第287話 エデン重役会議
ある都市街の中心にある、他のものより一層高く目立つ高層ビルの中にある大会議室の中、そこにはエデンコーポレーションの日本支部の幹部がそれぞれ席に座り、大きなメインモニターには外国の支部のエデンコーポレーションの幹部達が同じように席に並んで画面を眺めています。
彼等全員が注目しているのは、日本支部の会議場に現れた信に対してでした。
そんな大勢の人からの視線を一身に受けながらも、信はいつもと変わらない調子の笑顔を見せ、自身の要望を話し終わっているところでした。
「ということで、皆様、一発お願い出来ませんかね?」
完全に一方的なその要望に重役の何人かが席を立ち上がり、彼を怒鳴り出しました。
「調子に乗るな龍子!!」
「お前の立場は、あくまで一研究所の所長だ!! 勝手が過ぎるぞ!!」
「その上勝手にこの会議に入るのも許せん! 立場をわきまえろ!!」
次々と横から浴びせられる怒声の連続に、信は表情一つ変えず対応します。
「突然会議に乱入したことは謝りますよ。要望だって僕が急に言い出したことですし忘れて貰ってもかまいはしません。」
・・・と、格好ばかりの紳士的なことわりを入れる信ですが、次に言う言葉で前の台詞のことを一切封じにかかります。
「でも~、僕自分で言うのもなんですけど結構短気な性格なので・・・ 承諾されなかったらもしかしたら鬱憤晴らしにネット上にあることないこと呟いちゃうかもしれませんね。怪物がどうとか人体改造がどうとか・・・」
さっきまで彼に暴言を浴びせ続けていた数人の重役がそれを聞いた途端、全員が額に汗を流して口を閉じました。
もちろんこの企業、『エデンコーポレーション』は世界でも有数の権力を持つ巨大企業。ネット上にいくらか表沙汰にしたくないことを書かれたところで闇に葬ることは簡単に出来ます。
しかしこの場に現れた『龍子 信』は、この組織の中でも有数の科学者。誤魔化しをかいくぐる方法が存在してもおかしくない上、挙げ句過去に色々あってこの企業の触れて欲しくない重大機密も知っています。
故にこう言われてしまえば彼に対する返答は一つでした。それを言うのにためらっている重役達が大勢の中、会議席の中心にいる中年の男が仕方なさそうに口を開きました。
「・・・いいだろう、今回は承諾してやる。」
ドスのきいた声にも信は一切押されることはなく、陽気なまま薄っぺらいお礼をしました。
「ありがとうございま~す!! お礼はまた考えておきますんで。んじゃ、これ以上会議の邪魔になるのもなんなんで失礼しますね~・・・」
信はペコリと頭を下げて背中を向け、手を振りながら部屋の外に出て行きました。嵐のように去って行った彼に場の空気を濁された彼等はほとんどが揃ってため息をつきます。
「ハァ・・・ 龍子め・・・ 調子に乗りおって・・・」
「やはりやめておいた方が良かったのではないか?」
「今回のことはたかだか数人の事を少し動かすだけだ。別に支障はない。」
「だがこれで図に乗っては・・・」
「それでも奴の開発品は我が社・・・ いや、世界にとって必要不可欠な存在だ。その実結果も出てしまっている。」
「その上あのことについても知られているとなると、下手なことは出来まい。」
その場の全員が臭い物に蓋をしたいがごとく、信について当てもない対抗策を立てようとします。しかしそんな都合の良いものがすぐに思い付くはずがなく、またしても場が重く静まり返ってしまいます。
そこに一石を投じたのは、その場ではなく画面越しから聞こえてきた声でした。
「心配ありませんよ、皆さん。」
重役達は突然聞こえてきた声に驚き、細かく散りばめられているモニターのどれから聞こえているのかと探し出すと、その本人から画面を大きくしてきました。
映っているのは、信より多少年上の、より大人びた風貌の優しい目付きの男性です。姿を見た一番権力のありそうな男性は、真っ先にその男に声をかけます。
「君か。君が会議に出るとは珍しいな。」
その男は信とは違い、本当に優しい笑みを浮かべながら重役の言葉に返事をします。
「ほんの気まぐれですよ。ただ、今回自分が見に来て良かったようだ。皆さん随分鬱憤が溜まっているようなので。」
男の軽口にその場にいる何人かが機嫌の悪い顔になります。ですがそこを気にしてはキリがないと、中心の男が話を進めました。
「世間話はいい、本題を話せ。わざわざ我らをからかうためにつなげたわけでもないだろう。」
「はい。私が請け負っている例のプロジェクトについて進展を報告しておこうかと思いまして。」
場の全員が不機嫌から興味を持った視線に代わります。
「ということは進展があったのか!?」
「最終試験段階まではこじつけました。これが成功すれば実用段階に入れます。」
「オオォ!! いよいよか・・・」
「これで龍子の不動だった地位も危うくなる!」
「奴の高くなった鼻もへし折れるといったものだ!!」
先程までの暗さとは打って変わり、意気揚々と信への悪口を口に出します。節操のない彼等に呆れた中心の人物はそれをわざと音を立てることで落ち着かせ、モニターの向こうの男に伝えました。
「わかった。計画の詳細が決まり次第我々に伝えろ、
エデンコーポレーション日本支部 第一科学技術局長 『西遊 邦次』。』
名前を呼ばれたその男こと邦次は、よりにっこりと微笑んで返事をしました。
「はい、その辺は抜かりなく。」
その言葉を最後にモニターは消え、邦次との通信は切断されました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・エデンコーポレーション上層部は基本自由奔放に動く信のことを嫌っていますが、彼の技術は敢えて特許化されており、またあることについて知られているため下手に手を出せません。
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