第231話 事の収穫
フィフスが目を覚ましたのと時を同じくして、明確な場所が分からない謎の空間。その空間内で目的もなく一人の男が歩いていると、その目の前の空中に魔法陣が出現しました。
「・・・」
そしてそこから、大股に歩きながらカオスが出て来ました。
「よいしょっと・・・ フログ~、帰ったよ~」
一人待っていた男ことフログは会話を楽しむこともなく冷たく効きます。
「結果は?」
カオスも少々つまんなく思いながらも素直に答えました。
「八割方上々ってとこかな~・・・ 大方の目的は達成されたよ。
魔人の力を底上げする特殊膜の運用実験。
自己主義なボンボンと魔革隊内の跳ねっ返りを使った囮。
本命である人身売買場で商品にされていた人達の魔人化。
・・・そして、復活した獄炎鬼の邪気の回収。全て滞りなく済んでるよ。」
カオスがフログに自身の黒い魔道書を開いて見せると、本に描かれた魔法陣からこれまでより更に黒い邪気が煙のように浮き出ていました。
「全て自分でやったように言わないでもらえる?」
声が聞こえてカオスが魔道書を閉じて後ろを向くと、さっき彼がくぐってきた魔法陣から、炎の消化が終わったセレンが出現し、くぐり終えると共に魔法陣は消滅しました。
「全く余計な雑用押しつけてくれたわねぇ。時間がかかったじゃない。」
「でも、あんなのはまだ序の口ですよ。」
「は?」
「本気の獄炎鬼が出て来てたなら、あんな船軽く沈んでいますよ。」
セレンはカオスの言うことに驚きますが、それを誤魔化そうと話を切り替えました。
「大変だったのよ。金持ちに買われた少女を演じながら、船内のスタッフを洗脳したり、あの子達に契約の魔道書を渡し回ったりするのはね。何度かあの男に見つかったり、獄炎鬼を助ける羽目になったしね。」
カオスは自分に愚痴を向けられるのを誤魔化すために彼女の話に横槍を入れました。
「でも何であれ、今回のことで魔革隊の仲間は増えましたし、願いを叶えたことで自由に動ける魔人も増えました。それもこれも、僕が部下を使って坊ちゃんに引き入れて貰ったんですから。」
「ホワイトから来た情報のおかげだろ。」
「フログ~・・・ それを言っちゃあ~おしまいだよ・・・」
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カオスが思い返したこと。彼は渋木に敢えて魔人を追い詰めさせ、そこでその魔人にこの台詞を言わせました。
「ま! 待ってくれ!!」
「・・・」
渋木は無言のままに怯える相手にトドメをかけようとしましたが、そこで相手が言ったことに動きを止めました。
「俺は! 獄炎鬼を狙う準備をしていただけで!!・・・ 人間を襲う気は・・・」
「!?・・・ 獄炎鬼だと? お前、そいつはまさかフィフスとか言う・・・」
「あ! ああ!!・・・ その通りだ!!」
「・・・」
渋木はそれを聞いて銃口を降ろしました。そして・・・
「お前、指導者に会わせろ。」
「ハァ!!?」
突拍子の無いことを言われてその魔人が驚くと、その顔を隣を銃弾が通り過ぎ、拒否権がないことを突き付けられました。
「ア・・・ ガガガ・・・」
「チッ・・・ 使い物にならないか。ならここで・・・」
「手を組みたいんなら応じるけど?」
「!!?」
突然現れたカオスに身を引くこともなく、渋木は待っていたかのように銃を向けました。
「!! ちょっと・・・ ビックリするな~・・・」
「どうやって現れたのかは知らんが、俺の前では通じないぞ。」
「おお、怖・・・」
「手を組むだと? 違うな。俺が主人だ。」
「あ~・・・ 拒否権ない感じッスね、渋木・・・ 様・・・」
というように渋木の部下に下る形で、彼に付け入れる隙を作っていたのです。
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カオスはフログとセレンの間を割ってゆっくりと歩きながら、話を続けます。
「事は大きく前に進みましたよ・・・ ね?」
三人が同時に同じ向きに目を向けると、その先には、今回のことで出て来た魔人達がゾロゾロと集まって同じように彼らを見ていました。
そこから彼は幹部二人に振り返り、補足で言います。
「そろそろ後処理の方も、ホワイトがやってくれているでしょう。」
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信のラボとは違う、エデンの別支部のラボ内。そこで一人の男が、奥で椅子に座っている相手に文句を言っている様子です。
「どうしてだ!? 何故渋木と連絡が取れない!!?」
焦る表情を見せながら夜中なのに容赦無く大声を浴びせる男に、もう一人の男は冷静なまま、と言うより余り興味がなさそうに返事をします。
「だから何度も言っているでしょう。秘密任務の最中だと。連絡が取れないからっていちいちこちらに聞かないでください。」
「エエイ話にならん!! お前は今日限りで降ろしてやる!!」
男は怒りで足取りが大きくなりながら部屋を出ます。そのまま彼は廊下を歩きながら、さっきまで話をしていた男への愚痴を独り言で話し出します。
「全くあの成り上がりのか学者め・・・ 今まで誰のおかげで甘い汁を吸えてきたと思って・・・ とにかく、渋木から連絡が来ない原因を掴まなければ・・・」
そんな彼の隣を、館内の夜勤中のスタッフの一人が流れるように通り過ぎていきました。彼はそんなことに気付く余裕もなく独り言をブツブツと垂れ流していましたが、その声は次の瞬間、唐突に廊下に響かなくなりました。
「・・・」
すると男は不自然に腕をブランと下げ、そのまま倒れてしまいます。彼自身が気を失う中最後まで気付いていませんでしたが、既に彼は殺されていました。
先程彼の隣を通り過ぎた一人のスタッフは、一瞬後ろを振り返るような素振りをしましたが、すぐに首の向きを戻して静かに明かりの消えた廊下の奥に進んでいきました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・ホワイト
魔革隊の中でも幹部しかその存在を知らない構成員。汚れ仕事の担当で、スパイ行為や暗殺などに秀でている。戦闘力は未知数だが、幹部達からの信頼は厚い。
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