第250話 白馬の王子様
美照が突拍子もなく言い出したパワーワードに瓜と鈴音が動きを固めて静止画のようになっていると、そこから彼女はさっきまでとモードが変わったようにペラペラと語り始めました。
「そう、あれはまさしく運命でした。初めての高校への登校に緊張してしまい、つい道を間違えてどこかも分からない路地裏に来てしまったとき・・・」
「石導・・・ 美照さん?」
「あ~あ、また自分語りモードに入っちゃった。」
「こういうところは確かに似ているぞ石導兄妹・・・」
鈴音が自分で言ってて納得していると、自分の世界に入った美照はそれらの話が聞こえていないように自分の話を続けます。
「そこで怖い男の人に捕まって、そのまま連れて行かれるかとかと思ったそのとき・・・
パシッ!!・・・
・・・っと、颯爽と現れてその人の腕を掴んで、私を助けてくれたんです!! 気を失ってたから詳しくは覚えていないけど、私、絶対にその人に助けられたんです。」
一部都合よく改ざんされた記憶を高らかに話す美照。しかし残りの三人は彼女が次に言った単語が強く頭に響きました。
「あの・・・ 『白馬の王子様』に・・・」
「「「白馬の王子様・・・」」」
そのとき、美照を除いた三人の頭に同じイメージが浮かび上がりました。
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※イメージ内
明るい色の花々が覆い茂るメルヘンな花畑。パカラパカラと音を立たせながら元の姿のユニーがゆっくり歩き、その上にちゃちな王子様のローブを羽織ったフィフスは気が抜けたような笑顔を周囲に振りまいています。
「や~や~や~・・・ 世はプリンスだぞえ~・・・」
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「「「プゥーーーー!! クスクスクスゥ!!!・・・」」」
三人は思い浮かべた全く同じ光景につい笑いが腹から着き上がって止めきれずに噴き出してしまいました。語り終えて元の調子に戻った美照が今度は取り残されてしまい、首を傾げていました。
「・・・ア?」
丁度その頃、別の場所にいたその王子様は何かを感じ取って瓜達のいる喫茶店の方向に眉間にしわを寄せた怒り顔を向けました。
「どうした? 突然ギャグ漫画みたいな気持ち悪い怒り顔して・・・」
「いや、それとなく馬鹿にされたような気がして・・・
・・・て待った。いま凄い自然な流れでお前が俺を罵倒してなかったか?」
「さあ、気のせいでしょ。」
白兎はたった一言でフィフスの話を切ると、彼より前に出て仕事モードに入っているルーズの隣にまで進み、前方を見ます。
「にしても、これは確かにはやく片付けたい事案かもね・・・」
彼が見ているもの。それはある細い路地の建物の壁と地面をえぐるように崩れた惨状でした。範囲こそ人間一人分の小規模なものですが、だからこそ人間業にしては器用すぎ、かつ恐ろしいものでした。
「破壊された周辺に焼け焦げた後があるけど・・・ 小馬、お前こういう風に出来る?」
「無理だな。炎はあくまで焼くのが精一杯。こんなえぐるような真似は出来ん。」
「だよね・・・ だから彼も連れてきたのか。」
白兎は改めてルーズの姿を見ました。
「コイツは人狼だからな。俺達より格段に感覚が鋭い。なんとかそれで手がかりが掴めたらいいんだが・・・」
と、フィフスは宛にしているルーズを見ますが、その本人は視線を感じて目を閉じ、息を吐きながら呆れた声を出しました。
「無茶言わないでくださいよ・・・ 一日前の状況を感知しろなんて。」
「分かってる。だから少しでいい。」
少し焦っているように見えるフィフスに白兎は少し気になり、彼との会話を再開させました。
「ここに来たときはもう相手はいなかったんだろう?」
「ああ、魔術の使用を感じ取ってここまで来たのはいいんだが、下手したらもう達成したからかもここにはもう姿はなかった。だがどうにしろ、調べておいた方がいいだろう。」
「その場で魔人を捜そうとは思わなかったのか? 思い付かなかった?」
白兎から飛ばされたトゲのある質問を聞き、フィフスは不機嫌そうに右下瞼をピクピク震わせてからその理由を話し出しました。
「やろうとしたさ。だが、そうして移動してすぐにも一つ放っておけないことが起こったんだよ。」
「え? 要は別件でないがしろにしたってこと?」
ビキッ!!・・・
「お前・・・ ゼッタイ友達いないだろ。」
フィフスは白兎の言葉の言い回しに頭に怒りマークを浮かばせ、そこから仕事を忘れて口論が始まってしまいました。
そんな中、一人黙々と仕事を続けていたルーズ。
『全く・・・ こっちの主人は相も変わらずブラック労働を押しつける・・・ 事件から一日経過した後の場所でなんて何も・・・ ん?』
ルーズはえぐれた地面を中心に周辺を見回っている最中、優れた視力を持つ目に何か違和感のあるものが見えた気がしました。
すぐにそこに近づき、しゃがみこんでよく見てみます。するとそのほとんどは細かな塵の下敷きになっていましたが、確かにその下に黒いアスファルトには似つかわしくない黄白い毛の束を見つけ出しました。
一見すると犬や猫のものにも思えますが、そこから感じた匂いは、この世界の動物のものとは明らかに違っていました。
『あ~・・・ 僕は運がいいのか・・・ それともパシリの才能があるのか・・・』
ルーズはまたしてもため息をし、立ち上がると同時にまだ口論しているフィフスと白兎に冷めた目を向けながらなんとも言えない顔をして二人に声をかけます。
「お望みの物は見つかりましたよ。」
「「ッン!!?」」
二人はルーズの言ったことを聞いて口論を止め、ようやく仕事モードに戻りました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
白兎の口の悪さは生まれつきだったものが、信との触れ合いで更に加速したものです。
白兎は少年時代に信に助けて貰った過去があり、それ以来恩返しとして彼の言葉には従います。
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