第273話 花と謎の男
フィフスとルーズが校舎の方に向かって行ったことで人手が減っていた撮影現場。こういう作業をすることのない素人二人が、その場のスタッフ達と共にどうにか怪我人の手当てをしていました。
「はい、応急処置だけど、これでどうにか止血は完了だぞ。えっと、他に怪我をしてる人は・・・」
丁度一人手当てし終えた鈴音ですが、その場を立ち上がって周りを見回し、まだまだいる怪我人に気が滅入りそうになってしまいます。
「こ、こんなに・・・ ああもう!! 何処行ったんだぞルーズ!!」
あまりの数に彼女はついルーズに文句を叫んでしまいます。そこを瓜が左肩を掴んで諫めます。
「あ、ごめん・・・」
「いえいえ・・・」
二人がそこからも次々怪我人の手当てをしている中、同じく素人手つきで手当てしていた花も右往左往としていました。
『こんなにたくさん・・・ これも、魔人が私を狙ったからなの?』
花が内心もやついて手を動かしてしまい、つい力加減を間違えて強く包帯を絞めてしまいます。
「イッタ!!」
「あ、ごめんなさい。」
「いえ、自分なんかが、花さんのような人に手当てしてもらえるだけで、とても贅沢な話ですよ。」
そのスタッフはへラッと笑って見せます。おそらく落胆していた花を励ますためなのでしょう。彼女もそれに応えて小さな笑顔を返します。
その人の手当てを終え、次の人に移ろうと彼女も周りを見回します。すると彼女は、バタバタと動き回るスタッフ達の中に、一人だけ不自然な動きをしている人がいることに目が行きました。
「あれは・・・」
花はその人が気になってしまい、距離があったため目を懲らしてその人の顔を見てみます。そして正体が分かると・・・
「ッン!!・・・」
花は言葉を失って目を大きく丸くし、その足を自然と怪我人ではなく、その人の方に向けて走り出していました。
途中、彼女とすれ違った瓜と鈴音は、一瞬見えた彼女の表情とその焦りぐわいに振り向いて声をかけてしまいます。
「花さん!?」
「どうしたんだ!? あんなに焦って・・・」
気になった彼女達はお互いを見てアイコンタクトをして一度頷き、側にいたスタッフを置いて走って行った花の後を追いかけていきました。
「オイ君達!?」
「すみません! 後でちゃんとやるので!!・・・」
二人にとっては幸い、花にとっては災難なことに彼女は今撮影用の衣装としてヒールの硬い靴を履いていたために、走っても思うようにスピードが出せず、後ろ二人に追い付かれてしまいました。
「花さん!!」
「何かあったんですか!?」
「あ、いや・・・」
花が返答に困っていると、距離を離しながら走っている男が近くの建物の中に張っていくのが見えます。花もすぐに建物の中に入り、二人も事情の分からないまま彼女に着いていきます。
男はしばらく走り続けた後、その建物の非常扉から外に出ようとしてもたついてしまいます。そこに追ってきた三人が到着し、先頭にいた花が走り疲れで息を切らしながらその男に大きな声で呼び止めます。
「まっ・・・ 待って!!・・・」
男はドアノブを動かす手を止めないながらも声に反射的に反応してしまい、扉が開いて日の光が差し込むその一瞬だけつい花たちの方に顔を向けてしまいました。
「「ッン!?・・・」」
その人の顔を見て、瓜と鈴音はそれぞれ別の意味で驚きました。鈴音は、男の顔に見覚えがあったのです。
『あの人! 確か前のCM撮影現場の入り口にいた・・・ での何でここに!?』
鈴音が見たその男の顔は、中止になってしまった彼女と花によるCMの撮影現場にて、その場のスタッフと話をして帰って行った、あの青年でした。
対して瓜は、その男の顔ではなく、光が差したことによって、さっきまでは分かりづらかった者がハッキリと見えていました。
『あの人・・・ 体から黒いオーラが・・・ あれは一体・・・』
瓜が見た男の周りには、彼女がさっき見た黒い雨のその黒色と全く同じ色のもやのようなものが見えていました。しかし横にいる二人がそれについて何も触れないことから見て、今回も見えているのは彼女だけのようです。
それぞれが見たことに驚いている内に男は何か後ろめたさを感じてるような表情を浮かべながらも、掴んでいたドアノブをそのまま捻って扉を開き、外に出て行きました。
三人も少し遅れて扉から外に出ますが、そこにさっきまで追いかけていたあの青年の姿はもうありません。上手くまかれてしまったようです。
「・・・」
鈴音が真っ先に気になった花に視線を向けると、彼女はショックを受けたそうな暗い顔になって頭を下に向けていました。
しかし彼女の見張りの立場でもある鈴音としても、このまま同情に駆られて聴けなくなるのはいけないと、心を厳しくしてそんな彼女に率直に質問を飛ばします。
「花さん、あの人と知り合いか!?・・・」
「・・・」
その質問に花は答えてくれません。というより、またしても人の話を聞いていない様子です。彼女は無言を貫いたまま後ろを向き、来た道を戻り始めました。しかしそのとき・・・
パキッ!!・・・
「痛っ!!・・・」
走り続けたことで限界を迎えた花のヒールが折れてしまい、彼女を転倒させました。瓜と鈴音はそんな姿に殺気感じたもやつきが一時吹っ飛んでしまい、とにかく彼女の肩を組んで立ち上がらせました。その事でようやく彼女は二人の存在に気が付いたようです
「貴方たち、なんでここに?」
「今更気が付いたのか!?」
「ずっといましたよ?」
二人は反応に困りながらも、そのまま花を引き連れて元の場所にまで戻っていきました。
<おまけ>
・もし瓜がこの台詞を口で言っていたら
瓜 「あの人・・・ 体から黒いオーラが・・・ あれは一体・・・」
鈴音「マッ! マッチー!?
・・・突然の中二病か!?」
瓜 「違います!!」
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