第252話 割り込み
美照は青年の風貌を見てもしかしてと思っていました。それを決定づけるように、彼は答えとも言えることを自分から言い出しました。
「君は・・・ 昨日の・・・」
「ッン!! もしかして・・・ 貴方は・・・」
すると青年は照れくさそうに目線を下げて美照にその証拠となる話をしました。
「やっぱり・・・ 君、一昨日、どこかの路地裏で不良に襲われていた・・・」
「・・・貴方が、助けてくれた?」
美照は偶然に会ったこの青年が、一昨日に自分を不良から助け出し、そこから御伽高校までわざわざ運んでくれたその人なのだと、今にも胸が弾む思いになりました。
『ウソッ!!・・・ こんなにすぐに見つかるなんて・・・ 色々話したい・・・ けど・・・』
そうなるとすぐに彼女はまずお礼をしなければと、彼に向けて深く頭を下げます。
「あ! あの時は! ありがとうございました!!・・・」
こえが途切れ途切れになり、彼女が青年から顔が見えない位置で少し頬を赤くしてしまします。青年は「アハハ」と笑ってその返事をしてくれました。
「顔を上げてよ。ただ人として当然のことをしただけさ。」
「や、優しい人・・・ なんですね・・・」
青年の顔を直視するのが恥ずかしくなった美照は、言われても頭を上げることが出来ません。そこで彼は自身の手を彼女の見える位置にまで伸ばしました。
「?」
「こうも短期間に偶然二度も会えるなんて中々ないよ。せっかくだし、どこかでゆっくり話をしないかい?」
「え!?・・・ いいんですか?」
美照が少し目線を上げて聞くと、彼はフッと笑顔を振りまいてくれます。
「行こっ。」
「はい・・・」
美照は自身の言う『運命の王子様』に会えたことに嬉しく思い、顔を上げてその手に自身の手をつなごうと右手を伸ばしました。
もう少しで二人の手が重なり合いかけた、そのとき・・・
ガシッ!!・・・
「「!!?」」
突然二人の右側から違う腕が出現し、それが青年の腕をがっしりと掴んで美照の手から離したのです。二人が何が起こっているのか分からずに混乱してると、腕の先から男の声が聞こえてきました。
「よお・・・」
「あ! 貴方一体!?・・・」
美照が我に返って突然自分達に割り込んできた男に文句の一つでも言ってやろうと彼のもう一方の腕を掴み、自分の方に引っ張ります。すると・・・
「エッ!?・・・」
その腕には、見るからに安っぽく、そして中心に傷のようなものが着いたヘンテコな腕輪が付いていました。
「これ・・・ いや、そんな・・・」
しかし男はすぐに掴まれた腕を払いのけ、その勢いで青年の腹に膝蹴りを浴びせて距離を取らせました。
「アガッ!?・・・」
「ちょっと! 何をするのよ!!」
当然目の前でそんなことをされ、美照はすぐに止めます。しかし男の方は返事ではなく彼女に顔もむ向けずにこう言い放ちました。
「すぐにここから下がれ。」
「え? 何言って・・・」
「ナンパに乗るなら相手を選べ。コイツは人間じゃない。」
男の言った事に美照が何を言っているのかと思っていると、青年の方は彼女ではなく男を睨み付けていました。
「また邪魔が・・・」
「いい加減化けの皮をはげ! とっくに正体は割れてんだよ!! 狒々!!」
「狒々?」
「・・・もうそこまでバレているのか。」
さっきまでの優しい顔が打って変わり、獣の威嚇のような顔になった青年は、そこから口を広げると共に顔が変形していき、体も黄白い毛に包まれていき、一瞬にして、大きな猿のような怪物の姿に変貌しました。しかし全身を包んでいる毛のうち、一部は切り取られたようになくなっていました。
美照は捜していた『運命の王子様』かと思っていた人が怪物に変わったことに膝が震え、そして意識せずに言葉をこぼしてしまいました。
「そんな・・・ 魔人・・・ だなんて・・・」
「!?」
男は彼女から『魔人』という単語が聞こえたことに驚いて彼女の方を振り返った。
「お前! 魔人を知っているのか!?」
「!!・・・」
向けられた顔は差し込む逆光のせいで美照からは男の顔が見えませんでした。しかしその声に、どこか聞き覚えがありました。
「貴方・・・」
それを裏付けるように、男も美照の顔を見て何かを思ったようでした。
「お前! この前どっかの路地裏で気絶していた一年の・・・」
「私を知ってるの!?」
しかし二人はこの場でゆっくりと話をしている暇はありませんでした。正体を現した狒々が美照を狙って至近距離まで近づき、鋭い爪が付いた手を伸ばしてきたのです。
「お前! 来い!!」
「ッン!!・・・」
しかし美照が驚いて固まってしまっていましたが、顔の見えない男が見事なタイミングで後ろ蹴りを狒々に当て、襲いかかってきた以上の勢いで再び吹っ飛ばしました。
「芸がないな・・・」
「ガアァ!!」
態勢を戻した男は美照に手短に話をします。
「悪い、すぐに失礼する。お前も、もうこんな事態に巻き込まれないよう気をつけるんだな。」
「まっ! 待って!!・・・」
美照の制止も聞かずに男は狒々の方を向き、そっちに足を進め出しました。彼女はすがる思いで腕を伸ばしましたが、結局彼の腕を掴むことは出来ず、いつの間にか狒々と共に男の姿は消えていました。
しかし彼女の伸ばした手の中には、何かを掴んだ感覚がありました。
「・・・これって。」
開いてみると、そこには彼が付けていた変な腕輪がちぎれている状態で手のひらの上にありました。
「やっぱり、あの人は・・・」
一人になったその場で、美照は自分の頬が狒々が化けていた青年と話をしていたときよりも顔が赤くなっていることに気付いていませんでした。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・その頃の瓜達。昨日の会話を聞いていたサードが勝手に合流
瓜「ど、どうしてここに?・・・」
サード「可愛い子達がわちゃわちゃしているところには入っとかないと損じゃない。」
グレシア『この人本当に瓜を妹に狙ってるのね・・・』
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