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第282話 一撃で決める

 瓜にことわりを伝え、謎の態勢になったルーズ。刹那の瞬間、以津真天の能力の正体について思い返していました。


 『もし僕の予想が当たっているのなら、あれは以津真天の能力ではなく『契約制限』。強制的に体が液状化され、周囲の固形物に触れることが出来ない。


  それならば攻撃が通らないことも、同時にわざわざ千年モグラを囮としたことにも説明が付く。』


 その考え事の途中、以津真天の変化した雲は再び風針を雨のように撃ち出し、先に感知した彼は瓜を攻撃範囲外に押し出して自分も走り出しました。攻撃は彼の用を追いかけていきます。どちらも感知が出来ると知って戦闘員のルーズを潰しにかかったのでしょう。


 その闘争の最中も当の彼は考え事を止めていませんでした。


 『おそらく本当の目的は花さんを攫うことではなく、花さんの仕事を妨害して彼女を休業に追い込むこと! 千年モグラを目立たせたのもそのため!! 危うく僕らは魔革隊の策に乗せられるところだったようだ・・・


  だが種が分かればこちらのもの! この技ならいける。後もう少し耐えれば・・・


  ・・・決める! 一撃で・・・』


 一瞬構えている両手に除き、思考を巡らせながら構えを解かず走り続けるルーズ。勘が鋭いこともあって敵の攻撃を敏感に察知しながら避け続けます。


 以津真天は雲になりながらも視覚はあるようで、器用に攻撃をよけ続け、何か重要そうに構えを解こうとしない彼を見てこちらも考えます。


 『人狼め・・・ 何か企んでいるな? ならば!!』


 以津真天はそこから更に攻撃の数を増やしてルーズを攻め立てます。これも彼にはそのままかわされてしまいますが、以津真天の狙いは別にありました。


 『かかったな! 無理矢理にでもその構えを解かせてやる!!』


 以津真天はこの攻撃でルーズを瓜から離し、彼女に向けてわざと音を立ててより威力の大きい風針を飛ばし、ルーズの意識をそちらに向けようとしたのです。


 『何をする気だったのかは知らないが、これで発動は阻止された。』


 などと高をくくっていた以津真天でしたが、彼の予想に反してルーズには一切焦る様子がありません。当然彼が助けなかったこともあり、風針が降り注いで瓜のいた場所が轟音と煙幕が起こりました。


 これを見ても表情を少しも変えないルーズに、以津真天は姿を魔人に戻し、高みの見物を決め込む見下した目で、どうにか彼に揺さぶりをかけようと挑発の言葉をかけます。


 「まさか女を見殺しにするとは・・・ いいのか? これでは私を倒しても取り返しが付かないぞ?」


 以津真天もまた体の形を上手く維持できず、段々と雲に戻っていきながらもルーズの動揺を見ようとします。ところが、彼はそれを言われて気が動転するどころか、以津真天の方すら見ずに立ち止まって構えを続けていました。


 彼の様子を見て逆に痺れを切らした以津真天が怒鳴りかけてきました。


 「なんとか言ったらどうだ!? それとも悔しくて喋りたくもないか!!?」


 大声が響き、以津真天の体の半分が雲に戻ったとき、ようやく彼は口を開きました。


 「危ないのなら助けますよ・・・ ですが、あの程度の攻撃ではそんなことをする必要はありませんので。」


 「あ?」


 以津真天は彼の言っていることを理解できません。ルーズがギリギリで回避している攻撃を、この世界の人間である瓜に回避できるわけがないと踏んでいたのです。


 そんな相手にルーズは尚も視線を向けることもなく、簡単に話しました。


 「この場には、僕以外にも足が自慢の奴がいますので・・・」


 「ッン!?」


 以津真天がルーズの言うことにまさかと思って雲に戻りかける頭を動かして辺りを見回すと、この場から少し離れた所に、元の姿に戻ったユニーの背中に乗る瓜の姿があったのです。


 以津真天はそこで瓜の無事の姿を見たことよりも、彼女が乗っているユニーの存在に驚いているようでした。


 「ユニコーンだと!? 馬鹿な!! 何故ユニコーンが人狼の味方を・・・」


 目の前の現実に逆に気が動転させられた以津真天。その間にルーズの手の中には、一つのクナイに似たものが出来上がりました。


 彼はそれを右手で掴み、動きの止まっている雲に一直線に投げました。ユニーに注意を向けていたために気付くのに遅れた彼ですが、今の自分の体にこれを受けても痛くもかゆくもありません。


 「無意味なことを。この体はものを掴むことこそ出来ないが、その分お前達の攻撃が私に当たることもない!!」


 「でしょうね・・・ ですがこれならどうでしょう。」


 「何?」


 ルーズの意味深な言い回しに以津真天がもう一度クナイの当たった箇所を見ます。するとそこには空中で止まっているクナイ、そして・・・


 「ナッ!?・・・」


 そこを中心として風が放たれ、雲の一部に風穴が空いていたのです。


 「これは!!・・・」


 クナイから出る風はどんどん強くなり、それだけ風穴も強くなっていきます。以津真天はそこでようやく危機感を感じました。しかしもう遅く、風穴は彼の体の半分を消し飛ばしていました。


 あまりの事に以津真天は体を戻して逃げ出そうとしますが、今の彼には頭しか戻すことが出来ません。その頭も必死な形相で固まっています。


 「ガァーーーーーーーーー!!! 嫌だぁーーーーーーーーー!!!」


 抵抗する以津真天でしたが、それもむなしくクナイの風の圧力に押されてそのまま頭を引き裂かれながら木っ端微塵になり、一粒の水滴も残さずに消滅してしまいました。


 断末魔のせいで一気に静まり返り、何処か寂しさを感じるその場で、ルーズはボソッと一言呟きました。


 「終わった・・・」


 ユニーのおかげで安全圏に避難していた瓜が、さっきの断末魔を聞いてそこに戻ってきます。


 「ルーズさん! 大丈夫ですか!?」


 「・・・」


 声をかけられたルーズ。しかし彼はそれに返事をすることもなく・・・





 バタッ・・・





 その場に力無く倒れてしまいました。


 「ルーズさん!!!」

<魔王国気まぐれ情報屋>



モチーフ紹介


・根須


 『親指姫』より野ネズミのおばさん




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