第256話 帰り道
さっきの場所から一瞬にして移動し、どこかに向かって無言で歩いていたフログ。そんな彼に、突然後ろから前触れもなく誰かに話しかけられました。
「随分と余裕をこいてたね、フログ。」
声をかけられたフログは特に驚く様子もなく、無言でいたままの彼にまたその人はハッキリとした声で話しかけてきます。
「そこまで余裕だったんなら、なんで彼らを始末しなかったんだい?」
するとそこでようやく彼は後ろの声の主に冷たい声で質問の返事をしました。
「俺の仕事は組織内の魔人の管理だ。敵対者の討伐は役目の内に含まれていない。」
「お堅いねえ・・・ そんなに真面目ぶってたら、その内ストレスでぶっ壊れちゃうよ。」
「上から指令があればそれに従う。最も、それでやれることなら真っ先にお前を刈り取るがな、カオス。」
フログの後ろにいた声の正体、カオスは自身が脅しをかけられたことを受けて特に危機に思っていないのか、表情の見えない仮面の中の口から口笛を吹きます。
「ヒュ~・・・ お~怖い・・・」
「副リーダーの監視から解放された途端に何度も勝手なことを・・・ 立ち位置が違えば即刻処しているものを・・・」
「そこはリーダーからの信頼だよ。それに何もサボっているわけじゃない。さっきだって一人手頃なのを見つけて契約を取り付けた。もう動き出してる頃じゃないかな?」
「何でもいい。とにかく、足下には気をつけることだ。」
フログは話を切り、一度もカオスの方を振り向かないままその場を離れていきました。取り残されたカオスは首を傾げてキョトンとしています。
「ま、魔王子君がもしやられたら僕も困るしいいんだけど・・・ 「足下には気をつけろ」ね~・・・ 君に僕は絶対に裁けないけど・・・」
カオスはまたも一瞬で姿を消し、その場に後には何も残りませんでした。
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狒々やフログとの先頭が終わったフィフス達。スマートフォンで信にも報告したことで用を終わらせ、どこか難しい顔をしたままでありながらも道の違うルーズと分かれてフィフスと白兎は二人同じ道を歩いていました。
「・・・」
「・・・」
しばらくの間沈黙が続きましたが、後ろをずっと付けられていたフィフスはいい加減気持ちが悪くなり、歩いたまま目を閉じて怒り声を出します。
「付いてくるなよ・・・ お前だって道は分かってんだろ。」
「別に後ろを歩くなとは言われてないし・・・ それに俺の本来の任務はお前の護衛。この方が理にかなっている。」
フィフスはジト目になり、居間の言い分で気になったことを率直に質問します。
「瓜はどうした? 今更だが、戦闘力のないアイツを放っておいてよかったのか?」
「彼女にはお前が契約しているユニコーンがいるんだろ? それに友達数人と一緒だ。ム降参がそこに堂々と現れる勇気はない。」
「どこまで調べられてんだか・・・」
フィフスは嫌みったらしく言いながらも白兎が自分達のことをどこまで知っているのか少し興味が湧きましたが、彼に聞くのも何か嫌だったので止めておきました。
そうしてまたしばらくお互い黙ったまま歩いていると、フィフスの前方から聞き覚えのある声が複数人聞こえてきました。
「ホントにもう・・・ アタシが空から捜さなかったら見つからなかったわよ・・・」
「ご・・・ ごめんなさい・・・」
「まさか・・・ ここまで・・・」
「えげつない方向音痴があるなんてな・・・」
「いいじゃない。ドジっ娘属性なんて加点ポイントよ。」
歩いてきたのは、別件の用事に行っていた瓜達でした。
「瓜! グレシア達も・・・ なんだ? 探し人は見つかったのか?」
次にフィフスはごく当然のように混ざっているサードは触れないでおき、その中に一人いる見慣れない少女が気になりました。
「お前、コイツは・・・」
相手の方は首を傾げ、グレシア構えに出て彼女を紹介しました。
「『石導 美照』、平次の妹よ。」
「メガネの!!?」
二人は頭に平次の顔を思い浮かべ、目の前の妹と見比べてみます。
「似てねぇ・・・ ていうかお前・・・」
フィフスが何かを言いかけたとき、サードが自分が無視されたことに腹を立てたようで、フィフスの前にしゃしゃり出て文句を言い出しました。
「初対面の子に顔を近付けすぎよアンタ!!」
「ウッワ! ビックリした!!・・・」
サードはその直後に美照の頬を自分の頬でスリスリしだします。
「ごめんねえ・・・ 節度をわきまえない愚弟で・・・」
「どの口が言ってんだ! 現在進行形で距離感バグられすぎだろ!!」
口答え押した途端に彼の右足は突然何かに踏まれた衝撃を感じ、痛みに顔が汗まみれになりながら無言で右足を持ち上げました。
「ワァ~・・・ パワフルなお姉さん・・・」
白兎は他人事のように笑いながらそう言うと、美照はサードから離されて自分から前に出て来ました。どこか気になるような顔をしています。
「あの・・・ あなたが『フィフス』? グレ姉のライバルの・・・」
「ん? ああ・・・ この場では『小馬 五郎』って呼んでくれ。よろしくな、メガネ妹。」
「美照です!!」
変な呼び方をされて突っ込みを入れ、二人は握手をしました。
「・・・」
美照が何かを思っている内に手は離され、フィフスは後ろの知り合いと話し始めていました。
「で、お前らはなんでここに?」
「方向音痴のえげつなさのせいよ・・・」
「どういうことだ?」
楽しそうに会話をしている一行の様子を、美照は振り返って思いふけるように見ていました。
「あの人の声・・・ 聞き覚えがあるような・・・ まさかね・・・」
美照はポケットの中に隠していたヘンテコな腕輪を手に取りました。その後ろで全てが見える白兎は、頭の中にフィフスとのやりとりを思い出します。
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「やろうとしたさ。だが、そうして移動してすぐにも一つ放っておけないことが起こったんだよ。」
「え? 要は別件でないがしろにしたってこと?」
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「別件って・・・」
白兎は何かを察して顎に手を当てながらジト目で楽しそうに見ていました。
「ホホォ~・・・ これはまた面白そうなことになりそうだ・・・」
白兎は新しいおもちゃが出来たことを嬉しく思いながら、この場を一時をただ第三者目線で見続けていました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
この帰り道、フィフスは後ろの白兎が妙にニヤつきながら家まで付いてこられたことに気になって仕方なかったそうです。
フィフス『気味が悪くて仕方ねえな・・・』
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