第280話 囮魔人
細い道の中で行なわれた戦闘が終了し、フィフスは剣の炎を消しながら鞘の中にしまいました。一部始終を見ていた鈴音は止まっていた呼吸がようやく再開できたような感覚になります。
「カァ!! ハァ!!・・・」
フィフスは彼女の声を聞いてすぐに近付き、優しく声をかけます。
「大丈夫か? さっきので怪我をしたか?」
妙に丁寧なフィフスの心配に鈴音は息が整うと共に安心より違和感を感じました。
「問題ないぞ。でもどうしたんだ小馬ッチ、そんな丁寧に接してきて・・・ なんだか気持ち悪いぞ。」
ジロジロと鈴音に怪我が無いか確認しながらフィフスは話を続けます。
「いや、ルーズからそれについてホントコンコンと言われててな。破れば俺輪切りにされちまうからよ。」
「そんなに!? 小馬ッチは異世界ではルーズの主人だったんだぞ! そこら辺の配慮は・・・」
「アイツはガキの頃からキレると厄介なんだよ。ついでに言うと俺が向こうでやんちゃしまくってたことで鬱憤溜まってるだろうしな。」
「そこを直せばいいんじゃ・・・」
鈴音は頭に一筋の冷や汗をかいて呆れかえってしまいます。ですがどうであれ千年モグラとのことに決着が付いたことに言及します。
「でも! もうこれで花さんを襲っていた魔人も倒したんだし、一件落着だぞ。」
焦るフィフスに励ます鈴音でしたが、彼はその言葉に急に声のトーンを暗くし、目付きを細くして返事しました。
「そいつはどうかな?」
「えっ?」
鈴音の無事を確認し終わったフィフスは彼女から少し離れ、体を反対方向に向けながらあっさりと鈴音にとって驚きのことを言い出します。
「おそらく千年モグラは囮だ。」
「エェッ!!?・・・」
フィフスは、これまで戦っていた千年モグラは自分達の意識を向けるための囮であると予想していたのです。
「な、なんでそんな・・・」
「アイツの動きに最初から違和感があったからな。目立ちすぎている。」
フィフスはが鈴音に説明したのは、ここまでの千年モグラの行動についてです。確かに一度未遂がありましたが、現れたときには迷わず花を連れ去ろうと最短で動いていました。フィフスにはそれがどうにも、わざと自分自身を目立たせているように見えたのです。
「考えすぎじゃ・・・」
「その時点では思った。だが三戦目のときに、奴を救助しにフログ、魔革隊の管理人が現れた事で確証を得た。今までアイツが契約魔人の手助けなんてしてこなかったからな。
それに、そもそも契約者の願いは花と会って話をすること。だったら花を攫うんじゃなくその男をこの場に連れてきて話させればすぐに済むはずだ。」
「つまり?」
「千年モグラは既に契約を叶えていた魔人。それをカオスに唆されて暴れに来たってトコが俺の予想だ。」
「じゃあ、本当の契約魔人は・・・」
「見えない攻撃の正体。おそらく今頃ルーズが相手取ってるだろうな・・・」
鈴音はフィフスが言うことに不安を覚え、両手を胸の前で握って祈る態勢になりながらルーズと瓜が走って行った方向を眺めていました。
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その心配されている二人。前回と同じく見えない攻撃が上空から降り注ぎ、わざと当たるギリギリに落とされて行動を制限させられます。
「クッ・・・ 瓜さん、お怪我は!?」
「大丈夫です・・・ ッン! バックして!!」
瓜からの唐突な呼びかけを聞いてルーズがバックをすると、今さっき彼の頭があった位置に攻撃が通り過ぎ、その真下の地面に穴が開きました。
「すみません! ありがとうございます。」
瓜が声をかけてのこの行動。二度も起こったことで、彼も瓜のことを気にしてしまいます。
『やはり瓜さんには敵の攻撃が見えている。しかしどうして・・・』
その事を意識しているのはルーズだけではありません。彼女の肩に乗っているユニー。そして、この攻撃を撃っている張本人、フィフスの言う、花を狙う本命の魔人でした。
『あの女、何故私の攻撃の位置が分かる!?』
魔人は自分の体に付いてある、黒い魔石に目を向けました。
『カオスから貰ったこと魔石で、使用時の魔力感知は出来ないはず。それにそもそもあの女は魔人でもない、この世界の人間のはずだというのに・・・』
その魔人は瓜のことを警戒し、目視できない真上に向かって攻撃を飛ばしました。これですぐに原因が不明とはいえ問題は解決する。そう思い込んでいた魔人。しかしその予想はこの瞬間、見事に覆されました。
感知が出来ていないはずのルーズが、素速く動いて彼女ごとその場から離れ、攻撃を回避したのです。
「何っ!!?」
魔人が驚いて続けていた一度攻撃を止めてしまいます。下ではその事に気が付いたルーズが瓜に伝えました。
「収まったようですね。すぐに戻るでしょうが・・・」
「ありがとう、ございます・・・」
瓜は自分の真横に来ていた彼の頭が後ろに下がると、そこにいつの間にか生えている大きな獣耳に目が行きます。
「ッン! ルーズさん、その耳は・・・」
「さっき撮影現場は使えなかった奥の手です。<部分獣化 頭耳> 人狼がより細かい音を拾うためものです。感覚が敏感になるので人混みで無理ですが・・・」
そう、ルーズは耳を獣化することでより敏感に音を拾えるようにすることでこの事態を凌いでいたのです。そのおかげで、謎だった攻撃の正体も分かってきたようです。
「最悪感知は貴方に頼るしかないかもと思っていましたが、これなら安心です。」
ルーズは彼女に背を向けて再び顔を上げます。
「ここからは、こっちの番です!!」
彼は目付きをきつくし、上空全体を睨み付けました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
モチーフ紹介
・千年モグラ
『親指姫』よりモグラ
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