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第228話 漁夫の利

 暴走したフィフスが瓜によって止められ、一応の落ち着きが出来ました。とはいえ二人が気絶している上、野外で風が吹き付く周囲の炎はそのままでは、二人がピンチなことに変わりありません。


 「長居は無用だね。とっとと脱出するか。」


 信は独り言を呟いて二人に手を伸ばします。しかしその途中で何かを感じ取り、動きを止めました。


 「何用かな?」

 「あ~ら勘がいいね~・・・ 化学者さん。」


 後ろにいたのはカオスとセレン。そして複数体のウォーク兵です。信が首だけ後ろに傾けて見てみると、倉に姿が似た魔人の姿を見つけました。


 「なるほど、始めから君達の手のひらの上だったって事か・・・」

 「そ。この世界で言うところの『漁夫の利』ってやつで~す。


  さっきまでの戦闘で、魔王子君は魔力切れな上怪我だらけのボロボロ。そちらさんも自慢のスーツを何カ所も損傷して粘った分体力も削れてる。消耗したところにトドメを刺させて貰います。」

 「確かに、今これを相手にして勝てる自信はないかな・・・」


 カオスはウォーク兵達を歩かせ、その槍を突き立てさせます。しかしそれを受けても信に動揺している様子はありませんでした。





 それどころか・・・





 「だから、この場は逃げさせてもらう。」



 と言い、その途端に彼は自身のスーツから煙幕を出して周りを覆い隠しました。


 「煙幕!?」

 「往生際が悪いな~・・・ セレン様。」

 「わかってるわ。」


 セレンは自身の周辺に小糠をいくつも発生させ、煙幕の広がった範囲にまんべんなく撃ち出しました。


 「これなら煙で隠れても関係無い。無駄なことだったわね。」


 首を上げて見下す姿勢を取り、軽く鼻で笑ってみせるセレン。しかし時間が経っても煙の奥から小糠が命中した音が聞こえないことを少し不信に思い出しました。


 「?」


 するとセレンの目の前の煙から、突然巨大な何かが飛び出してきました。余りに突発的だったために彼女は避けることが出来ず、直撃して真っ二つに切り裂かれてしまいまいます。


 「!!?・・・」

 「セレン様!!」

 「無事よ。」


 セレンは切られた下半身を浮き上がった上半身に付いてきた両腕で掴み上げて引き寄せ、自分でくっつけて元に戻りました。


 「今のは・・・ !?」


 さっきの攻撃で晴れた煙幕の先には、フィフスとの戦闘時とは形状が多少変わったスーツを着た信が両腕にそれぞれ気を失ったままのフィフスと瓜を抱えている姿がありました。


 「さっきと姿が違う!?」

 「もう一つスーツがあったのか・・・」


 そして信が一度膝を踏ん張ってからジャンプすると、背中にさっきのスーツでは付いていなかったスラスターから熱を吹き出して空を飛び出しました。


 「飛んだ!? 博士が飛んだぁ!!」

 「やかましい!! そう易々と逃がさないわよ!!」


 セレンはまだ信がそう距離が遠くない今のうちに再び小糠を撃とうとします。しかしそのとき、カオスは後ろに何かが近付いてくるのを見ました。


 「あら? セレン様!!」

 「ン?」


 次の瞬間、さっき投げつけられた巨大な物体が反転して戻り、見えていなかった彼女を後ろからまた切り裂いたのです。


 「ナッ!!?」

 「ならウォーク兵!!・・・ って、あらら・・・」


 カオスが改めて見ると、自分が召喚したウォーク兵達が全て手足を切られて動けなくなっていました。


 「煙幕はこれを誤魔化すためか・・・ 一杯食わされちゃったな~・・・」


 打つ手をなくし、セレンが再生している間に、信は背中に飛ばしていたものの正体である巨大なブーメランを自動で差し込んで収納し、そのままカオスが仕掛けていた幕から脱出していきました。


 「幕の弱点も理解済みってことか。やるな~あの博士、見事に逃げられちゃったよ。」


 カオスが独り呟いていると、前方のセレンが再生し終わったようです。最後に信にしてやられたことに腹が立っています。


 「軽く二度も切られるなんて・・・ あの男ぉ・・・」

 「再生できるからって警戒しなさすぎでは?」

 「だったら後ろから声ぐらいかけなさいよ!!」


 憤るセレンにカオスはまあまあと落ち着かせます。


 「いいじゃないですか。漁夫の利はついでですし。本命の方は大丈夫でしょう?」

 「当たり前よ。人間の振りをして準備するの大変だったけどね。」

 「これで僕の首の皮も繋がりましたか? 立案者ですし・・・」


 話のついでにこまめにゴマを擦るカオスの顔を見ることもなく、セレンは興奮していた自分を落ち着かせてから冷たく答えました。


 「それは結果を見てからよ。首の皮をつなぎ止めたいんならさっさと行きなさい。」

 「チェ・・・ は~い・・・」


 カオスはセレンの反応をつまんなく思いながら、どこかいつも以上に黒い邪気を纏っている魔道書を空中に出現させた魔法陣の中にしまい、両手を後頭部に当てて悠々と船の中に向かって歩き出しました。


 その途中で思い出したようにセレンに軽口で頼みました。


 「あ、そうだった・・・ セレン様、ここら辺の炎の消火、お願いしますね~」

 「はあ?」

 「あなたしかこれ処理できる人がいませんから。よろしく頼みますよ~」


 カオスは歩く速度を速めながら手を振って離れていきました。


 「アイツ・・・ やっぱクビにしようかしら。」


 セレンはまた多少機嫌が悪くなり、面倒くさそうに思いながらも、自身の術でフィフスが出した炎を消化しました。

<魔王国気まぐれ情報屋>


・ドラゴン スザクフォーム


 信が使うスーツ、ドラゴンの一形態。四つのプロトスーツの一つ、『スザク』のデータを元に作ったもので、攻撃力や防御力は基本の姿に劣るが、機動力が格段に上がり、他にはない飛行が可能。


 背中には鳥の羽をもした巨大なブーレランが取り付けられ、ヘルメットから出す特殊信号で考えるままに操作が可能。威力も高いが、大きい分大ぶりになるのが弱点。




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