第285話 声に壊される
誰かのために出した褒め言葉がその人を傷つけることがある。その事実、というより、知っていながらも見て見ぬ振りをしていたことをハッキリ提示され、瓜と鈴音はどう答えればいいのか分からなくなってしまいました。
「・・・」
「・・・」
続けてルーズはその事に対する自分の意見を話しました。
「難しいことなのは分かっています。しかし、本当に相手のためを思うのならば、出した言葉に責任を持ってほしいものです。」
「責任?」
「人は、自分の軽い行いで人を殺せてしまう事に気付ききっていない。見る人を勝手に『万能』と思ってしまうことがある。あの人なら何でも叶えてくれると、理不尽な思いをぶつけることもある。まるで都合の良い存在であるかのように・・・
でもそれを受ける相手は、何処まで行っても自分と同じ『人』なんです。『神様』じゃない。
僕ら魔人だってそうだ。僕らは人間より歪な見た目をし、人間に出来ない事が出来る。しかしそれでも、僕ら魔人もあなた方人間と同じ、『人』なんです。受け入れられる声の量にだって限界がある。」
「その限界ってのを迎えちゃうと、どうなるんだ?」
「いくつかありますが、大きく分類するば二つ。自分が壊れるか、他人を壊すかです。僕が知っているのは前者のみですが・・・」
ルーズはとある人物との二年前の過去を頭に思い浮かべます。
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そこは、獄炎鬼の事件が起こってすぐの魔王城。そのときのルーズは何よりも優先して、自分の主の部屋に駆け込みました。
「王子!!」
扉を開けると、部屋の中は一切照明が点灯しておらず、中の様子が分かりません。ルーズはすぐに視覚を調整して再び部屋の中をよく見ると、部屋の隅っこで座り込み、膝を抱えて静かに震えているフィフスを見つけました。
「・・・」
ルーズが見つけた彼に近付こうとすると、それに気が付いたフィフスが姿勢を崩して更に壁により、突然彼に向かって叫び出しました。
「来るな!! 止めろ!!!」
「王子・・・」
そのときルーズはここに来て初めて彼の顔を見ました。瞳に一切明るさはなく、怯えるように常に焦点が定まっていません。おでこからも汗を流し、何かに強く怖がっているような表情をしています。
ルーズはせめて彼の気を落ち着かせようと試み、とりあえず一声かけてみます。
「王子、僕は・・・」
「止めろ!! そんなことを言うな!!」
「そんなこと? まだ何も・・・」
「俺はやりたくてやったんじゃない!! 俺は英雄なんかじゃないんだ!!!」
何故かルーズが声を出せば出すほど、フィフスは錯乱して彼には訳の分からないことを叫び散らします。どう考えてもマズいと思ったルーズは大きく震えているフィフスに触れて近距離から声をかけることで解決しようとしました。
「王子! 気をしっかり持ってください!!」
しかしその声もフィフスに届くことはなく、両肩を掴んだ腕を力ずくで振り払われ、そのまま混乱してに殴りかかられました。
「うるさい! うるさあぁい!!! 俺を見るな、俺に話しかけるなあぁ!!!」
ルーズはどうにか攻撃をかわしますが、今の彼に何を言っても通じないと悟り、部屋の扉を刺激にならないようゆっくり閉めて部屋を後にしました。
『・・・王子。』
その後、主人があんな状態になっていることで特別休暇を貰った彼は、特に行く当てもなく城下町を歩き回り、そこで買った携帯食を近くのベンチに座って無言で頬張っていました。
「・・・」
そのとき、町ゆく人達が何やら同じ話題で会話をしながら過ぎ去っていきます。耳の良い彼はそれを全て聞き分けていました。
「イヤァ! 王子様々だな!!」
「全くだ! 人間共め、いい気味だ!!」
「まさしく正義のヒーローだよ、あの人は・・・」
「僕、獄炎鬼さん見たいに強くなりたい!!」
「ええ、きっと坊やならなれるわよ。」
勝手に次々と耳に流れ込む声に、ルーズは煮えたぎるように怒りが湧き上がり、下がっていた頭の目を血走らせます。
『何を・・・ 言ってるんだこの人達は・・・』
ルーズの頭に事件の時、そして部屋に入ったときのフィフスの様子を思い出しました。そこに、風に煽られたその日の新聞の見出しが目に入ります。
<『最悪の強敵を前に、第三王子フィフスが正義の鉄槌を下し、見事に壊滅させた。』>
この記事に彼は思わず手に持っている携帯食を無意識に握り締めてしまいました。
『勝手なことを・・・ 誰もそのときの王子の姿を見てないくせに・・・ そうか、王子はこれを一人で受けて、それで・・・』
そのとき、ルーズはフィフスの苦しみの理由について少しだけ分かったような気がしました。
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「ルーズ? 大丈夫か?」
ルーズはつい思い出したことに深く入って話が止まっていたことに気が付き、顔を易しく作って振り向きました。
「何でもありません。少し疲れが出たのかもしれませんね。」
と言い張るルーズ。しかし声をかけた鈴音も瓜も、話が止まっていたときの彼の顔や腕の震えから、このことに対する『怒り』、そして『悔しさ』を間接的に感じました。
そのために話の続きが聞きづらくなったそのとき、三人は後ろから声をかけられました。
「お~い! お前ら作業は終わったか?」
三人が振り返ると、別の作業を終えてやって来たフィフスがこちらに向かって歩いていました。
「小馬ッチ、もう終わったのか?」
「おう。それと、さっきドクターから連絡があって、お前らに伝えに来た。今回の仕事はここまでらしい。」
フィフスの坦々とした言葉に分かりやすく顔をしかめます。
「エエッ!? なんか色々とモヤモヤしたままだぞ!!」
「そう言うなよ。でもま、きな臭いのは事実っぽいけどな・・・」
「「「?」」」
三人が疑問を浮かべると、フィフスは頭を軽くかきながら面倒くさそうな顔をしました。
番外編のストーリー この中でどれがいい?
・ギャグ短編集
・キャラクターの過去の話
・R18関係
・そんなんいいから新作
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