第268話 切られた衣装
フィフス達はそこから素速く花の待機場所に入り、そこですぐにドラマ撮影用の衣装に着替えさせるために男性陣は部屋の外に出ていました。
「既に中に忍び込まれていたらアウトだろ、これ。」
「プライバシーの侵害はよくありませんよ。」
ルーズがフィフスの肩に右手を置いて説得する中、根須がクローゼットを開いて中身を確認しました。しかしその途端彼女は・・・
「ナッ!!・・・」
と思わず声を出すほど驚いてしまいます。何事かと瓜達もクローゼットの中を隣から覗き見ると、そこに入っていた花の衣装は全て何かの刃物で引き裂かれていました。
「これって・・・」
「どうしました!?」
大声を聞きつけて勝手に入ってきた男性陣。花自身も衣装の状態を見て言葉を失ってしまいます。
「・・・」
フィフスとルーズがそれを見て、何やらアイコンタクトをします。その次に瓜がフィフスに質問をしました。
「もしかして、これも魔人が?」
「さぁな、ルーズ。」
フィフスは真剣な顔になって呼びかけると、ルーズが一度彼を見て頷いてからからその場から出て行き、耳に入った不可解な音を頼りに走って行きます。
『準備に急ぐ人達の中、一つだけまだ近くに不自然に走ったり止まったりしている。呼吸も焦っているように妙に荒い。』
ルーズは自慢の素早さも相まってすぐに人混みの中、めぼしい人物の後ろ姿を見つけました。分かりやすく息切れをし、よく見ると首筋に汗が流れています。
「あれか。」
しかしここで向こうも追っ手が来ていることに気付いたようで、わざと人混みの中に紛れ込んで難を逃れようとします。
『この中を突っ切れば、もう・・・』
ですがその人の考えはとても甘かった。相手が普通の人ならばまだしも、追ってきているのはそんな人よりも遙かに感覚、そして機動力の優れたルーズです。ただ歩いている人だらけの中一人だけ焦っていれば、彼にとって探知はお安いものです。その結果、犯人が人混みを抜けて出たその場所で・・・
「待ってましたよ。」
先回りされていました。その人はあまりの早い対応に驚きながらもすぐに後ろを向いて人混みの中に戻ろうとしますが、それをルーズが許すはずもなく、右手首を捕まえられ、そのまま床に押さえつけられてしまいました。勢いに顔を隠す為に被っていた帽子も落としてしまいます。
「クッ・・・ グゥ・・・」
ルーズは抵抗するその人を抑え続けながら、冷静に見た目から情報を取ろうとします。
『女性? 抵抗はしているが体に変化の様子はない。やはり千年モグラではなかったようだ。だとすると何故こんな・・・』
尚も暴れているその女性は、いつの間にかポケットから何かが飛び出て地面に落ち、音を鳴らします。ルーズが力を緩めず視線だけそこに向けると、ペンタイプのはさみと、小さいキーホルダーがありました。
「あれは・・・ なるほど、そういうことですか・・・」
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そのままルーズに連行された女は、根須の元に突き出されました。
「なんてことをしてくれたんですか!! 貴方のせいで花は!!」
部屋の隅では女子二人と何か作業をしているルーズ、そしてそれを待っている様子の花がいました。鈴音は小さい声で彼に聞きます。
「あの人が魔人の契約者なのか?」
「今回のことの犯人であるのは、間違いないかと・・・」
「というか、さっきから何してるんだルーズ?」
「衣装の手直しです。幸この程度の損傷でしたら後数分で修復できます。」
「「エエッ!?」」
女性二人は驚きました。花の衣装の損傷は、正直言って何度も切り裂かれてボロボロになっていましたが、匠の手によりあっという間に綺麗に直されていました。
「誰が匠ですか!」
「いや、誰に突っ込んでんだぞ?」
ルーズがどこかあさっての方向に突っ込んでいると、根須が捕まえた女に動機を聞いている頃でした。
「どうしてこんなことを!?」
口を割ろうとしない女に、修理の最中のルーズがそのまま冷たく言います。
「分かりやすい嫉妬ですよ。この通り。」
ルーズは一つ修復を終え、そのときにポケットから先程拾ったキーホルダーを回りに見せます。そこには、日潟 エルの写真が載っていました。見せびらかされたことに女は動揺します。
「それは!!」
「日潟 エルのキーホルダーだぞ。」
「エッ・・・ つまり・・・」
一行が女に注目すると、女は恥ずかしさに顔を真っ赤にして机を叩き、開き直った大声を出しました。
「そうよ! 悪い!? いくらドラマで共演できたからって、アンタみたいな奴にエルは似合わないのよ!! 今すぐ分かれて!!」
そう言いながら往生際が悪くものを落としてない方のポケットから別のはさみを取り出して半狂乱になりながら花に攻め立てます。
しかしルーズがこれを予想していないわけがなく、武器を構える前に女は床に再度叩きつけられ、気絶しました。
「カハッ!!・・・」
「乱暴はよくありませんよ。ま、自分が言えた義理ではありませんが。」
魔人がらみの事件の手がかりということもあり、その後女はやって来た警察に扮したエデンコーポレーションの職員に連行されていきました。
その様子を見届けながら三人は話をしています。
「まさかエルさんのファンが契約者だったなんて・・・ 例のニュースで相当心を痛めたのかな?」
「これで、進展があるといいですが・・・」
鈴音は瓜の声を聞いて、その隣に彼がいないことにようやく気が付きました。
「あれ? マッチー、小馬ッチは?」
「ルーズさんが戻ってすぐに、お手洗いに・・・」
「トイレ!? これの状況で!!?」
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その話をされている当の本人。彼は今誰かと電話をしながら、撮影場所からほど近い場所を歩いていました。
「ああ、後は俺が引きつける。」
電話を切るフィフス。その左手には、小さなメモが握り締められていました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・ルーズが衣装の修復が上手い理由
ルーズ「そりゃ、主人があんなのだったら上手くもなりますよ。」
フィフス「あんなのってどんなのだ?」
ルーズ「分かってるでしょうに・・・」
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