第270話 重大シーン
念のためウインチハンドのワイヤーで拘束した後、白兎はスーツを脱いで自画自賛をしていました。
「アッ・・・ ガガッ・・・」
「フフン! 新しく作った初めて使ったけど、結構いけるなこのスタンガン。さっすが俺!!」
「ゴツい体の魔人をこうも簡単に気絶させるとは・・・」
フィフスが白兎の隣に移動して関心の言葉を上げると、白兎は自慢げに顔を近付けて意気揚々と話し出しました。
「いいでしょう! この俺の天才的発明品!! これぞドクターの一番弟子の実力ってもんだ。」
「ドクターの一番弟子? お前がか?」
「そ、俺は色々あってドクターに拾われた身でね。そこであの人に教わった技術を応用して、俺の装備は作られてる。」
「つまりお前のスーツ一式はドクター製じゃないのか・・・」
フィフスは白兎について今だよく知りません。特に影鰐と戦ったときに言っていた『人工魔人』という言葉の意味について気になっていましたが、撮影場所に瓜達を残して勝手に来ていたため、この場に長居をするわけにもいきませんでした。
「俺はそろそろ戻る。この事態はルーズしか知らねえしな。」
「下痢が止まらなかったで誤魔化しとけばいいんじゃない?」
「子供か! もっとましな言い訳を考えておく。」
楽しそうに会話をしていた白兎ですが、撮影場ホに戻ろうと歩いて行くフィフスの背を見ながら声のトーンを下げて語りかけてきます。
「ならもう素直に話しちゃえば?」
「俺がここに来られた理由を話せばアイツら、特に瓜に無駄な不安を与える。だからこれでいいんだよ。伝えて出くわしたから倒したってトコだな。」
そのままフィフスは人気のない校舎を出て行きましたが、白兎は息をついて彼に対する言葉を小さくこぼしました。
「過保護だなぁ・・・ 確かに町田には耳に入れたくないことだろうけど。」
彼は次に床に拘束されたまま伸びきっている千年モグラに目を向けます。
「さて・・・ どうやって穏便に運びだそうか・・・」
新たな疑問に頭を悩ませていました。
______________________
フィフスが一仕事終えて撮影現場に戻ると、スタッフ達も役者達も準備を整え、もう撮影が始まるといったところでした。
「よお、戻ったぞ。」
「あ、小馬ッチ遅かったな。結構お腹が痛かったのか?」
「ああ、なんとか収まった。全くこう言うときに勘弁して欲しいよな。」
するとルーズが呆れ口調で目を細めて話に入ってきます。
「こっちの台詞ですよ。もし千年モグラが現れたら貴方しか対応できないんですから・・・」
「大丈夫だって、トイレの後すぐ見つけたからボコっておいた。」
「「エエッ!!?」」
瓜と鈴音はフィフスがしれっと言った事に大口を開けて驚きました。
「た、倒しちゃったんですか!!?」
「おう、この仕事ももうじき終わりいてことだ。例の女は?」
「エデンの職員が連れて行ったぞ。あの人、この前のニュースで心を痛めたのが原因だったようだぞ。」
「ニュース?」
鈴音は自身のスマートフォンで調べ上げ、出て来たネットニュースをスマートフォンごと手渡す形でフィフスに見せます。
「人気ドラマのカップルが現実に? 『日潟 エル』と『親指 花』の熱愛発覚。」
「少し前にこれが出たんだぞ。実際ショックを受けた人が多いのはなんとなく分かってたけど、まさか実際に襲撃に来るなんて・・・」
フィフスは無言でニュースの下にあったコメント欄を見ていました。どちらかというとコメントは賛美の方が多くなっています。
「大好きな二人がくっついて最高!!」
「子供美形確定だこれ」
「さっさと結婚しちゃってください!!」
フィフスは一覧を見終わると、鈴音にスマホを返しながら彼なりの感想を言い出しました。
「この世界ではこんなことをデカいニュースにするのか? 王族の事でもないのに。」
「ま、まあ皆興味があるから。」
「下世話な話だなぁ。こんな事よりもっと伝えるべき情報があるだろ。」
文句を言うフィフスにルーズが会話に横槍を入れてきます。
「人は興味を持たなければまず情報を見ませんからね。どうであれ見て貰わなければ、情報会社も食べていけませんし・・・」
「それで肝心なことより興味を引くことを優先して出してるって事か。なんともむなしい話だな。」
「貴方がそれを言えた義理ではないと思いますが。」
フィフスはルーズのオ下のある言葉に眉をピクリと動かし、少し不機嫌になって話の話題を変えました。
「しかしどうにしろ、無事に撮影が出来そうでよかった。」
「本当だぞ! なんせクライマックスシーンだからな!!」
そこから鈴音は魔人の妨害もなくなったからかテンションを上げて語り出します。
「そう!! 最初に約束を誓った桜の木の下、成長した二人はてここで会い、また約束を誓い合う!! ヒロインの『君を信じてよかった。これからも・・・』って台詞が印象的なんだぞ!!!」
「えらい熱く語ってくるな・・・」
「鈴音様は原作からのファンですので・・・」
その後ルーズが鈴音を落ち着かせ、瓜の隣に引っ込ませます。それでも目を輝かせて前を見ていると、ルーズが修復した衣装を来た花も現れ、いよいよ撮影が始まろうとしていました。
カメラも構えられ、いよいよ監督からの合図がかかりました。
「ハイッ! それではよーい・・・ アクション!!!」
・・・と監督が叫び、花が台詞を言いかけたその瞬間でした。
「痛っ!!」
突然演技をし始めたはずのエルが右肩を押されてその場に崩れ落ちてしまったのです。
「ッン!?」
何事かと監督がカメラをすぐに止め、スタッフが駆け寄ろうとします。すると今度はそのスタッフ達も、突然体のどこかに激痛を走らせ、何人かにいたっては転倒したり、足を押さえ込んでる人もいました。
「コイツは・・・」
撮影現場は、予想だにしないことによって一気にパニックになってしまいました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・鈴音から借りたスマホで花へのコメントを見続けるフィフス
フィフス「オーオーオー・・・ 画面を下へ下げれば下げるほど言葉が出てくる。ホントにきりがない ぞこれ・・・」
今だネットの扱いについては初心者
よろしければ、『ブックマーク』、『評価』をよろしくお願いします。