第235話 友達失格
その後、さっきのアヒルの行動のせいでとても料理の味を楽しむ余裕などなく緊張した状態で終わらせたフィフスと瓜は、泊まっている部屋に戻って少し息をついて落ち着かせた。
「「フゥ~・・・」」
ため息を終えると、フィフスの方が先にさっきの夕食の感想を話し出しました。
「あ~・・・ おっかねえよ、あの人・・・ ある意味おやっさんのときの再来だ・・・」
『お父さんのこと・・・ そんなに怖かったんですか・・・ でも確かに、正直怖かったです・・・』
「死地の次がまた死地って・・・ 俺らはどこまでも居場所に恵まれないのか?」
フィフスが困ったような顔をしながら頭をかくと、瓜の視界に彼が付けているブレスレットが入りました。その中心の装飾には、彼女自身が付けてしまった傷があります。
「・・・」
彼女はその事について聞こうとしましたが、自分の方のブレスレットが壊されていたことを思い出し、どの面を下げて話せばいいのかが分からずに言葉が出なくなりました。
すると信がまたしても部屋の外から声をかけてきました。
「お風呂開いたよ~!! どっちから入る?」
すると間髪を入れずにフィフスが返事をしました。
「瓜が入る。」
「エェ!?」
「ゆっくり入ってこい。疲れているだろう?」
『それなら、フィフスさんこそ・・・』
そのとき、フィフスは無言のまま何かを伝えるような目線を彼女に送り、彼女はそれに押されて頭を下げると、部屋の前に置かれた服を持ってお風呂場に向かって行きました。
彼女の足音が聞こえなくなったのを見計らい、フィフスは首を後ろに向けました。
「んで、何用だドクター?」
彼に呼ばれて素直に部屋の中に入ると、フッとしました。
「少し、話をしないかい?」
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一方、脱衣所で服を脱ぎ、浴槽に浸かっていた瓜。しかめた顔をして、やはり船の上でのことを考えていました。
「・・・」
『いつもより、フィフスさんとの距離が遠い気がします。
・・・当然です、船での件、元はと言えば簡単に猿柿君のことを信じてしまったのが全ての始まりだ・・・ そこから意地を張って、喧嘩をして・・・ それなのに、彼は・・・
・・・なのに、なのに私は!!』
このままこのお湯に溺れてしまいたい。そう思って顔を半分まで湯船に付けた彼女に、風呂場の扉が開く音が聞こえてきました。
「!!? ア、アヒル・・・ さん?」
「瓜、一緒に入ろ。」
躊躇なく入ってきたのは、アヒルです。紺淡くする彼女に、相手の方は気軽に話を続けてきました。
「一緒に入ろ。」
「え? でも・・・ 狭いですし・・・」
「信とはいつも一緒に入ってるけど・・・」
「は、はぁ・・・」
瓜は戸惑いながらもそのとき、彼女のスタイルの良さ、ではなく、その体に付いた複数の傷に注目しました。
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視点を戻してフィフス。信に連れられて夕食を食べたテーブルに着くと、信は彼の前に入れ立てのコーヒーを置き、自身の分をもう一方の手に持って反対側に座りました。
「どうも・・・」
信は一口コーヒーを飲むと、早速本題の話を切り出しました。
「五郎君、あのとき瓜君と絶交しようとしてたでしょ?」
「!!・・・」
フィフスはコーヒーカップを持ち上げた腕を降ろし、細めた目を信に向けます。あのときとは、夕食時のことです。つまり、彼には最初からバレていたようです。
「・・・なんで止めた?」
「人の家で喧嘩をされちゃたまんないからね。」
「・・・」
この場において尤もなことを言われてフィフスは何も言えなくなります。
「悩み事があるのなら、ここにいる大人に相談してみなよ。瓜君には言わないからさ。」
「信用ならねえな・・・」
「ハハ、酷くない?」
フィフスは信の態度に観念し、一度目を余所に泳がせてから話し出しました。
「アイツは・・・ 瓜は、俺が知っている中でトップクラスに損をする奴だ。」
「ほう。」
「アイツは、普段からへっぴり腰で自分に自信がない。いつも周りにビビってやがる。 ・・・なのに、周りが危ないときには人が変わったように自分から動いて、自分の身を省みず他人を助けようとしやがる。
俺は、今までアイツのそんな性格に甘えて、これまで何度も血生臭いところを見せちまった。だってのに、アイツは、いつでも変わらず振る舞ってくれた。
今回の船の一件だって、それに甘え続けていたせいでアイツも目を付けられて巻き込まれたんだ。そこで俺のやった事なんて、最低意外に表しようがねえよ・・・
肝心なときに信じてやることも出来なくて、アイツを一人で追い込ませて、元とはいえ友人を殺し・・・ 挙げ句の果て、怒りのままに暴走して、周りも見えずに殺しかけた。
これでもかって程に深い傷を与えちまった・・・」
一通り話し終えたと見た信は、要約して簡単に言いました。
「だから絶交する・・・ か・・・ そこからどうするつもりだったんだい? 契約で君らは離れられないって聞いたけど。」
「具体的には決まってないが、どうにかして契約自体をなくす気だった。アイツは、もうこれ以上この騒動に関わる意味はない。それに・・・」
「?」
フィフスは視線を下に向けて顔をより暗くし、いつもらしくない声を出しました。
「俺は、もうアイツの隣にいる資格がない・・・ 散々優しくしてくれたアイツを突っぱねちまったんだ・・・
・・・俺は、『 友 達 失 格 』だ。」
「友達失格、ね・・・」
信は一瞬風呂場の方に目をやり、内心でこう思っていました。
『さて、彼女の方はどう思っているんだか・・・』
<魔王国気まぐれ情報屋>
・前回の会話より 日正家でのユニー
ジェスチャーでルーズにフィフスからの伝言を伝えている最中。
鈴音「なんか突然ジタバタし始めたぞ。」
ルーズ『これは・・・ 王子・・・ 本当面倒ごとに良く巻き込まれる人だ・・・』
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