っていきました。


 「追いますか?」

 「・・・ いや、いい。」

 『相変わらずの嫌われっぷりのようで・・・ ま、無理もないですが。』

 「帰るぞ。」


 人がいなくなったことを確認すると、二人の魔人は来た道を歩いて帰っていきます。ふてくされているフィフスの気を紛らわそうと、ルーズは彼に話しかけましたが、それは当の本人には届いていませんでした。


 そのときの彼は、とある考え事をしていたのです。



 『やはり、人間にとって俺たちは、得体の知れない<化け物>なのか・・・』



 「あなたなら出来る・・・

             信じてるから・・・」



 『俺には・・・ んなことできやしねぇよ。』





 「・・・ ・・・じ 王子!」


 「・・・!? ああ、すまない。」

 「どうかされましたか?」

 「いや、何でもない。 さて、姉貴たちにガミガミ言われんのもやだし、とっとと帰るとするか。」


 そう言って誤魔化して、フィフスが前に出ました。すると・・・




 「たくさんの友達が欲しい!!」




 突然、フィフスの耳にそんな声が聞こえてきました。


 『今のは、一体・・・    ッン!?』


 すると彼の足下から、二人の見たことのない魔方陣が現れました。


 「何だ!?」

 「王子!!」


 ルーズが手を延ばしますが時すでに遅く、フィフスは魔方陣と共に消えてしまいました。


 「そんな、王子が・・・ 消えた・・・」


_________________________________________




 「ギヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」




 フィフスは謎の空間を真っ逆さまに落ちていき、それが終わるとともに地面に思いっ切り真正面からぶつかってしまいました。


 「ドベシャ!!・・・   」


 フィフスが痛みに耐えながら、その場に座って見ると・・・



 目の前には、一人の少女が怯えてこちらを見ていました・・・

       

魔王国気まぐれ情報屋


<魔術>

 魔人が己の体に込められた魔力を別のエネルギーに変換して放出する技。様々な属性に分かれており、基本的には一人につき一つの属性のみが生まれ付きで使用可能になっている。


<火炎術>

 フィフスが使用する魔術。攻撃力が高く、攻めには持って来いだが、術の調整が難しく、小回りが効きづらいのが弱点。




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[良い点] ツイッターの小説を読むタグより参りました! 魔王子という設定は初めて見ましたが、強さの秘密がそれだけでも理解できて良いですね! アクションシーンもかっこいいです! 今回の企画では三話まで読…
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