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第205話 監獄の瓜②

 一戦闘を無事に終え、フィフスは蜂王を倒したときに付いた汚れを手から軽く祓い、フッと息継ぎをしました。するとタイミングを見計らって引っ込んでいた信が話しかけます。


 「お疲れさん。」

 「いい。」


 ねぎらいの言葉をかけてくる信にフィフスは素っ気なく返し、すぐに質問をします。


 「それよりドクター、倉は?」

 「大丈夫。」


 信は陽気な態度を崩さずにポケットからスマートフォンを取り出してその画面をフィフスに見せました。彼はそれを確認すると、化ケガニが去って行った方向に目を向けます。


 「蜂王にはああ言ったが、善は急げだな。」

 「だね。」


 二人は出来るだけスピードを出して走り出しました。



______________________



 一方の渋木の部屋。そこから動けないでいた瓜は、無言のままベッドの上でもやついています。


 「・・・」


 そんな瓜の隣には、ニンマリとして彼女の様子を見ている渋木が座っていました。彼はたった今思った感想を言葉にこぼします。


 「綺麗だ・・・」

 「?」

 「やはり君は、塵一つ無い綺麗な姿をしている・・・ 美しいよ・・・」


 そのときの瓜は、渋木からの指示でまた着替えさせられ、背中やへそ当たりなど、さっきよりも露出された部分が多くなっています。


 自分の意思からじゃ無いためか、瓜は彼からの褒め言葉に対しても無言を貫いています。


 「・・・」


 その塩対応に渋木はまたため息をつきました。


 「そう冷たくしないでくれよ・・・ 悪かったと言っているだろう?」


 彼の態度に瓜はゾッとします。それで彼女はこう聞いてみました。


 「あなたは・・・ 私をどうしたいんですか?」


 その質問に渋木は笑顔を見せ、優しい声で返事をします。


 「何も。俺はただ、君と仲良くしたいだけさ。」


 渋木は会話の最中に瓜に触れようとしましたが、フィフスがかけた術を思い出して身を引き、誤魔化すためにベッドから離れました。


 「今君は俺のことを理解できないだろう・・・ でもそれでいいさ。どっちが悪なのか、君もすぐに分かる・・・」


 瓜はそんな彼の話の中で矛盾している点を指摘しました。


 「でも、あなたはカオスと・・・」

 「手を組んでる? ハハッ!!」


 突然渋木が笑い出したことに瓜は困惑します。


 「俺はアイツらを利用しているだけさ!! 今回の赤鬼の討伐の件、持ち出してきたのは俺ではなく向こうの方だしね。」

 「?」

 「とある任務で追い詰めた化け物に命乞いをされてね。だったらいっそと命令したのさ。」


 瓜はこれまでも経験から、()()カオス達に限ってそんなことはあり得ないと思い、言い返します。


 「そんなの、向こうこそ・・・」

 「俺を利用しているんじゃないかって? そのときはそのときさ。それに・・・」


 すると渋木は突然クククと笑い出してしまいます。


 「クハハハハ!!・・・ 君だって知っているだろう? 俺を強さを。アイツらも、君を追い詰めていたあの赤鬼も! 俺には攻撃を当てることすら出来なかった。」


 瓜は否定したい事実を言われて言葉が止まります。頭の中では、フィフスが彼と戦ってあと一歩で負けていたことを思い出しました。


 「束になってかかってきたところで、自分達の身の方が危なくなるだけさ。余程の馬鹿で無い限り、もう反抗はしないだろう。」


 渋木は後ろの瓜が悔しそうに拳を握りしめていることが分かった。それはつまり、彼女の意思が今だフィフスに向いているということでした。そこで彼は一つ聞いてみます。


 「瓜・・・ 君の性格は分かっているつもりだ。だからこそ、君は少しくらい、俺に心を開いてくれても、いいんじゃないかい?」


 渋木が瓜の耳元に顔を近付け、フッと息を吹きかける。しかし、突然そこでテーブルに置いていたトランシーバーからカオスのふざけたような声が聞こえてきました。


 「すんませ~ん!! ちょっとお話ししたいんですけど~!!」


 その途端に渋木は動きを止め、小さく舌打ちをしてせっかく近付けた体を引きました。テーブルまで近付くとトランシーバーに触れ、軽めの返事をします。


 「今行く。騒がずに待ってろ。」


 冷たい声が静かな部屋に広がり、そこで振り返ると優しい顔に戻って挨拶をしました。


 「ごめんね瓜。そういうことだから、しばらくのお別れだ。」

 「・・・」


 返事の無い瓜をみながら渋木は扉のロックを外し、廊下に出て行きました。


 「・・・」


 瓜は内心にある不安を少しでもましにするためか、無意識のうちにフィフスから貰ったブレスレットを見つめました。そして自分が気絶させた彼のことを思い浮かばせます。


 『フィフスさん・・・』

 「無事で・・・ いてください・・・」


 静寂な空間にも響かないような小さな本音。彼女はその悲しげな姿を少しだけ開いていた扉の先から見られていたことに気が付いてはいませんでした。



______________________



 そうして瓜のいる部屋から出た渋木は、その足で流れるように別の部屋に入ります。そこはフィフスと彼が魔人達と戦った空間に酷似し、そこには彼を待ち構えていた化ケガニがいました。


 「あの赤鬼は捕らえたのか?」


 渋木は瓜に対しての時と


 「それは化ケガニに任せた。俺はそこでの思わぬ収穫を持ち帰ってきた。」

 「?」


 渋木が目的と違うことに白い目を向けると、化ケガニは後ろに隠しておいた収穫である倉を彼に差し出しました。


 「グゥッ!!・・・」

 「ほ~・・・ これはこれは・・・」

 「・・・」

 「散々逃げていたお荷物じゃないか。よく見つけたな。」


 渋木は確かに思わぬ収穫を得たことに笑みを浮かべました。

<魔王国気まぐれ情報屋>


 カオスの張った幕は、衛星通信を妨害することは出来ますが、トランシーバーのような直接機器で通信するものそのまま使用できます。




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