第237話 腹を割ったお話し
そこから少し時間が経ち、無言のまま信と会話をしていたリビングから離れていたフィフス。先程信に言われた言葉が何度も頭の中に響いてきます。
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「いい加減、彼女との間に線を引いて接するのは止めたらどうだい?」
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『ドクターめ・・・ 全部見透かしたようなこと言ってくれやがって・・・』
対する彼から見て反対方向、先に風呂を上がり、乾ききっていない髪をタオルで拭きながら歩いている瓜。彼女の方は、風呂場でアヒルに言われた言葉を何度も思い出してしまいます。
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「やられたからお返しして・・・ 無理しないように気を使ってって・・・ そんなので、一緒にいられて楽しいわけがない!! 楽しくないと、友達じゃないでしょ!!」
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『気を使ってしまっている・・・ また失うのを恐れて、自分勝手に動いてしまっている・・・』
そうしてお互いに前を見ないままに廊下を進んでいくと、ふとその先にてぶつかりそうになった少し手前でお互いの存在に気が付きました。
「「アッ!・・・」」
顔を上げて相手を見た二人ですが、そこから話し出すことが出来ずに妙な間が出来てしまいました。しかしこの状況に耐えられなくなった彼らは声を出しますが、ここでも声が被ってしまいました。
「その・・・」
「あの・・・」
「「・・・」」
またしても妙な間が出来てしまいましたが、いい加減進展したかったフィフスが話を繋ぎ止めました。
「そっちから言えよ・・・」
しかしそれに瓜もまたこう返してきます。
「フィフスさんこそ・・・」
瓜の言葉を最後に、またしても二人の間に沈黙が流れかけますが、フィフスはそれをどうにか変えようと言葉を続けました。
「その・・・ 何だぁ・・・ ここじゃなんだし、部屋で話すか。」
「は、はい・・・」
なんとか二人は今のこの気まずい空気を変えるために自分達が泊まっている部屋にまで移動し、そこで面と向かい合って正座をしました。さっきまでとはまた違った固く空気が流れます。
しかし今度はフィフスがその流れを変えることなく話し出しました。
「瓜、俺はお前に、この前から言おうとしていたことがある。」
「はい、聞かせてください。」
フィフスが瓜を見ると、彼女はいつにもなく真っ直ぐとこちらの顔を見ていました。何か覚悟でも決まったような表情です。
フィフスはそんな彼女に応えようと、こちらからも真っ直ぐに視線を向けながら話を続けます。時間にすればたかが数秒のことでしたが、二人の心音はどんどん大きくなっていきます。
「瓜・・・ 俺・・・ 俺と・・・」
「ッン!!・・・」
「俺! と・・・
・・・もだちが、実のところ全然いねえんだ。」
「は、はい?・・・」
瓜はフィフスが溜めに溜めていった言葉の内容に拍子抜けしてしまい、綺麗にしていた正座の姿勢がガクリと崩れてしまいました。
「も、もう一度・・・ 言ってください・・・」
「俺は友達が実のところ全然いねえんだ。」
「エッ? エェ!?・・・」
「ハハハ!! いやぁ~・・・ 前々から言おう言おうと思ってたんだよ。」
そこからのフィフスは、さっきまでの真剣な姿勢を崩し、目を細めて笑い出しました。
「お前、俺が異世界で友達いっぱい残して日本に来ているとでも思ってたんだろ?」
「え? え~・・・ そうでは・・・ ないんですか?」
瓜はフィフスの予想外の話の内容にここまでの調子が狂ったせいなのか、戸惑いの余り、本人も気が付かないままにフィフスとの会話をテレパシーを使わずに普通に喋っていました。
「てっきり、その・・・ 一国の王子ですし、その縁でいっぱい友達がいるものかと・・・」
「全っ然!!・・・ 腹を割って気軽に話が出来る他人なんて、こういう身分だからこそ、数えるほどしかいねえ。グレシアにルーズ、そして・・・」
「シーデラさん・・・ ですね・・・」
「・・・」
フィフスは瓜が彼女の名前を口を出したことに閉じていた目を再び開いて反応します。そして彼女に見せていた笑顔を納め、口から出される声も冷静なものに戻りました。
「ああ・・・ そうだ。」
彼は一度話を止めてから、聞こえない音で息をつき、改めて彼女の目を見て話します。
「『シーデラ』・・・ お前が見たって言う写真に写っていた少女の名前だ。アイツは、俺の最初の友達だった・・・」
瓜はフィフスの声の調子が変わったことからどこか察しました。彼が船の上であれだけ言うのをためらっていたシーデラのことを話し出したということは、それだけ彼にとって重大な話をしようとしていることだと思ったのです。
ならば私もと、瓜の方もゴクリと唾を飲んで真剣な眼差しの表情に変わり、フィフスに今まで聞きたかった質問をします。
「その・・・ シーデラさんは、今どうして・・・」
瓜がなるべくフィフスを刺激しないような声で聞くと、彼は一見すると普通のように口を動かしました。しかし彼女はそのときに微かに腕が震えていたのを見逃しませんでした。
「ああ、アイツは・・・
・・・死んだよ。とうの昔にな・・・」
「・・・」
二人の間に、ここまでとは違ったより思い空気が流れました。
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