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第267話 日潟 エル

 それからしばらくして撮影現場から出て来た一台のロケバス。赤信号で止まった何の変哲もないこの車の後部座席には、黒いスーツにサングラスを付けたおませな臨時マネージャー四人が並んで座っていました。


 「全く、僕にもマネージャーとして潜入して欲しいんならそう言ってください。紛らわしい・・・」


 「解釈の問題だろ。予備でスーツ用意しておいてよかったな。それより俺が気になるのは・・・」


 フィフスのサングラス越しの視線には、ルーズの更に右に瓜用の予備のスーツを着て乗り込んでいる鈴音がいました。


 「まさかお前も付いてくるとはな。」


 「ルーズも呼ばれたし、偶然とはいえ、乗りかかった船だぞ。ここまで来たら最後まで・・・」


 膝の上に置いていた拳を握って気合いを入れる彼女。フィフスもこれを見て特に文句を言うことはありませんでした。


 「分かったよ。俺も瓜を連れてる身だしな。ただし、危ないことはするなよ。」


 「こ、心得てるぞ・・・」


 鈴音が少し硬い態度で返事をし、車は動き出して一行は花がヒロインをしているドラマの撮影に向かうことになっています。しかし移動中もルーズは、フィフスに何故今回戦闘に置いて役に立たない自分を再び呼んだのかについて聞こうとします。


 しかし彼が顔を向けると、話し出す前にフィフスが何やら口を小さく開いているのが見えました。すると彼も質問をするのを止めて、姿勢を元に戻します。


 「ルーズ?」


 「何でもありません。」


 話が途切れた一行は、次にフィフスの質問からそれを再開させます。


 「そういや、これから撮影しに行くドラマってどんなんなんだ? ジャンルによってはこっちが動きづらくなる。」


 その質問に、残りの三人が揃って絶句しました。フィフスもあまりの沈黙に動揺してしまいます。


 「え、何? 何この沈黙!?・・・」


 「ゴー君・・・」


 「ホントに流行りに疎いんだな・・・」


 「この方、世間に流されないというか、我が強い性格ですから・・・」


 「うるせえ!」


 何かとガヤガヤしている後部座席をバックミラーで見ながら、車を運転している根須はそこに聞こえない程度にため息をしました。


 「ハァ~・・・ 遠足の引率になった気分だわ・・・」


 一気に老け込んだような感覚になる彼女に隣の席に座っている花が苦笑いをしながら彼女をなだめる声をかけました。


 「まあいいじゃないですか。何事もなくても、人手が増えたと思えば・・・」


 そこからフィフスは三人による説明を受けながら次の場所へと到着し、車から降りていきました。


 「『君を信じています』通称『君信』。大ヒットした少女漫画を原作にしたドラマで、視聴率もうなぎ登りの作品なんだぞ。花さんもそうだけど、主演俳優もすっごい人気なんだぞ!」


 「私も、この前テレビで見てましたけど・・・」


 フィフスはそう瓜に言われて思い出しました。彼が丁度彼女から貰ったブレスレットをなくして必死にリビングで捜していたとき、後ろで何を見ているのは知っていましたが、どうやらそれが鈴音の言う『君を信じています』だったようです。


 「ああ、あれか。」


 「全く、流石に少しは知っていないとマズいですよ。」


 呆れて目線を下げるルーズ。四人がそのまま花と根須に付いていく形で先に進んでいくと、先に現場入りしていた俳優とそのマネージャーに会います。


 「おはようございます。」


 社交辞令として挨拶をする前二人に会わせ、後ろ四人も頭を下げます。相手側も軽くお辞儀し、話しかけてきてくれます。


 「おはようございます、マネージャーさん、本日のことで・・・」


 「はい。」


 マネージャー二人が事前の打ち合わせのために話をしている中、相手側の俳優が花で頃か奥の四人の所、特に緊張しきっている瓜と鈴音に話しかけてきました。


 「大丈夫ですか?」


 「「エッ?」」


 鈴音はその人の顔を見て驚きのあまり息を止めて固まってしまいます。自分から目の前に現れたのは、このドラマの主演である俳優、『日潟(ひがた) エル』だったのです。


 驚きと衝撃でまともなコミュニケーションが取れなくなっている女性陣の代わりに男性二人が前に出てエルと話しました。


 「すみません、心配させてしまいましたか?」


 「あ、いや・・・ 顔色が悪い気がしまして・・・ 間違いだったらすみません。」


 「いえ、お気遣いありがとうございます。二人はこういう場になれていなくて、緊張しているだけですので・・・」


 「そうですか。はやく肩の荷が下りるといいですね。」


 するとエルは自身の右手を差し出してきました。


 「申し遅れました、自分、このドラマの主演をやらせて貰っています、『日潟(ひがた) エル』です。あなた方は?」


 そこに花が入り、事情を説明してくれました。


 「私の臨時マネージャーの人達です。新人でして、研修に・・・」


 「小馬です。」


 「岡見です。後ろの二人は日正と町田です。」


 二人はその手に交代で握手しながら自己紹介をしました。エルは手を戻すと、一言添えてきます。


 「それでは僕はこれで。お仕事、頑張ってください。」


 「「は、はい・・・」」


 「親指さんも、頑張りましょう!!」


 いつも見ている二人とは違う爽やかなイケメンに完全に見惚れながら二人は小さく手を振り、エルも軽く頭を下げて去って行きました。


 その後事務所の方にも連絡をしてから根須も戻ってきたため、一行はそのまま花を衣装に着替えさせるために移動することになりました。移動中の女性陣の間でエルの話が盛り上がっています。


 「テレビで見るまんまの爽やかイケメンだったぞ。」


 「ですね。」


 「ンッ! ンンッ!!・・・」


 気が緩んでいるのを見てルーズがわざと咳き込み、二人の気を引き締めました。


 そう、敵はいつ襲ってくるのか分からない。事実次の襲撃は、この後すぐに起こってしまったのです。

<魔王国気まぐれ情報屋>


・君を信じています


 瓜達のいる世界で大ヒットしている少女漫画。


 幼い頃に引っ越していった主人公と、そこに残ったヒロインとの間に結ばれた結婚の約束から始まる恋愛話。王道ながらも引きつけられるストーリーに人気を博し、この度テレビドラマが実現した。


 なんでもこの撮影では、主人公が思い出の桜の木の下でヒロインに告白するという重要シーンの撮影だったらしい。




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