第21話 暴走バス
翌日、もやついたままの状態でフィフスと瓜は学校へと登校した。いつも通りに自分の席に着くと、鞄を席の横にかけた。グレシアが、また送られていたラブレターをビリビリに破りながら教室には行って来た。
「いい加減にして欲しいわ!! ここまで執念深いなら直接言いに来なさいっての!!」
「朝から荒れてんな~・・・」
『髪クシャクシャになってます。』
そんなグレシアの様子を見て、周りにいるクラスメイトはヒソヒソ話をしていた。
「奥山さん、最近大変ね。」
「転校生に振り回されたり、今度はストーカー被害だなんて・・・」
「おい、今しれっと俺の悪い噂が広がってなかったか?」
「お菓子隊に目をつけられたからだろな。」
いつの間にかフィフスの隣には平次がやって来ていた。
「お前、何しに来た?」
「暇だったので町田さんに会いに。おはよ~!」
平次が手を振ると、瓜は反応に困ってそっぽ向いた。
「避けてきた!?」
「全く眼中にないようだな。」
その後、その日も何事もなく授業が進められていき、いつの間にか昼休みなっていた。食堂に人が群がる中、フィフス立ち四人は屋上にいた。
「拍子抜けだな、今日も仕掛けては来ないか・・・」
「わざわざこんな手紙だけ送りつけて、何のつもりかしら?」
確かにそうだ。そのときフィフスはこう考えていた。いくら相手が引きこもりかもしれないとはいえど、魔人もいるのに何でラブレターだけ毎日送られてくる状況が続くんだと。あの魔人の能力なら、見つけさえすれば催眠術をかけて簡単に拉致できるはずだからだ。
『どうにもきな臭い。こないだの戦闘も明らかに手を抜いていた。 ・・・ッン? そういえば・・・』
フィフスは思い立ったことをグレシアに聞いた。
「グレシア、もらって手紙はどうした?」
「どうって、すぐに学校のゴミ箱に捨てたけど・・・ それがどうかした?」
『学校の普通ゴミの処理は確か今日だったな。そしてグレシアに手紙が来たのは、前のゴミ処理が行われた翌日から・・・
・・・まさか!!』
そのとき、学校のそこら中に甲高い音が響き渡った。フィフスは瞬時に自分の耳を思いっ切り叩いて麻痺させた。
「何だ!? 突然!!」
「怒るなよ。」
フィフスは一番近くにいた平次の耳を自分の時以上に力を入れて叩いた。
バシッ!!
「イッテーーーーーーーーー!!!」
困惑している平次だったが、やられたことによってまさかと思い、辺りを見渡した。そこには、手荷物を落としたグレシアと瓜がただ呆然と立ち尽くしていた。
「町田さん!? どうしたんだ!?」
「待て! 近づくな!!」
心配になって平次はフィフスの言いつけを破って瓜に近づいた。すると・・・
ドカッ!!
「グホッ!!?」
本日二発目のしばきを受けた。瓜にやられたこともあって平次はかなり応えていたがどうにか立ち上がった。そして瓜達はその場から離れてどこかへと向かって行った。
残りの二人がそれを追ったが、妙なことが起こった。向こうは歩いているのに、走っているこちらが追いつけないのだ。
「い、一体何が起こった?」
「おそらく、例の魔人の仕業だ。奴の魔力を感じる。」
「どこから!?」
「そこら中からだよ!! おそらくラブレターの中に仕掛けてたんだろう。ゴミ捨て場を中心にそこら中に魔力を感じる。」
「ハア!? じゃ、じゃあアイツがどこにいるかわからんのか。」
「ああ、だから二人を追うしかない。」
「て言ったって、どんどん突き放されてんぞ!!」
平次はあまりの速さに根を上げていたが、フィフスはまだついて行けていた。二人が進んだ先には、同じように目の色を変えている生徒や教師が大半はそこで立ち止まり、一部の美女達はは一方向に向かって歩いていた。
「これは!?」
「全員術にかかってやがる。初めからこれが狙いかよ!!」
「どういうことだよ?」
「言ったとおりだ、グレシアへの行動は、これを隠す為の囮だったってことだ!! してやられた!!」
「それって、学校全体の美少女がターゲットだったってことか!?」
思っていたよりも不味いことになっていることに二人はやばく感じ、フィフスはともかく平次は足を無理矢理動かしながらダッシュをきめた。しかし、学校の校門付近にさしかかった時に、十体のウォーク兵が待ち構えていた。
「こいつら、こないだの人形兵!!」
「分かりやすい時間稼ぎだな・・・」
「瞬間移動で回避するか?」
「おそらく他の連中にまで術をかけたのは、その時用の人質だろう。どっちにしろこいつらを倒さざる終えない。」
「そこまで計算済みかよ・・・ あのカオスって奴は。」
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その場から離れた大きな柱の上、カオスがしゃがみながらフィフス立ちの様子を見ていた。
「ここまでサポートしたんだ。台無しにされちゃ困るんだよね。」
カオスは自分の手の中にある予備のラブレターをちらっと見た。どうやらこれを書いたのも彼のようである。
「さてと、こっちも次の手に移るか・・・」
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策もなくどうするかを悩んでいる間にウォーク兵に囲まれ、美女達はもう校門から出ようとしていた。
「おいどおすんだ? 女子達消えちまうぞ。」
「安心しろ、こうなるのを待ってたんだ。」
よくわかっていない彼にフィフスは説明する。
「剣で切っても動き、かといってこの人形兵の今のバラバラな陣形なら先を進んでいる奴らまで巻き沿いになる。だが、これなら・・・」
「そうか、この状況なら炎を出しても・・・」
平次はそう考えていたが、次の瞬間、彼はフィフスに足をもたれて逆立ちしていた。
「エッ? これはどういう・・・」
「ひっさーーーーーーーつ・・・」
そしてフィフスは平次を勢いよくグルグル回して彼の体を宙に浮かせ、その勢いと体の衝撃でウォーク兵を次々砕いていった。
「<メガネストリーム>!!」
「アバババババババババババババババババババ!!! 炎を使うんじゃねえのかよ!!?」
「馬鹿やろ~、そんなことしたら関係無い奴まで燃えちまうだろ。」
「関係ある奴は武器にして良いのかよーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
しばらくして全ての敵を倒しきると、フィフスは回していた動きを止め、頭が血まみれになって平次を元の態勢に戻した。
「よし、行くか。」
『こいつ・・・ 後でぶちのめす・・・』
その場で一つ恨みを買ったフィフスだが、そんなことを気にすることもなくすぐに美少女達を追った。
「行くっつったって、向こうはもう視界に見えないほど離れてるぞ。」
「魔力を探知する。」
「グレシアが前言ってたやつか! だが、ラブレターのせいで魔力が充満してわかんねえんじゃねえのか?」
「化けゴウモリのはな。だからグレシアの魔力を追う。」
「でも、アイツ催眠にかかってんじゃ・・・」
「どうやら向こうも何かを感じ取ってはいたようだな。杖を起動状態にして魔力を垂れ流してる。」
「俺たちを案内してるってことか!?」
「おそらくな・・・ 『だがどうにも変だ、まるで誘われているかのような・・・ 念のため、瞬間移動は使わないでおくか。』」
内心どこか不安になりながらも、グレシアの魔力を追っていった。
「待ってくれ・・・」
「どうした・・・」
「ゼー、ハー・・・ ちょっと、休憩させて・・・ くれ・・・」
「・・・ 仕方ねえ・・・」
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そして平次を背に乗せて屋根を渡って近道をしていった。しかしフィフスはその足のスピードを突然速め、平次は勢いに振り落とされそうになった。
「おい!! どうした!!?」
「向こうが加速した。人の速さじゃない。」
「乗り物にでも乗ったのか!?」
「あの人数に対して乗り物・・・ バスか!!」
フィフスの予想通り、一台のバスが、一般道路をものすごいスピードで走っていた。その中に、グレシアもいる。
「おいおい・・・ さすがのお前もバスのスピードは・・・」
「瞬間移動がある。これで・・・」
例の技を出そうと右手を動かしたその瞬間、フィフスは何かを感じその動きを止めた。
「何してんだ赤鬼!!」
『そういうことか・・・ 危うく一杯食わされるところだった・・・』
「おい、何か言えよ!!」
「落りろ、メガネ。」
「あ? どうしたんだ・・・」
疑問を抱きつつも平次はフィフスの指示に従い彼の背から降りた。
「さて、説明してもらおうか。これは一体・・・ って、アイツ!!」
平次が体制を整えて前を向くと、そこにフィフスの姿はなかった。しかし・・・
「つうか、ここ・・・ ボウワーーーーーーーーーーーーーー!!!」
いつの間にか平次一人が全速力で走っているバスの上にいた。火事場の馬鹿力で窓を割って中に潜入すると、攫われた美少女達がいた。
「やってくれるぜ・・・ 人に仕事全部押しつけやがって・・・ っん?」
平次がフィフスに苛つきながらポケットに何の気なしに手を突っ込むと、そこから覚えのないメモが出て来た。おそらくフィフスからのメッセージである。かれは早速開いて、読んでみた。
「グレシアの杖を取れ? ええっと・・・ グレシア・・・」
言われたとおりグレシアを探し、少しして見つけることが出来た。しかし、同時に新たな問題が彼の目の前に出現した。運転席にウォーク兵がいたのだ。
「どうしてアイツが!? 不味い、町田さんが危険だ!! 一刻も早く安全なとこに!!」
そう思って高速でバス内を見渡した平次は、ある一つのことに気が付いた。
「あれ・・・ 町田さんが、いない・・・」
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とあるアパートの一室。そこに男が二人、そして彼女がいた。
「さあどうぞ、あなたのお望みのものです。」
「よ、ようやく・・・ ここに来てくれたね。ぼ、僕のお嫁さん・・・」
興奮する男の目の前には、催眠術で無表情になっている瓜がいた。
「これで、あなたの望みは叶いましたね。」
「何を言ってるんだ? まだ叶っていないだろう。あの女に復讐することが。」
「それについては問題なく、順調に囮としての効果と共にやっていますよ。」
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不味いと思って振り返ると、運転席が見えた。明らかに違和感のある姿に気になってよく見ると、そこにいたのはウォーク兵だった。
「人形兵!? 例の化けゴウモリがいない。」
その事に気付いたが、時既に遅し、向こうもこちらの存在に気付いて襲いかかってきた。
「ちょちょちょ、待ってーーーーーー!!」
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「もうじき、壁にぶつかって潰れるか、水に沈んで始末できます。安心して、そちらはやってください。」
そう言われてニヤッと笑った男は、その手で瓜の頬をスリスリとしていた。
「じゃあ、早速始めようとするかな。ね、えっと~・・・」
「町田 瓜さんです。」
「わかってる!! さあ瓜たん、向こうの部屋に行こっか。」
「ハイ、旦那様。」
催眠術によってなすがままに従って動く瓜、向こうへと行く途中に男は立ち止まり、瓜の顔を見てこんなことを言い出した。
「そうだよ、ことをする前に僕達の愛を確認しないとね。」
「・・・」
「さあ瓜たん、僕と熱いキッスを交わそうよ!!」
すると男は鼻息を荒くして自分の唇を突き出した。男の言った言葉に反応し、無関心の状態で瓜も動き出す。
「ハイ、旦那様。」
瓜もその唇を前に出し、もう少しで重なろうとしていたときだった・・・
ヒュン!!
二人の間をへしゃげた扉が通り過ぎ、それに驚いた男が尻餅をついたことで瓜の純潔は守られた。
「な、何だ!? 突然・・・」
「まさか・・・」
化けゴウモリが驚きながら振り返ってみると、そこには若干怒り気味のフィフスが剣を構えて立っていた。
「よお、探したぜ。」
<魔王国気まぐれ情報屋>
<メガネストリーム>
フィフスが即興で思い付いた必殺技。平次の両足を掴み、彼の石頭と振り回す遠心力で相手を粉砕する。威力はフィフスのさじ加減と平次の我慢でかなり変わる。
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