第20話 行方不明事件の真相
多少仕方なしながらようやくけじめをつけたグレシアは、自分がなぜ行方不明の形で日本に来たのかを話し出した。
「フィフス、アンタもこの前まで魔王国にいたなら、ここ最近の軍人達の行方不明事件については知ってるわよね?」
「ああ、短期間にえらく人数が減って、好機と感じた勇者の連中がよってたかって攻めてきてたな。いちいち対応して変に疲れたもんだ。」
フィフスが愚痴を言い切ったタイミングに、グレシアは続きを言いだした。
「そのほとんどが、自分からやったものだとしたら?」
「!? まさか・・・」
フィフスは大体の筋書きが読めてきた。だからこそ驚きの表情になっていた。
「そ、この世界で契約魔人となって悪事を働いている奴らは、全員『元 魔王軍』だったってことよ。」
瓜はもちろんわかっていないよだったが、フィフスニとってはかなりの緊急事態だ。
「おいおいおいおい・・・ それがマジだってんなら、奴らは何のためにわざわざここに来てんだよ。」
「残念ながら明確な理由は不明よ。アタシも調査でかり出された時に、捕まって今に至るからね・・・」
「捕まってただ?」
フィフスからの疑問にグレシアはそっぽを向いた。その上、明らかに嫌な顔をしている。
「ええ、それで契約の魔道書に血を入れられた挙げ句そこに吸収されて、挙げ句の果てに異世界にポイ捨てされたのよ~・・・」
「お前、不憫だな・・・」
『中々キツいですね・・・』
「ウッサい!!」
わかりやすくグレシアはキレた。
「そうだよ、俺が拾ってなかったら、今頃こいつどうなってたか・・・」
「そういやお前、こんな本何で拾ったんだ?」
ジト目をしながらフィフスは平次に冷めた視線を送る。対する彼は全身から汗をかいていた。そして、細々と声を出した。
「え、いや・・・ 拾って魔法陣に触れたら、願いが叶うって分かって・・・
・・・そりゃあ願いが叶うってんならやってみたくなるだろ。」
「あ、そうか・・・」
『誰かさんと同じくらい後先を考えねえな・・・』
『とか思ってるんでしょうね・・・』
少し沈黙が流れたが、フィフスは唐突にこんなことを言い出した。
「で、お前の願いって?」
「あ、いや、そんなことは、また、今度の機会にすれば良いんじゃないのかな~・・・」
わかりやすく焦る平次。そこにグレシアはスパッ!!っと言った。
「『彼女』よ。」
「「ハッ?」」
「ちょ、言うな!!」
「『可愛い彼女が欲しい』って願いよ。アタシも最初聞いた時は呆れきったわ。」
「ナーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
平次は瓜のいるところで自分の秘密をばらされたことにもはや絶望し、叫びきった後はその場で真っ白になって崩れ落ちた。
『終わった、デリカシーのない魔女のせいで・・・ 俺の人生終わった。』
ギリギリ正気を保っている目でフィフスを見ると、こちらを見て口を手で押さえながらメチャクチャ笑っている。本人は誤魔化しているつもりなのだろうがニヤけた目でバレバレだ。そして瓜は・・・
『や、やめてくれ・・・ 町田さん、そんな目で見ないでくれ・・・』
しかしその彼女は、皆が思っていたのとは違う反応をした。
「そう・・・ ですね・・・ 頑張ってください!!」
珍しく瓜が激励をかけたのだ。その事に三人は脳内でこう考えたのだ。
『まさか、気付いてないの!?』
『ここまで天然だと、逆に凄いな・・・』
『なんだかわからないけど、助かったっぽい?』
揃って冷や汗をかいていたが、このままの雰囲気に耐えられずフィフスは自分から言いだした。
「あ、ちなみに俺の契約者であるこいつの願いは・・・」
「知ってるわよ、『たくさん友達が欲しい』でしょ。」
答えられたことにフィフスは目を細めて驚いた。隣を向くと、そこにいる瓜がそっぽを向いて汗を大量にかいている。まさかと思いながら、フィフスは瓜に聞いた。
「おい、まさかと思うが・・・」
「その通り・・・」
グレシアは鞄の中からスマホを取りだし、SNSの友達欄にある瓜の名を見せた。
「・・・ どういうことだ?」
『ス、スミマセン・・・ この間の決闘以降、よく話すようになりまして・・・』
「その子話せないから、こういう形にしたの。以来仲良しです!!」
「ああ・・・ そうか・・・ 『契約完了に近づいたのは良いがまさかこいつとはな・・・』」
フィフスは落胆していた、そして平次はグレシアを見て怒りだした。
「オイ!! それ、俺も聞いてないんだけど!!」
「アンタに言う必要ないじゃない。これは女子のたしなみよ。」
「お前、人の願い叶える気あるか・・・」
平次は涙ながらに小声で呟いた。フィフスの方もむず痒くしていたが、何を思ったのか真剣な目付きに変わり、グレシアにまた質問を始めた。
「グレシア、ひとつ聞いていいか?」
「どうしたのよ、急に神妙になって。」
「その行方不明事件に、『フォース』ってのは、絡んでるか?」
一瞬彼女は目を見開いたが、すぐに戻して答えた。
「・・・ 残念だけど、今のところはアタシも知らないわ。」
「そうか、ならいい・・・」
聞いて意味がわかっていない二人をよそに、二人は一連の会話を終え、その場から退散を始めた。二人、特に瓜は、今の言葉が引っかかっていた。
帰路にたどり着いてフィフスと瓜が自宅に入ろうとすると、グレシアがそれを呼び止めた。
「フィフス!・・・」
「何だ? まだ言い足りないことがあんのか?」
「アンタ・・・ まだその剣に拘ってんのね。使いこなせないくせに。」
フィフスは辛辣な表情になり、その顔を見てすぐにグレシアと平次は帰って行った。
『使いこなせない? それって・・・』
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先程のグレシアから言われたことで、家に帰ってからもどこか不機嫌が続いているフィフス。瓜はそんな彼と今夕食を食べていたが、どうにも気になっていた。そして彼が「ごちそうさま」と言い終わるタイミングにとうとう聞いた。
『フィフスさん。』
閉じていた目を片方開きながらフィフスは反応した。
「ん? 何だ、瓜。」
『さっき奥山さんが言っていた事って・・・』
「お察しの通りこの剣のことだ。」
フィフスは近くにあった己の剣を手に取り、瓜の前に出した。
『それって、確か前に戦った魔人に通じていなかった剣ですよね。それが使えていないというのは・・・』
彼は鞘から剣を抜き出して瓜に刃を近づけ、そして語り出した。
「こいつは、アイツの言いたい通り本来なら術装なしで使うことが出来るはずの代物だ。だが俺にはそれが出来ない。」
『なぜですか?』
「それは・・・」
『それは・・・ ゴクリッ!!・・・』
フィフスは剣を引き、そのどんよりとした中、一言こう言った。
「・・・ 俺にもわからない。」
フィフスは冷めた顔になって腕を降ろしてそう言った。当然瓜は椅子からずっこけた。
『何だったんですか、今のため・・・ それに、わからないって・・・』
フィフスは剣を自分に近づけて訳を話した。
「そもそもこの剣、もらい物だしな。俺には使い方もわからん。」
『もらい物だったんですか!? 誰からのですか。』
「・・・ まあ、向こうの友人にな。」
そのときのフィフスはどこか少し暗そうな表情をしていた。瓜はその様子をくみ取ってそれ以上は聞かないでいた。
瓜はその後はすぐに食事を終えて風呂に入ると言い残してその場を去って行った。部屋に一人残っていたフィフスは、剣を鞘に少し入れて、物思いにふけっていた。
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それはまた幼い頃のフィフスと、その友人が二人で隣り合って座っていた。そのときフィフスは何の気なしにその少女に聞いてみた。
「ねえ、お前、その剣いつも持ってるけど大切な物なのか?」
質問を投げかけられて彼女はまったりとしながら答えた。
「ん? あ~これ? うちの家に代々伝わってる剣らしいわ。アタシそういうの面倒くさいから、伝承はあまり聞かないけどね。」
「それ、大丈夫なのか・・・」
疑問に思って冷や汗をかくフィフス。そんな彼を見て彼女はニシシと笑っていた。そして、そのとき何かを思い出したように閃いた顔になった。
「そ~いや、こんなこと言ってたのはなんとなく覚えているわ。」
「そ、そうか・・・ で、何を思いだしたんだ?」
そして彼女は腰に携えていた剣を膝の上に乗せ、そこから刃を鞘から少し抜いて得意げに語り出した。
「この剣は、ある一つの事に確固たる強い決意を持ったときのみ、その力を引き出して切るべきものを切るって・・・」
「ある一つの事って?」
「さあ? それはアタシも知らないわ。」
彼女はそう言って剣を直した。
「何だよそれ。 それじゃあせっかくの力も当てになんねえだろ。」
「だよね~・・・ アタシも別にそんなの信じてないし、これも単なる剣の模造品でしょ。」
「だな。」
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「ホント、強い決意って何なんだよ。」
そう一言文句をたれながら、フィフスは剣を完全に鞘に収めて、家の元家具倉庫である自室に入っていった。
その同時刻に風呂の浴槽につかって考え事をしている瓜、さっきのことがどうにも引っかかる。
『珍しい、フィフスさんがこんな思い詰めた顔をするだなんて。あの剣の持ち主に会いたいんでしょうか。やっぱり、帰りたいんですかね・・・』
湯船に鼻の所までつけて、ぶくぶくしている。そもそもフィフスは、自分のせいで右も左もわからない異世界での生活を強いられ、つらいはずなのに、初日以降全然文句を言いもしない。自分がそれに甘えて、『友達』と言い張ってそれを押さえつけている。
『私は・・・ 何様なんでしょう・・・』
その日の二人は、お互いに悩みを抱えながら夜を過ごした。
<魔王国気まぐれ情報屋>
瓜とグレシア、フィフスがトイレに行っている間に女子同士で意気投合。グレシアが瓜の意思をくみ取ってメールでの会話にとどめた。
瓜『フィフスさん以来の「友達」、契約完了に一歩前進です!!』
グレシア『嬉しそうにしちゃって・・・ よっぽど友達が欲しかったのね。』
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