第227話 勇気を持って
時間を遡ること数分前、瓜はフィフスの気が信に向かっている間に自分にも何か出来ることがないのかと周りを見渡し、その途中で光る一点を見つけました。不自然に光っているその部分に瓜は思うところがありました。
『あそこだけ、光り輝いてる?』
瓜はその光が、まるで自分にあることを語りかけているように感じました。彼女はそこに可能性を浮かべ、出血している体をどうにか動かしてそこに向かって行きました。
一歩前に歩く度に体に激痛が走りましたが、彼女は友達を助けたいその想いの強さで耐え、どうにかその場所にたどり着きます。
『・・・これは!』
そこで光り輝いていたものの正体は、渋木に奪われていたフィフスの剣でした。とりあえず手に持ってみると、その近くにある別の何かを見つけました。
「?」
パッと見ただけではよく分かりませんでしたが、次第にこの場所に剣があることで一つ仮説が立ち、そのために彼女は吐き気を感じて空いていた手で口を押さえました。
「・・・これって!!」
瓜が見たのは、見覚えのある装甲の残骸と、ミンチのように潰された肉片。そして風に吹かれて散っていく小さな灰。これが何を表しているのは明らかです。
これを見たことで恐ろしさを覚えながらも、震える足を唾を飲み込むことで止めると、手に持っていた剣が突然鞘から漏れ出るほど煌々と光り輝き出しました。
『!? さっきより光ってる・・・』
彼女が剣を鞘から引き抜くと、その刃を見た途端に強い光に襲われ、つい瞬きをしてしまいます。すると目を開けた瞬間に視界が突然変わりました。
「!!?」
明かりの一切見えない暗闇の中で、不規則に伸びる一本の光の曲線。瓜本人は知りませんでしたが、これはフィフスがかのじゃ鈴音を救ったときのものと同じものでした。
普通なら混乱しそうな自体ですが、何故か彼女はこれをすんなりと受け入れ、目を懲らして前を見ます。そうすると、曲線の先に他の暗闇とは全く違うドロドロとした大きな塊を発見しました。
『あの位置、フィフスさん!!』
そこに剣は光を点滅させました。瓜はその語りかけられた内容を頭で理解しました。
「あれを・・・ 切る? でもそれじゃ!!」
流石にこのことには戸惑いが出ました。しかし剣がまた光を点滅させ、彼女に伝えます。
「・・・信じて?」
瓜は色々とよく分からない事がありましたが、何故か彼女はそれをこう受け止めていました。
『どうしてだろう。今初めて、それも人でもない相手のはずなのに・・・ まるでずっと前から一緒にいたみたいに、信じたいって思う。』
瓜は改めて剣の持ち手を強く握り、覚悟を決めて彼に大きく声を上げました。
「フィフスさん!!!」
そして現在、彼女の事を心配した信が抑えてきます。
「危険だ!! 君は下がって!!」
しかし気持ちの固まった瓜は、それを却下しました。
「大丈夫です!!」
「え?」
信が彼女の言うことに困惑して撃ちかけた銃を動かせずにいると、瓜は体にいくつか緊張による冷や汗を流しながら、持っている剣の持ち手を強く握りしめました。
「私が・・・ 貴方を止める!!」
当然フィフスの注意は再び瓜に向いてしまい、彼女に猛スピードで接近していきます。この速度ではとても瓜がカウンターを打つ事なんて出来ない。そのはずでしたが、今の彼女は違います。
『あの塊、こっちに近付いてくる。でも何でだろう・・・ 凄くゆっくりに見える・・・』
何故か瓜の視界には、こちらに向かってくるフィフスの動きが、まるでスローモーションでもかかったようにゆっくりに見えたのです。そして剣の方も、彼女に的確に指示を与えていました。
『まだ待つ。まだ・・・』
瓜はその指示通りに構えたまま動きません。端から見れば一瞬でフィフスは彼女の至近距離にまで近付き、炎を纏った拳を伸ばしてきます。
信が最悪の展開を避けるためにと銃を撃とうとしますが、とても間に合いそうにありません。しかしそんなことを目の前にしても動揺することがありませんでした。そして彼女とフィフスとの距離があと一メートルほどになったとき、剣が彼女に伝えました。
『今!!』
瓜はその指令に従い、剣を目の前に向かって躊躇いもなく、思いっ切り振るいました。武器の扱いが素人であるはずの彼女でしたが、その剣の動きは綺麗な曲線を描き、タイミングもピッタリと合って目の前の塊を切り裂きました。
シュン!!!・・・
真っ二つに切れたそれは、細かくバラバラになって消えていき、瓜が次に瞬きをした途端に景色も元に戻り、塊があった位置にいるフィフスが、自分の喉元寸前にまで拳を伸ばして止まっている様子が見えました。
「・・・」
瓜が無言で彼を見ると、少ししてからピクリと彼の腕が動きます。彼女が咄嗟に下がり、少し離れている信は銃の照準をフィフスに合わせます。
「瓜君!!」
すると瓜はフィフスの姿を見て何かに気が付き、下がっていた足を前に出しました。
「?」
信が彼女のしていることに疑問を浮かべましたが、すぐに理解しました。
彼女は両手を広げて剣を放し、身を構えると、フィフスの周りを覆っていた炎が消えていき、ピクリと動いた腕が下げ、流れるように気を失って前方に倒れていきました。
「フィフスさん。」
瓜はそれを受け止めると、安心して力が抜けてしまい、ガクリと崩れてしまいました。
「よ・・・ かった・・・」
ホッと一息つくと、彼女は次に急激な眠気に襲われ、そのまま共倒れするように気を失ってしまいました。
「・・・」
信は銃を下げ、走って二人の元に駆け寄りました。
「驚いた・・・ 本当に止めてしまうなんて・・・ やっぱり、先輩の子って事かな。」
彼は二人の呼吸音を確認し、ヘルメットの中で優しい笑顔がこぼれました。
よろしければ、『ブックマーク』、『評価』をよろしくお願いします。