第212話 手紙
ドスッ!!
暗い部屋に響き渡る鈍い音。たまり場に戻ってきた渋木がいきなりカオスを殴り飛ばしたのです。
「イッタァ~!!・・・ いきなり何するんですか~?」
「よくも飄々と・・・ お前が瓜を部屋から出した事ぐらい察しが付いてる。どうやって部屋には入れたのか知らないが、次やればどうなるか・・・ 分からないわけはないよな?」
「・・・」
渋木はその不機嫌な顔を変えずに瓜の所に向かって行き、いなくなったことを確認すると、カオスは仮面越しに撃たれた頬に手を当てて不機嫌そうにしています。
「酷いな~・・・ どうせなら彼女を抱えて、形だけでも人質にでも出来ただろうに・・・」
『ま、仕込みは済んだし、後は時間さえ来ればね・・・』
カオスは手を下げ、後ろにいるであろう倉を一瞬見て目を戻しました。
『・・・今は花火が上がるのを待つとするか。手紙も届いただろうしね。』
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カオスがその事を思っているのと丁度同じタイミングに、フィフスは楽になるために床に座ってその手紙を広げていました。そこに書かれていたのは、瓜からのものと思われるメッセージが書かれていました。
「悪いドクター。難い漢字はまだ読めねえから、音読頼めるか?」
「いいよ。どれどれ・・・」
瓜の独白
フィフスさん、ごめんなさい。
この手紙を読んでいるということは、私はあなたともう会うことはないでしょう。
単刀直入でこんなことを言われて驚くかも知れませんが、どうか分かってください。私なりに考えた一番最善の方法なんです。
そこに書かれていたのは、瓜がフィフスといないときに起こっていた出来事についての詳細でした。
そして瓜の監禁部屋。そこに戻された瓜は部屋に入ってきた渋木に顔を向けようとしませんでした。明るい場所に来たことで、彼の腰にフィフスの剣が携われていることが分かります。
「瓜・・・ 君も勝手なことをしたね。なんであんなことをしたんだい?」
「その剣は・・・ 彼の・・・ 大切なもので・・・」
「ああ、これ?」
渋木は剣を鞘ごと手に取ります。
「それで別れの挨拶ついでに返しにいったのか。でもね瓜、君が俺といる以上、敵に武器を与えるなんて、そんな恐ろしいこと、二度としないで欲しいものだな。」
渋木は武器を戻し、次に目の焦点を向けたのは、瓜が左手首に付けているブレスレットでした。
「フフッ・・・」
すると渋木は突然銃を構え、そのまま発砲しました。瓜が驚いて固まると、銃弾は瓜が左手首に付けていたブレスレットを破壊しました。残骸はそのまま床にポロポロと落ちていきます。
「ハッ!!・・・」
「もうそれもいらないだろう。これで、奴との縁は完全に切れた。いいね?」
「アッ・・・ ッン・・・」
瓜は沸き上がる何かをこらえ、首を縦に振りました。しかし渋木の方も、さっきのフィフスの台詞がまた頭をよぎりました。
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「深い理由なんてねえよ。俺がアイツを信じたいだけ。それで理由なんて十分だろ。」
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彼にとってフィフスのその言葉は、どこまでも癪に障るものでした。彼が次に思い出した一時。それは、瓜がフィフスに秘密裏に渡した手紙と同じ内容でした。
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回想
「聞かせてくれ! さっきの返事を・・・」
「わ・・・ 私は・・・」
「恐ろしい化け物なんかより、俺を選んでくれ!! 瓜!!」
「!!・・・」
瓜はその瞬間ハッと目が覚めたようになり、ついに覚悟を決め、渋木の目を真っ直ぐ見てハッキリと一言言いました。
「・・・出来ません。」
「・・・え?」
そのとき彼女は彼の手を離し、頭を深く下げて、もう一度言いました。
「ごめんなさい!! あなたとお付き合いすることは出来ません!!!・・・」
「どうして・・・」
渋木の動揺した声が聞こえてきました。その質問に瓜も答えました。彼女は動揺していたのが逆に働いたのか、いつもより流暢に言葉を話します。
「猿柿君が・・・ 私のことを思って、さっきの言葉をかけてくれたのはありがとうございます。でも・・・
・・・私は! 私の友達を悪く言う人とは一緒にはいられません!!」
「!!・・・」
渋木はすぐに激しく反論してきました。
「ちょっと待て!! 彼は君を騙しているんだ!! その証拠に、君も彼に襲われただろう。」
「でも、彼はやっていないって・・・」
「口でなんてなんとでも言える! 目に見えた方が事実だ!!」
何度も声を上げて渋木は瓜を説得しようとしてきました。しかしそれでも、彼女の考えは変わりませんでした。
「それでも・・・
・・・私は彼を信じます。信じたいんです。」
「・・・」
「気遣ってくれて、ありがとうございます。でも、私はもう大丈夫です。」
「待って!!・・・」
瓜は彼の制止を聞かず、もう一度渋木に頭を下げて謝罪し、彼に背を向けてその場を後にしました。
そこから彼女が一人廊下を歩いていました。
「・・・」
するとそこに、誰かが急いで走ってくる音が聞こえてきました。瓜が顔を見ると、それは彼女を心配したフィフスでした。急いで来たのか、息切れをしています。
「フィフスさん!!・・・ その、大丈夫ですか?」
フィフスはコクリと頷いて返事をしました。瓜は一瞬目をそらしながらも、それをまた彼に向けてグッと肩に力を入れて声を出します。
「私! あなたに話したいことが!!」
しかしそのとき、彼女は彼の様子がどこかおかしいことに気が付きます。
「あなた・・・ 誰ですか?」
ニィ・・・
そのフィフスは不気味な笑みを浮かべ、そして彼女に向かって放射炎を撃ち出してきました。瓜はどうにかそれを回避しますが、本物の彼のようにはいかずにそのまま転んでしまいました。
「イタタ・・・」
偽のフィフスは舌打ちを付いてからこちらに歩いてきました。
「チッ・・・ ビビって気絶してくれれば早かったんだが・・・」
「!!・・・」
瓜は膝の痛みを気にする間もなく立ち上がり、後ろを振り返ると、そこには・・・
「猿柿君?・・・」
ビリビリビリビリ!!!・・・
さっき分かれたはずの渋木がそのときとはどこか違う目をしてスタンガンをこちらに突き付け、気絶させました。
気が付くと、瓜は一等客室の廊下よりも更に煌びやかに飾られた部屋に連れ込まれていました。
「ここは?・・・」
「お姫様の部屋だよ。簡易的だけどね。」
瓜はその声を聞いてゾッとした。その先には、先程彼女を気絶させた渋木が嬉しそうにこちらを見ています。
「猿柿君! あなた、一体・・・」
瓜は動揺して曖昧な質問を飛ばしてしまうと、彼から返ってきた答えもまた曖昧なものでした。
「瓜・・・ 俺はね、君を迎えに来たんだ。」
「迎えに?・・・」
<魔王国気まぐれ情報屋>
瓜がフィフスの偽物を似てないと思った理由
『なんというか・・・ 本物は、もっと複雑な目をしていました。』
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