第258話 鈴音の重大発表
メッセージを送られた翌日、昼休みになっていつもの面々が校舎の屋上に上がると、早速ここに招集してきた張本人が分かりやすく何かを企んだような表情で話し始めました。
「フッフッフ・・・ ようこそ皆さんいらっしゃったぞ!!」
「なんかテンション高いな。」
「それで? アタシ達に言う重大発表って何なの?」
フィフスとグレシアが若干温度差のある声で対応すると、鈴音は隣にいるルーズにアイコンタクトを送り、彼は前に出て説明しました。
「皆さん、鈴音様が以前から『ヤーリューバー』として人気を博していることはご存じですね。」
「ああ~・・・ そういやそんな設定あったな。最近触れられないから忘れてた。」
「メタいわよアンタ・・・」
「それでそれが今更どうかしたか?」
「実はこの度、その活動が功を奏しまして、この度とある飲料企業から声がかかりまして・・・」
「案件動画でも撮るのかよ?」
フィフスの素っ気ない予想の言葉に鈴音がルーズの前に出て自分から話をします。
「チッチッチ・・・ 違うんだなこれが・・・
・・・ジャジャーーーーーン!!!」
鈴音は嬉しそうに一枚の契約書を見せびらかしました。そこには、テレビ放送用コマーシャルの撮影のご案内。つまりそれは・・・
「ウチ、テレビ出演が決まりましたぁ!!!」
紙を引くと共に右手でVサインを送り、嬉しそうな笑顔を見せます。フィフス達連れて来られた面々も驚いて目が点になりました。
「マジか!!」
「驚きました!!」
「フフンッ! 凄いだろう! 凄いだろう!! もっとウチを褒め称えよ~!!」
自慢げに胸を張る鈴音に、ルーズは彼女の肩をポンと叩いて少し高くなっていた鼻を落ち着かせてから他の人達に説明しました。
「どうにも今回の商品は若者をターゲットにしているようで、そこで今若者に人気な『ベルリズム』と、同じく人気女優の『親指 花』の二人による宣伝コマーシャルが決まったそうです。」
「『親指 花』? 誰だそれ?」
フィフスのピンときてないことを表す質問に平次は驚き、瓜とグレシア、ルーズは呆れ、鈴音は苦笑いを浮かべた。
「し、知らないのか小馬ッチ?」
「アンタ本当に興味のないことには疎いわね・・・ 『親指 花』、今とことん芸能界で押されている若手清純派女優よ。このくらい常識で覚えなさいよ。」
「昨日のドラマにも出てましたよ・・・」
「そうなの!?」
「モデルに歌手までやってる超有名人だぞ! お前これはマズいだろ・・・」
「流石に芸能知識に疎すぎですね。少しは身につけた方がいいですよ王子。」
「なんだよ! 寄ってたかって俺ばっかり!!」
フィフスは一つ文句を怒鳴ってからこういう知識に疎い理由を話します。
「だってよ~・・・ 俺若者の流行は鼻くそほじっている間に変わるものって思ってるから、いちいち覚えてねえんだよな・・・」
「アンタ今すぐ全国の若者に謝りなさい。」
話の流れが脱線してきたことに気付いた鈴音は「コホンッ・・・」と小さな咳をして本題に戻しました。
「それで、その撮影が今度の週末なんだぞ。まだいつ放送されるかはわかんないけど、皆には先に言っておきたくてな。」
「本当なら友達でも事前に言うことは御法度ですからね。」
「え? じゃあなんで・・・」
瓜が反射の小声で言った質問に鈴音はそれまで上がっていたテンションを沈めて肩の力を落としてから、ゆっくりと優しい表情になって声を出しました。
「ウチ、知っての通り色々あって、本当はもう全部捨て去ろうと思ってたんだぞ・・・」
「・・・」
「・・・」
「オークにパパとママが襲われて、その原因がウチの動画配信だった。責任を感じて、自分に絶望しきっていたときに、ルーズや小馬ッチ、皆に助けられて、どうにか立ち直れたんだぞ。」
鈴音は少し下に向けていた顔を上げて改めて皆に目を見ます。
「そのおかげでこうして有名になれる大きな一歩を踏み出せた。せめて支えてくれた皆に、お礼が言いたかったんだぞ。」
「鈴音・・・」
「お嬢様・・・」
そして一通り話し終わった鈴音はまたもテンションを上げて再び右手のVサインを出しました。
「というわけで! ウチもルーズも、今週末は張り切っていきたいと思うぞ!! 皆、応援よろしくな!!!」
自然と彼女に流されてこの場お皆が笑顔になっていきます。フィフスは彼女を見て内心少しホッとした感情を持ちました。
『親を襲わせた件から立ち直れているわけじゃないが・・・ 強くなったな。さっぱいい支えになってるよ、俺の執事は・・・』
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御伽高校から離れた全く関係のない場所。そこでは何人もの人が汗をかきながら急いで廊下の左右に荷物を運んでいます。
そんな中、廊下の途中にある一つの部屋に入った若い女性が、その空間の自分から見て左端にあったクローゼットを広げます。するとそれまで黙々と動いていた彼女が突然声を上げました。
「何これ!?・・・ どういうこと!?・・・」
彼女はクローゼットの中身を見た途端に血相を変えて焦りだし、全速力で人を呼びに部屋を出て行きました。
「ギィー・・・」と扉の閉まる音が響き渡る中、取り残されたクローゼットの中には、誰かのために用意されていた綺麗な衣装が全てボロボロに引き裂かれていたのです。
突然の事態に人が集まる中、部屋から少し離れた死角となる壁際から除いている人間とは明らかに違う影が一人ありました。
「・・・」
それは人がある程度集まったのを見計らうと、誰にも気付かれずに後ろに下がっていきました。
と、いうことで今回からまた少し長めの話をさせていただきます。今回は中編ぐらいに考えているので「長篇はやだな~・・・」という人でも気軽に楽しめるようにしたいと思っています。
これからも『魔王子フレンド~私と異世界の赤鬼さん~』をよろしくお願いします。
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