第278話 二人組が二つ
場所の移動が決定してから少し時間が経ったとき。その撮影場所から数台の自動車が出ていきます。その内の一台の中には、運転手と後部座席に人が数人座っています。
それぞれの自動車は途中の道で別れていき、一台だけが細い道に進んでいきます。しばらくの間何事もなく進んでいましたが、より人がいなくなった所にて、いきなり状況は変わりました。
突然上空から大きな岩のようなものが奇っ怪な音を出しながら降りかかり、自動車のボンネット部分に激突してきたのです。
「シャァーーーーーーーーー!!!」
「ドンッ!!」と攻撃の衝撃で大きな音が響き、かかった力に一瞬車体が前のめりになりながらも、どうにか持ちこたえて浮いた後輪が地面に重く、またしても音を立てて落ちました。
車の動きが止まり、自動車を運転していた根須は頭を打って気を失ってしまいます。その運転席の前には、ボンネットを軽々と凹ませた千年モグラがこちらを凝視してきます。
「この車だな?」
千年モグラはそのまま正面のガラスを拳で殴り割り、標的である花を力ずくで連れて行こうとします。
「貰った!!」
しかし次の瞬間、「バカッ!! バカァッ!!!」と後部座席横の両扉が一気に最大まで開き、そこから全く同じ格好をし、深く帽子を被った男女二人組が左右に飛び出し、それぞれ正反対の方向に走り出しました。
「何っ!?」
千年モグラは焦ります。全く同じの格好の上、顔を隠されてしまえばどちらに花がいるのか分かりません。どちらが本物なのか目を配らせましたが、女の顔は見えません。
「面倒な!」
千年モグラはボンネットに突っ込んでいた右腕を引き出し、砂雹を広範囲に振りまくことで妨害しにかかりました。
『来たか!』
四人はどちらも男の方が前に出て防ぎます。しかしその動きで千年モグラは男二人の違いを見抜きました。
『左の男、石になったように固まったな。あのオオカミと同じ・・・ もしそれが奴の契約制限なら、アイツに女優は守らせないはず! なら!!・・・』
千年モグラはまたも逃げ出した四人の内、彼から見て右にいる二人の方を一目散に追いかけていきました。それでも二つの二人組はそのままの方向に進んでいきます。
二組は場所を離れていき、逃げ続けます。しかし相手もこのいたちごっこを長引かせる気は毛頭ありません。
千年モグラは自分の真下の地面に穴を掘り、そこから素速く地中を進んで男の前に姿を飛び出させることで、もう一方は先導していた男の目の前の地面にさっきの撮影現場のときと同じ小さな穴が空き、相手の足を止めました。
『これは!!・・・』
千年モグラは技を構えながら話だし、背中を向ければ撃つと暗に脅しにかかります。
「逃げるのもここまでだ。大人しく女を渡すか、俺に殺されるかを選ぶんだな、獄炎鬼。」
もう一方もそこから囲い込まれるように地面に次々穴が開いていき、ここから逃げる隙が全くない状況に追い込まれてしまっています。
「クッ・・・」
追い込まれ、下手に動けなくなった四人。千年モグラと対面していた男は、帽子を被ったまましゃべり出します。その声は千年モグラの予想通り、フィフスのものでした。
「追い込まれた、か・・・ 果たしてそれはどうだろうな?」
「何?・・・」
同じ頃、もう一方の帽子の男の正体であるルーズも顔を上に向けて話し出していました。
「そろそろいいでしょうかね。このままだとやりづらいですし・・・」
二カ所にいる四人は同じタイミングに顔を覆っていた帽子を外しました。するとそこにいたのは・・・
「ナッ!!・・・」
千年モグラの前にはフィフス。そして花かと思われていた彼の後ろには、鈴音が少々震えながらもグッとこらえて千年モグラを見ていました。このことに彼はこう考えます。
「まさか! 人狼の方に女をやっていたのか!!・・・」
「残念だが、それも違う。」
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千年モグラが向かわなかったもう一方の二人組。男の方は彼の予想していたとおりルーズ。しかしそちらの後ろにいた女は、花ではなくユニーを右肩に乗せた瓜がいました。
「隠し事はここまででいいでしょう・・・」
「はい!・・・」
二人は素顔を晒した途端に上を向き、ルーズがそのまま瓜に語りかけます。
「瓜さん、無理はしないでくださいね。これ以上貴方が怪我をすれば、最悪勝っても僕が王子に燃やされるんで・・・」
「そんな物騒な・・・」
瓜はルーズの台詞に思わず苦笑いをしてしまいました。
そして本物の花。彼女は車ではなく、別のバイクの後ろに乗って次の仕事場に向かっていました。そのバイクを運転していたのは、フログの件で戦線離脱した白兎です。
「ホンット今回人使い荒いよな~・・・ 後でドクターにクレーム言っとこ。」
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視点が戻ってフィフス側。彼から説明を聞いた千年モグラは簡単にはめられてしまったことに苛立ち、白目を血走らせて声がドスがキツくなります。
「貴様・・・」
フィフスは後ろの鈴音に前を向いたまま注意をかけます。
「鈴音、出来るだけ俺から離れるなよ。お前が怪我すると、俺がぶち切れたルーズに物理的に引き裂かれるからな。」
「怖いこと言うなぞ、小馬ッチ・・・」
若干鈴音の目線が細く暗くなりましたが、フィフスはそれを気にせず、背中に隠していた剣を出し、刃を引き抜いて千年モグラに顎を引いた目線を向けました。
「今度こそ、蹴り付けようじゃねえかネズミもどき。」
「獄炎鬼・・・」
お互いに殺気のこもった睨みを効かせながら膠着状態に入りました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・またしてもゴタゴタの中でしれっと服をパクっていくフィフス
フィフス「二人組で揃う服って案外難しいな・・・」
ルーズ「当然のように犯罪犯さないでください一国の王子が。」
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