第217話 ギリギリ
監禁部屋から離れ、既に別の場所に向かって移動中の渋木。自身のスマートフォンで、爆弾が作動したことを確認します。
「見事に罠にかかったか。数が多ければ引っかかるとでも思ったか、馬鹿が。」
渋木は自身が先頭から離れたときにまたGPSを取り付けられていることに気付いていました。だからそれを逆に利用し、二人をはめたのです。
「これで邪魔者は消えた。時期カニの化け物が死体を見つけるだろう。」
今彼は、まずVIPエリアにいませんでした。既に必要な荷物は持ってそこを離れ、カオスから報告のあった場所に向かっていたのです。
そしてそんな彼の側には、大人しく付いてきている瓜の姿もありました。渋木は彼女の顔を見て、優しく声をかけます。
「もうすぐだよ、瓜。」
瓜はその言葉にゆっくりコクリと頷き、二人は揃って船の甲板にまで歩いて行きました。信やなため人のいないその場に到着すると、先端の装飾品から降りていたカオスが彼らに向かって手を振っていました。
「お待ちしてましたよ~・・・ 渋木様~」
「乗り換え便は?」
「バッチリです。はしごも用意してますので、どうぞ自分のタイミングで乗っていってください。」
さっき叩かれておきながら一切調子が変わっていない彼の態度に渋木は少々怪しみましたが、こちら側も時間がないこともあったので舌打ちをしながら用意された小舟に乗り込もうとしました。
「行こうか。」
渋木が瓜に手を差し伸べると、またも彼女は無言でコクリと頷き、それから彼の手を掴もうとしました。
「いい子だ・・・」
しかし彼女が渋木の手を握りかけたそのとき、突然二人の顔の間を小さな火の玉が通り過ぎました。
「何だ!!?」
瓜は特に何の反応もありませんが、渋木は目が点になってつなぎかけていた手を離してしまいました。
「今の火の玉・・・ まさか!!」
渋木が息を荒げながら火の玉の飛んできた方向を向くと、そこには・・・
「よお・・・ ギリギリ間に合ったか?」
またも体中から熱を放ち、無理矢理体を動かしているフィフスでした。やせ我慢のつもりか、軽くニヤけさせています。そんな体ではありますが、まず彼がここにいるという時点で渋木には驚きの出来事でした。
「どうしてここに!? 爆弾は起動したはず・・・」
渋木は驚きを隠すためにすぐに思い付いたことでケチを付けます。
「そうか・・・ お前、連れの男も生け贄にしたんだな。あの女と同じように。」
「あいにくそんなつもりはねえ、ドクターも・・・ 倉もな。」
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監獄部屋にフィフスと信の死体を確認しに行った化ケガニ。爆破で焦げた壁を見ながら文句をこぼして入っていきます。
「やれやれ・・・ わざわざ死体の確認などさせおって・・・ いつになったらそのときは来るんだか・・・」
壊れた家具に煤汚れた絨毯。大きく破れたシーツがぐちゃぐちゃになっています。
「汚いな・・・ しかし遺体はどこに・・・」
化ケガニが死体探しに後ろを振り返ると・・・
ファサ・・・
カチャ・・・
「!!?・・・」
化ケガニは突然後頭部に銃を突き付けられました。そして後ろからは・・・
「来ると思ってたよ。かくれんぼも僕の勝ちみたいだね。」
「お前は!!・・・」
ぐちゃぐちゃのシーツに中に隠れていた信が飛び出していました。
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「そんな・・・ だが、どうやってここに!!? 場所は漏れていなかったはずだ!!!」
「そこもドクターの助け。貸しを重ねるのは気が気じゃないがな・・・」
渋木は網にかけたはずの相手が目の前にいることに次第に怒りが湧き、すぐにスイッチを手元に出しました。
「ハハ! だがここに来たことろで、わかりきっていることだろう。それともナノマシンのせいで馬鹿にでもなったのか? 言っただろう! お前は俺に戦わずして負けるってな!!!」
渋木は手に持ったスイッチを一気に一番深くまで押し込み、フィフスを即死させにかかりました。
「ハハハァ!! こうしてみると、本当にあっけないものだな!?・・・」
渋木は勝ち誇ったように笑いましたが、目の前にいるフィフスに何の変化もないことに気が付いてそれが収まりました。
「あ? おい、死ね。」
渋木は接触不良かともう一度スイッチを押し直しますが、フィフスはそのままです。焦った彼は連続で何度もスイッチを押しますが、フィフスの様子は変わりませんでした。
「死ね! 死ねよ!! なんで!!?」
「もうその手は通じねえよ。」
「!!・・・ 何!?・・・」
フィフスが軽くそう言ってのけたことに渋木は驚きの表情を隠せなくなりました。理由を聞きたがっている渋木にフィフスはある物を取り出しました。
「それは!!」
「そ、お前が落としたそのスイッチの予備。お前らがいなくなってから拾っといた。」
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実はあの時、フィフスは信に頼んでいたのです。
「ナノマシンを遠隔で壊す?」
「そうだ。頼めるか?」
しんどそうに頼むフィフスに、信はハッキリと答えます。
「無理! 壊せてスイッチ単体のみだね。」
「そうか・・・」
打つ手無しと頭を抱えるフィフスに、信は言葉の続きを言い出します。
「でも、もっと有効には使えるよ?」
「何だと?」
「まあ、任せてよ。」
そこから信はどこから取り出したのか不明な工具でスイッチ、そして自身のスマートフォンをいじり出しました。
そうして信はナノマシンの起動信号を解読し、なんとナノマシンを起動する信号の周波数を変更した上、元の信号周波数をスマホに記憶させて渋木の居場所を特定させたのです。
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「スマホ一つでそれを全部やってのけたドクターには驚かされたがな。お前も、自分の武器が逆に利用されることは考えてなかっただろう。」
と、最後に少し本音をこぼしながらフィフスは手に持っているスイッチを握り潰して見せました。表には出していませんが、相当怒りをため込んでいるようです。
「さて、小細工もなくなったところで・・・
・・・『タイマン』、はろうじゃねえか。」
夜の寒さと合わさって緊迫した空気の中、フィフスは白目を真っ赤に染めた目で渋木を凝視しました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・ベッドのシーツに隠れる信
けっこうギリギリの大きさにかなり窮屈にしていた。
信「服掛けとかの方が良かったかな・・・」
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