第23話 杖とメガネと恐ろしきバス
<平次サイド>
ブレーキが無く、どんどんスピードアップしていくバスの中で、どうにかハンドルを動かして障害物をかわしていた。乗っている女子達は今だ催眠術にかかって動こうとしない。
「アアア!! 速い、速すぎーーーーーー!!」
なんとか回避していたものの、最早時間の問題になっていた。しかもことがことなだけに例えフィフスが戻ってきたとしても解決はしないだろう。平次は頭が真っ白になり語彙力が低下していたが、そんな中で、バスが立ち入り禁止の看板を軽く弾いていった。
「ギャーーーーーーーー!! かんばーーーーーん!!!」
『僕は・・・ 死にませーーーーーーん・・・』
一瞬看板の言葉が空耳で聞こえてしまうほど平次はもはやパニックになっていた。さらにバスが進んでいく先には、絶賛工事中の橋が見えてきた。当然講じ作業員達もパニックである。
「な、何だ!?」
「バ、バスだと? 何で・・・」
「アハハハハハ!! お~ら退け退け!!」
そのとき、偶然平次はハンドル中心のクラクションの差動装置を押し込み、辺り一帯に大きな音が長い時間鳴り響いた。それによって、作業員はもちろんのこと、バスの中にいた平次もパニックから正気に戻った。
「ハッ!? 俺、何か頭おかしくなってたような・・・」
そして目の前の景色を見る平次。
「て、そんなこと言ってる場合じゃねえ!!」
平次は今度は小刻みにクラクションを鳴らし、その甲斐あって作業員の人達は慌てながらも全員バスをよけていった。
「よ~し、これで危機は去って・・・」
そのとき、平次はさらに先にある運河が目が入った。
「いませんでしたーーーーーーーーーーーーー!!」
バスのスピードはなおも加速し続け、このままでは皆揃ってバスで溺れてしまるだろう。どうすればいいのかと慌てふためいた。そのとき、近くの台に乗せていたグレシアの杖に目が行った。
「杖・・・ アッ!」
平次はさっきのウォーク兵に当てた氷付けの攻撃を思い出した。そして杖を再び手に取って、あることを考えついた。
「もしや、これがまだ使えるのなら・・・
・・・まあ、やるだけやってみるか。」
言っている間もなく水にドボンッといく程の距離になっていた。平次は一番近くの窓を開け、そこから上半身を出して杖を水辺に向けた。
「頼む!! どうにかあと一回力を貸してくれ!!」
平次は、杖の中にグレシアの魔力がまだ残っており、それが撃たれることで運河ごと凍らせてバスの動きを止めようとしていたのだ。しかしそんな彼の希望を打ち砕くかのように杖は全く光らない。これを見た平次は事態を察して諦めの境地に入った。
『ここまでか・・・ せっかくなら、もっと町田さんと話したかったな・・・
・・・いや、話すだけじゃ足りないから二人でお出かけもしたかったな。何なら遊園地とかに行って散々楽しんで、夜の観覧車に乗ってその頂上であんなことやこんなこともしたい。何ならその先も!!』
最後の願いについては明らかにむなしい物があったが、それでも後ろの女子達を見て申し訳なさそうにし、つい腕の力を緩め、持っていた杖を落としてしまった。
『あ、最後まですまねえな、グレシア・・・ 結局願いは叶えれそうにねえや・・・』
そうして宙を回転しながら杖は運河に落ちていった。すると、杖が水に触れた途端、その部分から一瞬にして運がを凍らせていき、バスの一部が運河の水に入ると、そこを凍らせて動きを止めた。慣性が働いて平次は運転席に頭をぶつけてしまったが、すぐに頭に血を流しながら顔を上げた。
「うぅ~・・・ 今日は頭を打つことばっかだなぁ・・・」
そうして前を見上げると、一面が凍った運河が見えていた。
「マジかよ・・・ ここまでの魔力をあの中に入れてたのか。」
平次は自身の目の前に起こったことが一瞬信じられなかった。少しして落ち着くと、何気ない愚痴をこぼした。
「ホント、味方でよかったわ・・・」
今だ無表情のままのグレシアの方を見て、冷や汗をかきながら苦笑いをした。
「で、あの赤鬼はどこ行ったんだか・・・」
<魔王国気まぐれ情報屋>
・グレシアの杖
グレシアが小さい頃に母から貰った護身用の武器。魔力を一時的にそこに溜めて放つことによる攻撃が可能。氷結術は本来触れた水蒸気のみを凍らせるものだが、グレシアは杖を使うことによって離れた場所からの術の発動が出来るようになっている。
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