第238話 遠慮は無し!!
フィフスが言った事実。その言葉に瓜は驚くことはなく、ただ静かに反応したのでした。彼女も、内心ではなんとなくそのような気がしていたのです。
『やっぱり・・・ シーデラさんは、既に亡くなっていたんだ・・・』
瓜がそう思うと、フィフスはその事に繋がる事柄を説明してくれました。
「俺が船の上でなってしまっていた『獄炎』、あの形態も、そもそもはアイツを守るために会得した形態だ。だがそれは知っての通り、破壊衝動に駆られてただ暴れるだけの諸刃の剣・・・ 結局俺は、シーデラを救うことが出来なかった・・・
・・・結果的に俺は、シーデラ一人を守るために、向かってくる二百人の人間を殺し、この時のことを、上の連中は尾ひれを付けて広げた。それが、『獄炎鬼の伝説』の真実だ。」
瓜は苦しいだろうに話を続ける彼を心配に思いましたが、決心して話してくれている彼を止めることも、彼女には出来ませんでした。
「正直のところ、俺が最初にお前を助けたのは、お前がそのシーデラにそっくりだったからだ。お前が船の上で言っていた『友達の変わり』っていうのは、本当だった・・・」
瓜は、話の流れからしてどこかその事にも気付いていながらも、実際にフィフスからの言葉を聞くことでそれが重くのしかかり、知らずに拳を強く握りしめてしまいます。しかし、それでも彼女が頭を下げることはありませんでした。
そしてそれに応えるように、フィフスもさっきまでよりハッキリとした声で言いました。
「だが! 今は違う!!」
「!!・・・」
「俺は! お前のことを心から大切に思っている!! でねえとあんなこと・・・」
フィフスはここから先の言葉を恥ずかしく思ったのか、また瓜はこのことを覚えていないと思って口を閉じようとしましたが、その彼女は・・・
「大嫌いだけど大好き・・・ ですか?」
「!!? おまっ!・・・ 聞こえていたのか!?」
フィフスは瓜に自分の台詞を覚えられていたことにより恥ずかしくなり、顔の色が元の赤色を覆うほどに真っ赤になりました。瓜はそんな彼を見て・・・
「フフッ・・・ フハハ!!」
と、つい声を出して笑ってしまった。
「笑うなよ・・・」
「だって、フィフスさんがそんなに照れるところなんて・・・ 初めて見たので・・・」
「ん? そ、そうか?・・・ まあ、あまり見せたいものでもないからなぁ・・・」
フィフスが照れ隠しに顔を爪でかくと、瓜はこのことで肩の荷が下りるようでした。するとまた彼女の頭にアヒルの言葉がよぎります。
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「瓜、わがままになっていいんだよ。」
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『本当に、いいのかもしれない・・・ いや、こういうときこそ、そうしなくちゃ!!』
すると瓜は多少笑みがこぼれたままの顔を自分からフィフスの顔の近くにまで持ってきました。普段の彼女なら絶対にしないであろう行動に、フィフスはより表情がドギマギとしてしまいます。
「ちょっ!!・・・ お前!!・・・」
そして瓜は、彼に向かってこんなことを言い出しました。
「私、もっとフィフスさんの恥ずかしがるところが見たいです!!」
「ハァ!!?」
「もっといろんな表情が見たいです!
もっといろんなところに行きたいです!!
もっとたくさんの友達が欲しいです!!!」
フィフスは攻めらてられながらも、最後の言葉には引っかかります。
「でもお前・・・ 船の上で渋木から聞いたんじゃ・・・ 俺との契約が完了すると、お前は魔人に・・・」
フィフスが額に冷や汗を流しながら瓜にそれとなく聞いてみると、彼女は流れ出した勢いに乗るままに答えてきました
「ハイ! でも・・・
・・・それでも! 私は、フィフスさんと一緒に友達を作りたい!! もっともっと、友達を百人!! 五百人!! 千人だって欲しいです!!!」
「千人!!? お前の口からそんな強欲な数字が出るとは・・・」
驚く彼の表情を楽しそうに見ながら、瓜は契約のことにこう言ってのけます。
「契約が叶うと魔人になる。だったら、契約を完全に叶えなければいいんです! どこまでも、どこまでも願い続ける!!
果ての無い願いは、いつまでも完全には叶えられません!!」
瓜の完全にゴリ押しな理屈にフィフスは返答に困ってしまいます。
「俺は化け物なのにか。」
「例え貴方が私から離れようとしても、私はそれを止めます! 誰が何と言おうと、貴方は私の、大切な、最初の友達です!!」
「瓜・・・」
「もう、遠慮はしませんので!!」
瓜はニカッと笑顔を向けます。フィフスは一周回って落ち着いた顔になり、目を細めて瓜を見ます。
「お前・・・ そんなキャラだったか? でもま、遠慮無しか・・・ それもいいかもな。」
フィフスは瓜の言い分に珍しく焚き付けられ、口元をニヤつかせてその場に立ち上がりました。
「上等だぁ!! ちょいとだけ気がデカくなったようだが、それだけでそれが出来るんならやって見ろ!!」
瓜も負けじと立ち上がり、彼に向かってメンチを切ります。
「もちろんです!! フィフ・・・」
瓜は彼の名前を呼ぶことに戸惑いました。遠慮はなしと言っておきながら、早速自分が彼のことを『さん』付けで予防としていることに思うところがあったのです。
そこに、前に異世界に行ったとき、サードから言われた言葉が思い浮かびました。
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「どうせならアイツにあだ名を付けてみたら。」
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『そうだ! こう言うときこそあだ名を・・・』
「瓜? 何だ今度はまた急に黙って・・・」
『フィフス・・・ 五郎・・・ 五・・・ ゴー・・・』
「瓜? う~り~・・・」
考えた末、瓜が言い出したあだ名は・・・
「 ゴー君!! 」
「ゴー君!!?」
「あ、親しみを込めようと・・・」
瓜は流石に調子に乗りすぎたと恥ずかしくなり、目線を離れてしまった。
「今更な・・・ それも大分安直に来たな・・・」
「い、イヤでしたら・・・ 別に・・・」
彼は少し悩んだようでしたが、こう返事をしました。
「・・・構わねえ、お前がそうしたいんならそう呼べ。」
またもフィフスの顔が赤みがかり、反対に瓜は表情をパッと明るくします。」
「ハイ! これからもよろしくお願いします、ゴー君!!」
「また変な呼び方を・・・ まあいいや、こちらこそだ。瓜。」
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二人が泊まっている部屋と壁一枚で隔たれている廊下。信とアヒルはそこで二人の会話を盗み聞きしていました。
「もう心配しなくても大丈夫かな? ありがとう、協力してくれて。」
「ううん、信の頼みだもん。」
もう安心だと感じた二人は、揃ってその場から離れていきました。
「にしてもゴー君って・・・ また瓜君らしいネーミングセンスだ・・・」
<魔王国気まぐれ情報屋>
<術装 獄炎>
フィフスがかつてシーデラを助け出すために会得した強化形態。通常よりも大幅に戦闘力が向上するが、その強大な邪気を抑えきれずに暴走し、破壊衝動のままに暴れ出してしまう。
体から出る炎の余波が翼のようにも見え、この世界で言う悪魔のような風貌になっている。
ちなみに血の涙はある一件で後から付いたもの。
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