第264話 船の上以来
フィフスと千年モグラの戦闘中に突然割り込んできたカオス。丁度二人の間に立ち、目向きもしないまま自分の味方に話しかけます。
「危なかったね~・・・ ここは僕が抑えてるから、さっさと引きな。」
左手を挙げてシッシと振り、帰るように諭します。千年モグラもそれを受け入れ、地面がまたアスファルトになっていたことも利用してまたも地面に潜り出しました。
フィフスはそれはさせまいと動こうとしますが、当然ウォーク兵がそれを防ぎます。攻撃して通ろうかとしますが、実際に見る千年モグラの穴掘りのスピードは予想より速く、瞬く間に逃げ切られてしまいました。
「チィッ・・・」
舌打ちをつくフィフスに広がった穴に近くにいるカオスが上げていた手を下ろして再び気軽に話しかけてきました。
「三月の船の上依頼だね。しばらく居場所が分からなかったけど、元気してた?」
いつもなら聞き流せるこのふざけた調子も、今回ばかりはフィフスにとって非常に効果的な挑発に思えました。おそらく向こうにはそんな気すらないのでしょうが・・・
「あの地獄旅行に案内したのはお前だろ! わざわざそっちの人手を増やすためによくもまあ振り回してくれたなぁ!!」
「お、その感じだと船での僕らの目的については既に知ってるのか。『全部じゃないようだけど・・・』」
「丁度いい、お前にはそのときの件で心底ムカついてたんだ・・・ あのときの鬱憤晴らさせて貰うぞ。」
「血気盛んだねえ・・・ でもやだ、怪我したくないしね。」
カオスはフィフスからの申し出をことわり、魔道書を持っている腕を振り上げ、ウォーク兵を動かしてフィフスに攻撃を仕掛けました。
「・・・だろうと思った。」
するとこうなることをわかりきっていたフィフスはカオスから見て死角に置いていた足を上げ、間合いにまで迫ってきたウォーク兵達に回し蹴りをします。その威力は通常より明らかに高く、軽々とウォーク兵を全員の槍を折りながら胸に浴びせて吹き飛ばして見せました。
「・・・」
「ア~ララ! ウォーク兵がぁ・・・ これまであんなに苦戦していたはずなのに・・・ ん?」
カオスは自分の近くに倒れたウォーク兵の破壊後に焦げた後があるのが見えました。そして前を見ると、目線を下に向けるフィフスの足に消えていく炎があります。
「へえ、足からも出せるのか。」
「<術装伝獣拳 紅蓮猿脚>、少しの準備さえありゃこのくらい余裕だ。千年モグラの穴掘りの速さは予想外だが、ウォーク兵ではもう俺には通じないぞ。」
フィフスが目線を上げて、つり上げた目で正面似いるカオスを睨み付けます。相手にそれに用意核は全く効果がないようで、しゃがみ込んで自分の近くにあるウォーク兵達の残骸を見ています。
「ハァ、参ったなぁ~・・・ ウォーク兵一つ作るのだって結構大変なんだけど・・・」
そんな相手の隙をフィフスは見逃すわけもなく、走って距離を詰めながら放射炎を撃ち出します。しかし炎が晴れたその場にカオスの姿はありません。
「どこへ・・・」
「ほ~んと血の気が多くなったねえ、魔王子君。」
「ッン!!?」
フィフスは声と共にさっきまではなかった何かが触れている感覚が背中に感じます。いつの間にか、カオスはフィフスの少し猫背になった背中にもたれ掛かっていたのです。
少し動揺するフィフスにカオスはウォーク兵達を壊されたからか若干落胆した声で語りかけます。
「君が怒るのは別にいいさ。でも忠告。今回のこと、放っておいた方が、君らが守ろうとしている女優のためだと思うよ。」
「何? どういうことだ?」
「フフッ・・・ それはお楽しみに。君の境遇なら追々分かるさ。」
フィフスは背後を取られていることに背筋を凍らせながらも、一か八かにかけて振り返り様に攻撃を仕掛けました。
『吉で来い!!・・・
・・・ッ!?』
しかしその振り返った先には、カオスの姿はまたもいなくなっていました。
「アイツ、どこに・・・」
彼がもう一度元の位置に首を向けると、さっきまでそこら辺に転がっていたはずのウォーク兵達の残骸すらも一つ残らず消えていました。
「逃げた・・・ というより要は終わったってところか。ふざけあがって・・・」
フィフスはその途端にこれがどういうことかが分かり、その上で拳を握りしめ、表情を一段と険しく変えました。
『俺はまたアイツに・・・ 弄ばれたのか・・・』
フィフスはこれまで会った魔革隊の幹部三人を思い出します。
『遊びほおけてるくせに腹の内が読めないピエロに・・・
切っても切れない上魔人を強化する人魚の女・・・
そもそもこちらを相手とすら見ていない得体の知れない甲冑の男・・・
・・・俺は、まだまだアイツらに太刀打ち出来ないのかよ!!』
怒れるフィフスは拳から血が出たことにも気付かず、その右手を近くのオブジェに叩きつけてしまいました。オブジェは瞬く間にヒビが入って広がり、ボロボロに崩れてしまいました。
それでも気が収まらないまま、フィフスはとりあえず戻ろうと再び撮影現場に戻っていきました。
その様子を、挑発した本人が高見から見ています。
「ハハハ、これまた随分と怒ってるなぁ・・・ いい調子、そのままでいてくれよ、魔王子君。」
短い独り言を口にして、またも彼はそこから一瞬にして姿を消してしまいました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
ウォーク兵を作るカオス
意外と細かく拡張性が必要。
カオス「別の奴の調整が間に合わないや・・・」
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