第19話 仮面の男
とある建物の屋上、化けゴウモリが仁王立ちで待っていると、そこにまた仮面の男がやって来た。さすがに慣れてきたのか化けゴウモリはすんなりと会話を始めた。
「今度は何のようですか? もうすぐ忙しくなるのですが・・・」
「そう邪険にしないでくれよ。手伝いに来たのに。」
「結構です。相手は一人ですし。」
「あの魔王子君は舐めない方がいいよ~ 土蜘蛛の二の舞になるのはごめんでしょ~」
興味を持ったのか、化けゴウモリは男の方を振り返る。
「貴方、何が出来るんですか?」
「まあ、任せなって・・・」
男は顔が見えないが明らかに笑っていた。
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そして現在・・・
「ね、僕がいててよかったでしょ。」
「ええ、助かりました。」
ケラケラと笑いながら化けゴウモリの所へと来た男。すかさず本体を彼に手渡した。
『どっから出て来やがった。アイツ・・・』
『そこら辺に魔力の使用は感じなかったわ』
衝撃を受けている四人に、男は悠々と話し出した。
「どうしたの? みんな揃ってぽかんと口開けて。」
気の合う友達のような話し方をする男に、若干怒り気味のフィフスが怒鳴りだした。
「お前、誰だ!?」
「あれ、そういえば自己紹介してなかったっけ?」
しまったと思ったのか、男は四人の方に顔を向けた。そして、大声で声を張り上げて言いだした。
「僕は見ての通り、怪しい者じゃないよ。」
「その格好でよく言えたな・・・」
斜め上の言葉にフィフスは警戒を超して呆れていた。対してカオスはキョトンとしている。
「あれ、ねえ僕ってそんなに変な格好してるかな?」
「治安維持部隊にあったら確実に職務質問されるでしょうね。」
「エエッ!! そんなに!? これお気に入りなんだけど・・・」
『どういうセンスしてんだ・・・』
『確かにかっこいいです!!』
『お前と同レベか・・・』
もはや困り果てているフィフス達。むしろ気軽に質問が出来てしまった。
「お前も契約魔人か!?」
「残念だけど違うよ~。僕はその橋渡しをするための存在だよ。」
「あ? どういうことだ。」
少し言っていることの理解に時間がかかったが、それを理解すると、フィフスとグレシアは警戒を強めた。
「まさか、アンタが魔道書をばらまいたの!?」
そう言われた男は、待ってましたと言わんばかりに笑顔になってまた話し出した。
「ピンポーン!! 大正解。ご褒美に名乗っとこうかな。」
そう言った男は腕を振り上げ、どうにもかっこいいとは言い難いポーズを次々ととりながら名乗りを始めた。
「我が名は「カオス」、この世界の人々の切なる願いを一つ残らず叶え、幸せをもたらす愉快なピエロである!!」」
最後になぜか歌舞伎っぽいポーズをとって、尺の長い名乗り終わった。少しの間一人を除いて屋上中に寒い風が吹き向けた。
『か、かっこいいです!!』
『どこがだ、お前の基準を俺に教えてくれ・・・ にしてもどうにも気の抜ける奴だな・・・』
白い目を向けられている当の本人はわかっていないのか首を傾げている。
「あれ~、これもダメ? この世界ではポーズをとって名乗ることが普通って聞いたんだけど。」
『どこの魔女だ。怒られるからやめろ!!』
「馬鹿ですかあなた、これ以上場を壊すのはやめてください。」
いつの間にかあまりの間抜けっぷりに警戒を解いてしまっていたが、化けゴウモリが話し出したことで再び気を引き締めた。
「よくわかんねえが、お前がこの騒動の元凶だってんなら、この場でひっ捕らわれてもらおうか。」
フィフスは術装を発動させながら剣を引き抜き、グレシアは杖を向けて氷を放とうとしたが、そのとき、男はいつの間にか反対の場所にいた。
『こいつ、一瞬で・・・ まさかな・・・』
「悪いけど、君と今戦うつもりはないんだ。」
そう言うと男は右手の平を上に向け、そこから黒い魔道書が出現し、彼はそれを開いた。
『黒い魔道書!? そんな物見たことねえぞ。』
そしてあるページのところでめくるのをやめ、そこに書かれた魔法陣の中心に触れた。
「さ、行ってらっしゃい。」
するとフィフス達四人の周りに六つの魔法陣が地面に出現し、それが上に上がって行くと共にそこから何か人型をした物体が出現した。
「じゃ、あと任せたよ。ウォーク兵。」
次にフィフスがカオスの方を見ると、そこには化けゴウモリごと彼の姿は消えていた。悔やみながらも視線を戻すと、六体の兵隊らしきものが槍を構えて今にも襲ってきそうな体勢になっていた。
「どうやら時間稼ぎのようだな。」
「さっさと倒して、とっとと追うわよ!!」
そうして二人は契約者を守りながら兵隊と戦い始めた。その中フィフスはどこか違和感を感じていた。
『にしても変だ。あいつらの狙いがこいつなら、さっきの術の道連れにすれば良いだけだってのに・・・』
「フィフス!! 後ろ!!」
ハッとなって彼は身をひねて攻撃をかわし、火炎刀で相手を切り裂いた。
「考え事してんだ、空気読め。」
少しムカつきながらもあまり苦戦することもなく六体全員を二人が倒した。
「面倒なことしやがって。もうちょっとで何か掴みそうだったってのによ。」
『掴みそう? どういうことですか。』
「しゃあねえ、一旦家に帰って考えるか。」
フィフスは剣を術を解きながら鞘に戻し、頭をかきながらその場を離れようとし、それに続いて残りの三人もついて行こうとしたが、そのとき・・・
ギ ギ ギ ギ ギ・・・
バンッ!!
後ろで横真っ二つになっていたはずの兵隊が独りでに動き出し、後ろから素早く襲いかかってきた。それに対して四人は気付いておらず、あと少しで瓜の右肩に槍が当たろうとしていた。が・・・
パシッ!!
その寸前にノールックでフィフスが右手で掴んでいた。
「空気読めって言ってんだろ!!」
フィフスはそのまま槍を握り潰し、後ろを振り向くと同時に放射炎を放って燃やし尽くした。そのまま前を見ると、切断されていた兵士達がもぞもぞと動いていた。
「うわ、何だこれ!? 気持ち悪!!」
「これ、人形って事?」
「それも切っても動くタイプか。手間のかかるやるだな。」
再び立ち上がって走り寄ってきた人形兵。しかし・・・
「<火炎術 破壊炎>」
すぐにフィフスによって跡形もなく燃やされた。
「ったく、人が機嫌悪いときに・・・」
「容赦無いな。」
『どうしよう・・・ はやく願いを叶えないと燃やされる気がする・・・』
そうしてその場を抑えたフィフスはもちろんのこと、グレシアも彼を見て険しい顔になっていた。
「グレシア、ここまで来たならいい加減教えろ。お前、何しにこの世界に来た?」
「ハア、仕方ないわね・・・ 白状するわ。」
そしてグレシアはようやく、自分の任務について話し出した。
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とあるアパートの一室
プツンッ!! と言う音が、カオスの頭の中に響いてきた。
『おや、もうウォーク兵はやられたのか。思っていたよりはやかったな。やっぱり成ってないと使えないな~、あれは・・・』
そこにいたカオスがそんなことを考えてため息をついていると、近くから怒鳴り声が聞こえてきた。
「どういうことだ!! 未だにあの子はここに来ないじゃないか!!」
いきり立っている化けゴウモリの契約者が、机を叩いていた。化けゴウモリも申し訳なさそうにしている。
「申し訳ありません。しかし、私の制限の都合上、これ以上は・・・」
「にしたかって進捗がなさ過ぎる!! 一体何度彼女に愛の手紙を送り続けたと思ってるんだ。このままでは彼女に示しがつかんだろ!!」
『一方的なのに怖いな~・・・』
内心そう思うカオスだが、その事は口にせずにいた。そして化けゴウモリはまた話し出した。
「カオス、私もいつまでもこのままはごめんだ。そろそろ手を打ちたいのだが。」
「う~ん、まあいっか。あらかたの準備は整ったし。」
それを聞いた二人は身を乗り出した。
「おお、いよいよか!!」
「決行は明日の昼。僕の指示通りにすれば、彼女は君のものになるよ。」
「彼女が・・・ 僕の・・・」
「待て、しかしそれでは・・・」
「大丈夫、君の制限を逆に利用すれば良いんだよ。」
「利用だと?」
化けゴウモリは疑問の表情をし、その契約者は興奮してる様が見て取れる。
「はぁ・・・ はぁ・・・ 待っててね・・・」
男飾られている飾られているウエディングドレスに目を向けてゾクゾクしていた。その様子を見てカオスは後ろに向かって歩いて行った。
『さぁて、仕込みはあと少しで万全。これに君はどう出るかな? 魔王子君。』
カオスはニヤつきながらそこを去って行き、いつの間にか姿形も消えていた。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・ウォーク兵
カオスが召喚する全身が白い人形兵。足軽のような風貌で武器は槍。手足がちぎれようと動き続ける執念を持つ。一体一体の戦力は弱いので、主に集団で戦う。
モチーフは将棋の歩兵
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