第251話 運命の人を捜して
その日の夕方、喫茶店から出た鈴音は、どういう訳かふらふらになって家路に着いていました。倒れる体の勢いに乗せて扉を開け中に入り、弱い声の挨拶をします。
「ただいまだぞ・・・」
「お帰りなさいませ、鈴音様。」
家の中には、既に帰っていたルーズが彼女のための手作りのクッキーを用意していました。それを見て彼女はご機嫌を取り戻し、キラキラな目をして駆け寄ります。
「オオォ!! 用意してくれたのか。」
「ええまあ、思っていたより仕事が早く済みましたので。」
鈴音がすぐにクッキーに手を伸ばすと、ルーズが「ンッンン!!・・・」とわざとらしい咳を出して彼女に手洗いうがいをしていないことを伝えました。
彼女は少しムッとしながらも素直に言うことを聞き、洗面台に向かいます。ルーズはその途中の彼女に話しかけました。
「それで、そちらはどうだったんですか?」
「なんか凄く疲れたぞ・・・ それに明日からも用事が出来てしまったし・・・」
「明日からも? 何をするんです?」
「いや~・・・ なんというか、人捜し・・・」
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その内容の会話は、町田家の方でも執り行われていました。
「で、その美照って奴の『運命の王子様』ってのを探すのを手伝う羽目になったのか。」
「はい、その通りです・・・」
フィフスは椅子に座って手に持ったコップの中にあるお茶を飲みながらケラケラとからかう笑いをします。
「ケケケ・・・ 兄妹揃ってはた迷惑な奴だ。それで場所は分かっているのか?」
フィフスがコップをテーブルに置いて聞くと、瓜は額に汗を流して目線を逸らしました。
「ん? どうした?」
「そ、それなんですが・・・」
「そ、そんな言い方は・・・」
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「道に迷った上気絶して何も覚えていないなんてね・・・」
「ム~・・・ 何度も言わないでよグレ姉・・・」
彼女に軽い嫌み言うグレシア。そこに美照も顔を膨れさせて反論します。
「でも手がかりがないわけじゃないわ!! ユキがちゃんと見てたんだから!!」
そう、彼女自身は覚えていませんが、ユキは学校の校門で美照を連れてきていた男の姿を見ているのです。そこで美照は喫茶店に行く前に男の身体情報を教えて貰っていたのでした。
「背丈は照準より少し上。ちょっと目付きが悪いけど、顔立ちは整ってたって・・・」
「それだけじゃ何も捜しようがないわよ。」
グレシアのもっともな感想に美照はふてくされながら反発します。
「もっと分かりやすい手がかりだってあるわよ!! その人は、左腕に何かを付けていたって。よくは見えなかったみたいだけど、ヘンテコだったって・・・」
「ヘンテコって・・・」
「とにかく! 明日からあの人を捜すの!! もしダメでも、お礼だけでも言いたいから・・・」
「美照・・・」
そのとき、さっきまで空元気を出していた美照が顔を下に向けました。内心では、彼女も不安なんでしょう。グレシアはそんな彼女の様子を見てどこかいたたまれなくなり、側にまで歩いて背中をさすってあげました。
「だ~いじょうぶよ。アンタの恋は、アタシも応援するから・・・」
「グレ姉・・・ ありがとう。」
不安になっていた彼女は、グレシアからの励ましに少し肩が軽くなりました。気持ちが固まる二人。ですが、そんな二人から見えない壁際には、その恋愛に対してド怒りのオーラを放っていました。
「美照が恋をしたって・・・?」
「ええ、そうみたいでっせ・・・」
「どこにいるんだ・・・ 人の大事な妹に汚い手を出そうとするクソ野郎は?」
「旦那ぁ・・・ ちぃと絞めてやろうじゃないですかい・・・」
こっちはこっちで、青年と猫又によるヘンテコ協定が組まれていました。
その翌日、学校での授業も終わり、早速女子達が昨日行った喫茶店の前に集合しました。そこから離れた所で、燃えるオーラを出しながらそこを除くおまけもいます。しかし・・・
「・・・」
「・・・」
「・・・」
約束の時間になっても、彼女達を招集した当の本人がやって来なかったのです。沈黙に耐えかねた瓜がグレシアに聞きました。
「あの~・・・ 志歌さん。」
「分かってるわよ・・・」
グレシアは呆れている様子でした。続いて鈴音が聞き出します。
「呼び出した当の本人が来ないぞ。シカシカ、あの子からなんか聞いてるか?」
「いいや。でも、多分これは・・・
・・・また迷ったわね。」
グレシアの予想通り、美照はまたしても盛大に方向音痴に苛まれ、一人だけ集合場所から全然離れた場所に来てようやくその事に気が付いている頃でした。彼女は改めて地図アプリを拝見し、ショックで大きな声を出してしまいます。
「アアァ!! また間違えたあぁ!!!・・・」
焦って彼女がスマートフォンを操作していると、そんな彼女を少し離れた所から誰かが駆け寄り、いきなり声をかけてきました。
「ねえ、君。」
「ハッ! ハイッ!!?・・・」
美照が突然見えない向きから声をかけられたことにビックリし、一瞬地面を跳び上がって反応しながら振り向くと、声をかけてきたのは、御伽高校の制服を着ている容姿の整った青年が彼女を心配そうに見ていました。
「貴方は・・・」
美照は驚きました。その青年は背も高く、目付きが少し悪い。そして極めつけには、左腕の手首に少し趣味の悪い腕時計を付けていました。
「もしかして・・・」
「君は、昨日の・・・」
二人の会話が切られ、沈黙しながらもどこかいい空気が流れ出します。そこに向かっている素速い足音に気が付かずに・・・
タタタタタタタタタ!!!
<魔王国気まぐれ情報屋>
・石導家 兄 平次
自分の恋には点で浮世離れして一方的に語り出すが、妹が惚れた相手には狂喜的な鬼になって接する完全な『シスターコンプレックス』
アルバムを見ながら
平次「これ、美照が小学校の運動会で徒競走しているときだ、可愛いだろ?」
グレシア「中々にキモいシスコンね・・・」
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