第213話 瓜の真意
いきなり知らない部屋に連れ込まれ、動揺する彼女に、渋木はここまでとは違う様子で話し始め、彼女に名刺を出しました。
「この機会に改めて自己紹介をしよう。『エデンコーポレーション 特別工作員 猿柿 渋木』だ。諸事情により、これまでのことを立案した。」
「ッン!! それって!!?」
「つまり、君達がこの船にいるのは、全て俺の計画だったってことさ。」
渋木は動揺が一周回って固まってしまった瓜に事の発端を説明しました。瓜は離しを聞き流しながら
「そう落ち込まないでくれ。そのおかげで俺と君は再会できたんだから。」
「・・・」
渋木は優しい笑顔で話を続けようとします。
「うん。だから・・・」
「ごめんなさい!!」
瓜はその話の最中に後ろに手を伸ばし、感触で分かった枕を咄嗟に掴んで渋木に投げつけ、それに彼が怯んだ隙に外に出ようと扉までは知って開けようと奮闘し出しました。しかし扉は内からもカードキーでしか開けないようになっており、瓜がどれだけやっても力ずくでは開きません。
そんな彼女を様子を見ても渋木は調子を変えませんでした。
「君とは小さい頃のわだかまりの分、これからは仲良くしていきたい。そうだ! 今度君の友達にも会いに行こう!! 確か、奥山 志歌だっけ?」
「!?・・・」
瓜は彼の口からグレシアの名前が出たことで、焦っていた動きを止めてしまいました。そこに渋木は更に名前を言ってきます。
「他には、石導 平次や日正 鈴音、あとは、岡見 思念だったね。」
瓜はどんどん背筋が凍り付き、体が反射で震え出しました。
「怖がらないでくれよ。今の瓜のことを知りたくて、どんな奴とつるんでいるのか調べただけさ。いつ挨拶しよっかな? 行こうと思えばすぐに行けるしね。」
次々彼が言っていくのは、全てこれまでに出来た瓜の友達の名前ばかりです。これはつまり、彼女達のことは既に知られているということ。そして、いつでも殺すことが出来ることを暗に示していました。
人質を取られた瓜は途端に扉から離れました。その体からは冷や汗が次々湧き出てきます。彼女が状況を理解したことに余裕を感じて渋木がそこに近付いて来ました。
「まだ考えているのかい? あの化け物のことを。」
「小馬 五郎君です・・・」
「偽名なんてどうでもいい。奴の出自は変な仮面男から聞いている。それに、エデンのファイリングに資料があったしね。」
『仮面って・・・ あの人から!?』
瓜の頭にカオスが思い浮かびます。
「こことは違う異世界で、殺人の限りを尽くした大犯罪者、フィフス。向こうじゃ『獄炎鬼』なんてたいそうな異名で呼ばれている。日本では龍子博士の飼い犬になっているって事も知っている。」
『飼い犬・・・ そんな言い方・・・』
瓜は渋木の言い回しに腹が立ちましたが、今彼の刺激したときのリスクを考えてその思いを抑え込みました。渋木は調子に乗ってペラペラと喋ります。
「実は俺の上司が以前から会社内をチョロチョロしている化け物の存在に怖がり・・・ いや、苛ついていてね・・・ そこで情報を知った俺が進言してみると、喜んでこの船の計画を立案してくれた。万々歳だ。そして、コイツもな。」
渋木は言葉の間に自身のポケットから小型のスイッチを取り出し、それを瓜に見せびらかしました。
「それは?」
「ナノマシンの起動スイッチだ。」
「ナノマシン?」
彼はスイッチを振りながら楽しそうに説明します。
「現在エデンの一部によって極秘研究されているものの試作型だ。対象の体内に入れさえすれば、いつでもスイッチを押した途端に苦痛を与える優れ物。対象に拷問するときに使う用らしい。」
瓜は率直に悪趣味な発明品だと思います。でもその事をわざわざ自分に言い聞かせてくるところに思うところがありました。
「どうして・・・ それを私に?」
そんなものに手唐突に話してくる彼に理由を聞く瓜ですが、彼女はその理由をなんとなく予想していました。そしてその思い立った文章をなぞるように渋木の話は続きます。
「例えば、あの赤鬼の朝食の中にそれを仕込んでおいたと言ったらどうする?」
「ッン!!・・・」
「これさえ押せば、いつでも簡単にアイツを殺すことが出来るんだ。凄いと思わないかい? ハハハ! 現代科学様々だな。」
彼の自慢げな話を聞いて、とうとう瓜は戦意喪失しました。自分が下手な抵抗をすれば、自分がこれまで仲良くなってきた皆が危ない。そして、その中でも自分の一番の友達であるフィフスが、今まさに彼の手に心臓を握られているのです。
「・・・」
そして瓜は目線を震わせながらも、どうにかしていつ彼が殺されるかも知れない状況を変えようかと考えました。しかし彼女はフィフスほど策を考えきれる自信はありません。しかし彼のここまでの事を見て、彼女は一つ思い付きました。
「・・・ 渋木君。」
「ン?」
「彼を殺すのは・・・ 何故ですか?」
「何故って、君を散々騙してきたからだよ。奴は最悪の化け物。それだけで分かるだろう?」
「そうですか・・・ なら!」
彼女は拳を握り、振り返って渋木に顔を向けて目を合わせ、ハッキリとこう申し立てました。
「なら!! 私が彼にとどめを刺します!!」
渋木は彼女の言っていることに逆に困惑しました。
「どうしたんだい? こう言っちゃなんだけど、君の性格だと断ると思ったんだけど。」
「・・・私がそうすれば・・・ 油断するはずですから・・・」
「はい?」
「私が彼と絶交すれば・・・ もう彼を殺す理由はないはずです!!」
「・・・それって、彼を生かしておいて欲しいって事?」
「代わりに・・・ 私は今後、貴方の言うことに・・・ 逆らいません・・・」
「・・・」
ただの口約束。正直瓜もこんな軽口で上手くいく気はしていませんでした。しかし渋木の反応は意外なものでした。
「いいよ、じゃあアイツらに言って競って人具して貰っとくよ。」
「渋木君!!」
「ただ殺すより、信頼する奴に裏切られる絶望の法がスッキリするからね。」
渋木はグシャリと笑いました。彼は彼女の起こす行動でフィフスがより追い詰められれば、それはそれで面白いと思ったのです。
そうして瓜は渋木の指令を受け、事前に縛られて気絶した演技をしていたのでした。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・エデンコーポレーションの科学部門は数多く別れており、渋木の協力者は信とは違う別の部署の科学者です。
信は自身のスーツの技術がパクられてしまったと言いましたが、その事については後々語りましょう。
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