第223話 規格外
虫の知らせというものが本当にあるのか、フィフスがあの姿になったことは、それぞれの場所にて皆が何かを感じ取っていました。
ごく普通の町中の喫茶店でバイト中のサード。
『ッン!!・・・ 何この感じ』
仕事に向かって馬車で移動中だったセカンド。
『・・・ なんでしょう、この寒気。』
古塔の中でいつものように祈りを捧げ、邪気を鎮めていたマイナ。ゆっくりと閉じていた目を開きます。
『フィフス・・・』
魔王城にて自身の椅子に座っていた魔王。無言のままでしたが、椅子の手すりを握り、ヒビを入れました。
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そしてその現場にほど近い場所。見物をし続けているカオスの元に足音が聞こえて来ました。彼は解くに警戒することもなく、その相手に話しかけます。
「来ましたか、ご苦労様です。」
やって来たのは、さっきどうやって行方をくらましたか分からなかった倉です。しかし彼女は、フィフス達と接していたときとはどこか態度が違いました。
「あれが、獄炎鬼の正体?」
声をかけられ、カオスは初めて彼女の方を振り向きました。
「あれ? まだその姿でいたんですか? もう戻ってもいいですよ。」
倉はフンッとしながら目を閉じました。すると彼女の体が足下から水に包まれていき、全身にそれが広がってはじけると、そこにいたのは・・・
「アンタの猿芝居に付き合ったほどの効果はあったんでしょうね?」
「上々ですよ。影ながらアシストありがとうございます。セレン様。」
「影ながら? 誤魔化しながらの間違いでしょ。」
セレンの言おうとしていること。実は四体の魔人の契約者は、倉ことセレンではなかったのです。
「あのときあの男に契約させて、その事を歌で忘れさせた。元からクズな性格があったのは確かだけど。」
「起爆剤になるって言ったでしょ。ただでさえ今回は、彼を覚醒させるために大がかりなシナリオを組んだんですから。それこそオークの時からね。」
カオスはここまでそのシナリオを振り返ります。
「キマイラ戦の時、魔人化したベルリズムにかけていたのは幻術だけじゃない。攻撃した相手の闘争心を上げるものがあった。
後は怒らせるだけだったってのに、砂人も枕返しも次々やられちゃいまして・・・ だから彼自身でなく周りを被害に遭わせたんです。」
それを聞いていてセレンは一つ気になったことを聞きます。
「でも、あれを出したいのなら最初から私の血を入れれば良かったんじゃないの?」
「それじゃダメなんですよ・・・ あの力、本人が自分の意思で固く封印してましたから。自分の意思で開けさせないと、体ごと壊れて終わりだったんです。」
カオスは顔の向きを元に戻し、愛用の魔道書を開いて楽しそうに話します。
「そのシナリオもようやくクライマックスです。散々働いた分、楽しもうじゃないですか。」
その内心では、セレンにも言っていない事を思います。
『今回は頼みの綱の剣も無い。縛るものは何もないよ魔王子君。さあ、存分に暴れてくれ。』
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再び戻ってその戦場。渋木は勝手に震えている体を抑えながら、フィフスに見せかけの余裕の態度をとります。
「ハハ・・・ 格好が多少変わった程度で何が変わる? そんなことでお前に俺は倒せない。」
渋木はもう一度レーザー光線の充電をし、それが完了するとすぐに発射しにかかりました。
「やっぱり・・・ たかだか姿が変わったところで、何も・・・」
シュン・・・
「・・・!!?」
次に彼がレーザー砲の引き金を引こうとしたとき、そのレーザー砲は跡形もなく消え、代わりに直線上に広がった炎が燃え広がっていました。
「・・・は?」
彼が目の前で起こったことに一瞬頭が真っ白になっていると、今度はいつの間にか至近距離にまで近付いて来たフィフスによって拳を腹に叩き込まれてしまいました。その途端、これまで何度攻撃を受けても傷一つ付かなかった彼の装甲はメキメキと音を立て、そして破壊されてしまいました。
「ガハッ!!?・・・」
『なんだ!?・・・ さっきまでとは比べものにならない威力だ・・・』
足を甲板に擦らせて速度を落とし、船の端の手すりにぶつかることでどうにか停止しました。軽々と攻撃が通った事実に彼が動揺しながら下を見ると
「!!・・・」
彼の腹辺りから、ドロドロと血が流れ出ている様子が見えました。
「ハアッ!!?・・・ ハアアァァァ!!!!」
自分に起こったことにパニックになる渋木。次に彼が前を見ると、フィフスがもの凄い勢いで自身の後ろに火を飛ばしながらこちらに迫ってきていました。
「ヒィッ!!」
彼は咄嗟に右によろけると、フィフスは彼がぶつかって凹んでいた手すりに殴り込み、それを破壊して見せました。
渋木はこれを見てゾッとします。
『装甲がなかったら・・・ もし頭がやられていたら・・・ 今ので・・・ やられていた・・・』
そんなことを思う間に、次の攻撃が迫ります。彼は回避しようと動きますが、右足がそれに遅れて攻撃が当たってしまいました。
「ガアアァ!!!」
また攻撃された箇所の装甲が破壊され、出血します。しかも足がやられたことで、彼は動きが遅くなり、次の攻撃から逃げるのが不可能になってしまいました。
「ア・・・ アアアァァァ!!!!」
彼は必死に両腕の銃を撃ち出しますが、銃弾は全てフィフスに当たる前にその体から出ている熱で溶かされてしまいました。
「そ! そんな!!」
「・・・」
自身の最後の武器も通じず、敗北を確信した彼は、どうにかして逃げ出そうとします。ですがそうはさせまいとフィフスは彼の首を掴み、その体を持ち上げました。手の周りの炎で首が焼けただれていきます。
「ま! 待て!!・・・」
散々上から化け物と呼び、蹴落としてきた相手に生殺与奪を握られ、恐れおののいています。ですがその声も、フィフスには通じていないようでした。
「・・・」
「謝ぐ! ごれまでじてきたごとは謝るがら!! 瓜もお前に返ぞう!!」
フィフスは無言のまま右手を引き、そこに炎を纏います。それを見て渋木は喉が潰れるほどに声を出し、どうにかフィフスを説得しようとします。
「待て!! 賠償もずる!! 金も出す!! ぞうだ!! あの男がら聞いた情報も話す!! 全部話す!!! だから!! だかっ・・・
音もなく突き付けられる拳。それに触れた渋木の頭は、そこから発生した火炎放射のような炎に包まれ、ジタバタと動いていた体も抵抗がなくなりました。
「 ・ ・ ・ 」
フィフスが手を離すと、甲板には、頭が跡形もなくなった渋木だったものが無造作に落ちていきました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・カオスのいうここまでの道のり
船の中で彼女の旧友に会わせる。
臼負いにそこを襲わせて警戒させる。
偽物を使って彼女からの信用を揺さぶって焦らせ、旧友の有能さを見せつけて更に煽る。
彼女を追い込ませ、仲間に裏切らせる。
ショックを受けた彼に真実を伝え、微かな希望を抱かせる。
手紙を渡し、それを果たす道筋を作る。
そして、最後にその希望を目の前で壊してあげる。
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