第230話 亀ちゃんの病院
チカチカとまぶたの裏を透き通る光。それが鬱陶しく感じ、段々と深い眠りを終わらせていきます。
「・・・ ン・・・ ッン・・・」
気が覚醒し始め、ぼやけながら目をゆっくり開け始めるフィフス。段々ハッキリしてくる意識の中で、二人の男が会話をしている声が聞こえてきました。
「それでこれからどうするつもりだい? ここにおけるもの長くはないよ。」
「当てはあるよ。君も知っているところ。」
「やれやれ・・・ それにしても、全く面倒ごとを持ってきてくれるね。」
「そう言わないでよ。僕達の仲じゃないか。」
ボヤ付いた頭が冷め、目の前が大分見えると、視界にあったのは見知らぬ天井でした。
「ここ・・・ は?・・・」
声が聞こえたのか、会話をしていた二人が彼の顔を見ます。一人はスーツを解除した私服姿の信。もう一人は清潔な白衣をキッチリ着込み、メガネのかかった左目に少し髪の毛がかかりかけた風貌をしている信より少し歳上そうな男性でした。
「お! 目が覚めたかい、五郎君。」
「ドクター? 俺は・・・」
途切れながらも話すフィフスに信は安心したように一息ついてから話します。
「良かったよ。魔人の治療法に関してはこっちは点でわからなかったからね。思念君から回復が早いとは聞いていたが、凄いもんだ。」
フィフスはその会話をつなげることもせず、キョロキョロと周りを見てから率直に気になったことを話の脈絡もなく聞き出しました。
「ここはどこだ?」
二つ目の質問には、信の隣にいる例の謎の男が答えます。
「僕の病院。君は今入院中って事だよ。」
「アンタは?」
三つの質問には、信が手を指して紹介してくれました。
「ああ・・・ 僕の知り合いの医者の『亀ちゃん』。口は堅いから安心して。」
「その呼び方止めてくれないかって言ってるよね・・・ 『浦島 和亀』、よろしく頼むよ。」
「どうも・・・」
まだ完全には覚醒しきっていないのか、彼の表情はぼんやりとしています。そのためか、彼からの質問はまだまだ止まりませんでした。
「俺は・・・ 何をして・・・ どのくらい寝てたんだ?」
「そうだなぁ・・・ 昨日の深夜からだから、丸一日ってところかな。」
「そんなにか・・・」
フィフスが自分がそんな長時間寝ていたことにぼんやり印象付いていると、信は現状をよく分かっていない彼に簡単に説明してあげます。
「細かいことはまだ分かっていないけど、どうやら君達は魔革隊に踊らされてたみたいだよ。」
「アイツらに?」
「そ・・・ 君はそれで罠にはまり、怒りで我を忘れて暴れてしまった。それを瓜君が止めたんだよ。」
信から出た人名を聞いてフィフスは目を大きく開いて目を覚まし、その額に冷や汗を流し出します。一部だけでしたが、自分が暴走していたときのことを思い出したのです。それは、自分が渋木にトドメを刺したこと、そして次に出血している瓜を殺しにかかったことでした。
『そうだ・・・ あの時俺は、渋木を殺して・・・ その上瓜まで見境なく・・・』
「瓜は!? 瓜はどうした!!? ガッ!!・・・」
フィフスは焦って上半身をベッドから起こそうとしますが、体に力が入らずそれが出来ませんでした。見かねた和亀が止めます。
「安静にしてくれないかな。ただでさえ鬼を治療するのは初めてで、どうしたらいいのかわかんないんだから。」
「クソ・・・」
フィフスはゆっくり横に戻り、二人を見ながら聞きます。
「それで、瓜はどうした?」
「無事でいる・・・ とはとても言い切れないかな。」
信がそう言うと、後ろに移動した和亀がカーテンを広げます。するとその開いた先に、手足に包帯が巻かれて眠っている瓜がいました。おそらく契約制限のことを危惧した信が働きかけてくれたのでしょう。
「!!・・・」
「元々怪我をしていたのに、そんな体を無理矢理動かしたからね・・・」
「やれる処置はしたけど、正直回復するカは分からない。今は鎮痛剤が効いて眠れているけど、これもどこまでだか・・・」
「そんな・・・」
「これでも僕はけっこう頑張ったんだよ。あの場にいたら、確実に全滅してたんだから。」
フィフスが感情が高ぶって動かせるだけ体を近付けて瓜に注視する中、信はその気を削ぐように追加で話し出します。
「それと、これもね。」
彼が取り出してフィフスに見せたのは、渋木に取られていた彼の剣でした。
「それは・・・」
「脱出する前に拾っておいたよ。君にとって大事なものなんでしょ?」
「・・・」
フィフスは無言で頷いて肯定をしました。信は彼の近くに剣を置いてあげると、自分から次の話を切り出しました。
「取り戻せたのはここまでだ。急ぎだったんで残りの荷物は置いてきてしまったよ。」
「構わねえよ・・・ どれも命あってこそだ。」
フィフスはそう言うと、枕に頭を深く沈めて目を閉じます。これを見る限り再び眠る態勢になったようです。
「悪い・・・ 疲れてるからかまた眠くなってきた。少しの間席を外して貰っていいか?」
唐突にそんなことを言い出した彼に一瞬二人は戸惑いましたが、すぐに何が言いたいのか察して聞き入れることにしました。
「分かったよ・・・」
「病人は寝るのが一番だしね。細かいことは回復してから話す。」
「すまねえ・・・」
しかし去り際に信は顔を向けずに小さく言いました。
「元気になったら手でも握ってあげるんだね。こういうときは精神論が意外と効くものだから。」
二人は病室から離れていきフィフスと瓜だけが残りました。静まり返った空間で、フィフスは自分の今回のことを見つめ直します。
『師匠が言ってたっけな・・・ 『守るための力も、使い方を間違えれば全てを壊す』って・・・ 前のことで身に染みたと思ってたんだがな・・・』
次にフィフスは首を横に向け、眠り続けている瓜の顔を見ます。
「・・・」
おぼろげですが、彼は船の上での彼女の事を思い返しました。
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「私が・・・ 貴方を止める!!」
「よ・・・ かった・・・」
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「助けるつもりが・・・ 助けられてたってのかよ・・・」
フィフスはそのときのこと、そして今も彼女に何もしてやれないことに心の底から自分に腹が立ち、力のこもっていない拳を握りしめました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
和亀は元エデンコーポレーションの構成員ですが、今はそこを止めて小さな病院を経営しています。看護師もいないので手術は出来ませんが、ある事情で信はよく彼に厄介になっています。
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