第248話 学校にまでついてきます
美照に春の訪れがあった日の翌日。この日から、フィフス達新二年生も学校に通い出します。新学期の幕開けです。
そんな一年の始まりの日。フィフスと瓜の調子は・・・
「「ハァ~・・・」」
すこぶるブルーでした。そのことで、学校に向かう途中で合流したルーズと鈴音からは心配の声をかけられます。
「おはよ~・・・ って! どうしたんだ二人とも!!」
「随分調子が悪いようで。」
すると心配する鈴音の右肩にユニーがよじ登って現れました。
「オー! ユニー!! 元気そうだな。」
二人の春休み柱の事情を知っているユニーとルーズはフィフスの作ったような軽口に胸が重くなりました。
「王子・・・」
「なに辛気臭い顔してんだ。これからもっと辛気臭くなるイベントが待っているってのに・・・」
「「?」」
ルーズ達はフィフスの言うことに首を傾げましたが、教室についてホームルームが始まったときにその詳細が分かりました。
「新学期になって早々に、このクラスに転校生がやって来たぞ!!」
朝一番から来る担任の教師のテンションの高い一声にクラスの全員が注目します。フィフスと瓜の二人を除いて・・・
「転校生? こんな時期に?」
「今回は前情報なかったの?」
「どんな奴が来るんだ?」
ザワザワと口々にしゃべり出すクラスの生徒達に教師は「パンパン!!」と二度手を叩いて場の空気を落ち着かせます。
「さあ、入ってきてくれ。」
その言葉を合図に一人の青年が楽しそうに教室に入ってくる。二人がどこか微妙な態度をしていたのは、その人が誰なのかが分かっていたからでした。
「どうも! 『因幡 白兎』で~す!! 好きな食い物は焼き肉! 特に夜に食べるのがお気に入り! これからよろしくぅ~!!」
そう、転校してこのクラスにやって来たのは、信からフィフスと瓜の護衛を頼まれていた因幡白兎その人だったのです。しかし彼の登場の仕方に、事情を知らない他の生徒達が彼に抱いた印象は・・・
「 軽っ!!・・・ 」
の、一言でした。
休憩時間になると、早速白兎はフィフスと瓜の丁度間の所へやって来ました。そんな彼にフィフスはいきなり文句を飛ばしました。
「本当にここまで追ってくるとはな・・・ 分かっていたとはいえ、ストーキングは止めて欲しいんだが?」
「君らの安全を確保するのが俺の仕事なんでね。学校内なんてまさしくいた方がいい。」
「余計なお世話だ帰れ。」
ツンケンとし続けるフィフスに、今朝のことでなんとなく話の筋が読めてきたルーズと鈴音がやって来ました。
「王子、この方がその・・・」
「ドクターが派遣した俺や瓜のストーカーだ。」
「もうちょっと言い方ってものはないのかな?」
流石の白兎もフィフスのいいように少し訂正を求める声を上げました。しかしそこ二人が割って入り、挨拶をします。
「これはどうも、『岡見 思念』です。」
「『日正 鈴音』だぞ、よろしくな。」
ルーズが差し伸べた手に白兎も素直に握手し、表情を崩さずに話をつなげます。
「君達のことも、ドクターから大方聞いているよ。こっちが人狼の青年で、そっちがその契約者の少女。」
「つ、筒抜けだぞ・・・」
「他に雪女とその契約者がいるって聞いてたけど、そいつらはどこ?」
白兎がその存在を仄めかすす言葉を言った事で、フィフスは初めてグレシアと平次がいつもと違って集まってこないことに気が付きました。
「そういやいつもなら集まってくるのに、アイツらはどうした?」
「あれ小馬ッチ、聞いてないのか?」
「二人は、一年生のところに行ってますよ。昨日、平次君の妹さんが入学したようで。」
どうやらこの場でフィフスだけが初耳のようです。
「あのメガネ妹がいたのか! 一体どんな奴なんだ?・・・」
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彼らの話のネタになっていたその本人達は、その頃その一年生と合流しているときでした。
「グ~レ姉ぇ~!!」
「美照!」
他の一年生達は、突然自分達の所に現れた美女に特に男子達はタジタジになっていました。
「おい、誰だあの人!?」
「格好からして二年生っぽいけど・・・」
「綺麗な人・・・」
次々と飛び交うグレシアへの賛美の言葉。それに彼女の隣にいた平次は肩身が狭い思いをします。
『スゲェ・・・ こんだけ人がいるってのに、誰も俺のことについて触れてこねぇ・・・』
しかしそんな彼にも妹だけは気が付いてくれました。
「あれ? なんでそんな暗い顔してるのお兄・・・」
「おお! 妹よ!! お前は俺の存在に気付いてくれるのか!!」
声をかけられたことに感極まった平次が涙と鼻水を流して美照に抱きつきにかかります。
「ギャァ!! 気持ち悪い!!!」
「グゴガァ!!!・・・」
あまりの気持ち悪さに流石の美照も実の兄に対して顔面にグーパンを入れて吹っ飛ばしてしまいました。
「ああ、ごめんお兄・・・」
「いいのよ。これで多少は大げさなリアクションを押さえてくれるとよりいいんだけど・・・」
一騒動起こったことでまたしてもザワつき出す周囲にグレシアはやれやれと呆れかえっていました。そこで美照は話を切り替えてグレシアに詰め寄りました。
「うんうん! そんなことより、グレ姉、この場を借りてちょっと頼みがあるんだけど・・・」
「頼み?」
「ウン! お兄はどうでもいいけど。」
平次はとうとう妹からも見捨てられた言葉をかけられて気絶していた中で持ち反吐を吐きました。しかし二人は当然のようにそれを無視しています。
「落ち着いて話をしたいし、場所を変えよっか。」
「そうね。」
気を失った平次を完全に忘れて二人がその場を離れようとします。しかしそのとき、グレシアが何故か立ち止まりました。
「ッン!?・・・」
「グレ姉?」
「いえ、何でもないわ。」
そこから再び足を動かしましたが、グレシアは頭の中で警戒心を強めていました。
『一瞬だったけど・・・ さっき、他とは少し違う視線が・・・ あれは一体?』
二人が移動して少しした後、先程グレシアが目線を向けた窓の向こうには、一瞬だけ人影が出現し、すぐまたそこから移動していきました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・この後『お菓子隊』の勧誘を受けた一年生が即刻大量に入隊したとか・・・
グレシア「なんだか寒気がするわ・・・」
平次「雪女なのに?」
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