第204話 浅はかな
フィフスと信はとにもかくにも、唯一の手がかりである攫われてしまった倉を取り戻す必要がありました。特にフィフスは瓜に会いたい気持ちから、焦りを押さえ込んでいました。
「さて獄炎鬼・・・ あの女にかけた術を解いてもらおうか。」
蜂王は槍の先端を信の方に向けて話を持ちかけてきます。遠回しの脅しなんでしょう。フィフスがそれを感じて少し心配の目を向けると、信はその心配を全く気にしていないようでした。それどころか・・・
スタッ・・・ スタッ・・・
信はそのままフィフスよりも前に出た上、自分に槍を突き付けている蜂王にフランクに話しかけ出しました。
「若人のいさかいに大の大人が入り込むのは野暮でしょ。」
「あ?」
「ドクター・・・」
「ここは僕に任せてくれ。君は・・・」
フィフスは一瞬目線が下に下がり、そしてすぐに元に戻して返事をしました。
「・・・わかった!」
フィフスは説得され、去って行った化ケガニを追いかけるために走り出しました。当然蜂王はそれを良しとはせず、阻止しにかかります。
「行かせるか!!」
しかし信から攻撃対象をフィフスに変えようとした僅かな時間に、蜂王は肩を撃たれてしてしまいました。
「ナガッ!!・・・」
それに気を取られている隙にフィフスは蜂王の隣を抜け、向こうに走っていきました。蜂王は若干の苛立ちを覚えながら信を見ると、軽々とマグナフォンを向けている様子がありました。
「貴様・・・ 戦えるのか・・・」
「皆して同じようなこと言うね・・・ そんなにひょろく見える?」
蜂王は小さめのため息をついてから独り言をこぼしました。
「ハァ・・・ まさか獄炎鬼の味方が乗り込んでくるとは思わなかったが、まあいいだろう。この程度のボロは許容範囲だ。」
『元々手が込んでるしな・・・』
信は銃口を下げないで気楽に会話をつなげます。
「範囲内? なんでそうも軽いんだい?」
すると気分が下がっているように見えた蜂王は、次の瞬間一変して笑い出しました。
「カッハッハッハッハッハ!!!・・・」
「?」
信が蜂王の態度に顔をしかめると、蜂王はそのまま高い声で話し出します。
「どうやら、獄炎鬼は思っていたよりも浅はかな頭をしているようだ。」
「ん?」
「アイツから聞いていないのか? 俺は毒液で分身を作り出すことが出来る。」
「!!」
今フィフスが向かって行く通路の先。そこには、今か今かと彼が来るのを待ち構えている蜂王の毒分身が死角に隠れて待っていました。
「ここから逃げ出したところで、結末は変わりはしない。だが安心しろ、奴には聞くことがあるからな。死にかけぐらいで勘弁してやろう。だが・・・」
蜂王はまた声のトーンを変えて槍を構え、信に近付き出しました。
「お前のことは別にどうでもいいからな・・・ ここで消えて貰おう。」
「うわ、やばいかも・・・」
信は身の危険を感じて回れ右をし、その場を逃げ出しました。ですがその先は運が悪くすぐに曲がり角があり、スタートダッシュを止められて追い付かれてしまいました。
「うっわ!!・・・」
「運がなかったな。串刺しにして終わりだ。」
蜂王は追い詰めた信に向かって術装した槍を突き刺しに間合いを詰めました。そこで彼がT字路に入ったそのとき・・・
ヒュン!!・・・
「グガァ!!?・・・」
蜂王は突然自身の左から跳び蹴りを受けて飛ばされ、槍も同時に放り投げてしまいました。
地面に突っ伏した彼が混乱しながら立ち上がると、目線の先にはさっき逃げていったはずのフィフスがいました。
「な、何ぃ!?・・・ 何故お前が・・・」
「見事に引っかかったなお前。」
「どういうことだ!?」
「ドクターの指示だよ。」
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実はさっきフィフスが下を向いたとき、その目線の先に信がスマホに書いていたメッセージを読んでいたのです。
『気を引いている内に回り道しろ。』
フィフスはその指示通りに倉を追ったふりをして回り道をし、蜂王が警戒をなくす頃合いを狙っていたのです。
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「浅はかだったのはお前の方だったな。同じ手は食わないんだよ。」
蜂王は予想外の展開にパニックになっていました。どうにか武器を手元に戻そうと走りますが、先に信が銃を撃ち、槍を自分の足下まで引き寄せました。
「クッ・・・」
蜂王は悔しさを誤魔化すためにフィフスに揺さぶりの言葉をかけ出します。
「まさか、女を見捨てたのか!?」
「見捨ててなんかねえ。だが、急いで助けに言ったら思う壺だと思ってよ。」
「!!」
フィフスは蜂王に微かな動揺があったことを見逃しません。
「さっきのお前らの動きに変なところがあったからな。もしお前らが倉の契約魔人なら、アイツに手を出すことは出来ないだろ? おそらくだが、ドクターの言う幕とやらの影響か?」
「ハッ! その通りだ。だからお前もあの女を襲えた。」
蜂王は瓜のことを思い出させて士気を下げようとしますが、フィフスは調子を変えずに話しに入り込みました。
「でもおかしいよな。」
「何?」
「証拠隠蔽が目的なら、さっき倉を殺しておいた方が手っ取り早いはずだよな? じゃあ何故しないか・・・」
蜂王の指がピクリと動いた。思うところはあったようです。
「つまり、あの幕の効果は契約者とのつながりを弱めているだけ。切れているわけじゃない。痛めつけは出来ても殺せないんだろ!!」
蜂王が笑いを止めて黙り込みました。そして暗いため息を吐きます。
「ハアァ~・・・ 察しのいい奴だ・・・ どうやら異名になるほどは出来るみたいだな。」
彼はこれ以上はだませないと踏んだようで、首を回してけだるけになりました。一周回って吹っ切れたようです。
「そうだ。俺達は確かにあの女を殺せない。だがそれがどうした? 化ケガニがどこに行ったのかお前達に知る術は無い! どうにしろ詰んでいるんだよ!!」
「・・・ それはどうかな?」
蜂王はヤケになってフィフスに突撃しました。しかし動揺によって乱れていた彼の攻撃は軽々とフィフスに捌かれました。その上、信とこんなやりとりをしています。
「アシストいるかい?」
「槍を抑えててくれたら十分だ。」
フィフスはチャンスをこぼさず畳み掛け、蜂王は追い込まれていきました。
「調子に乗るな!!」
怒った蜂王は口から毒液を出しました。接近戦をしていたためフィフスはそれを避けることが出来ませんでしたが、慌てる様子はありませんでした。
「この距離ならやれると? あいにく前とは違うんだよ!!」
フィフスは時間経過によって一戦目の時とは体力も魔力量も違いました。飛んでくる毒液に対し放射炎を放ち、あっという間に打ち消します。
「そんな!!?」
土壇場の技も防がれて蜂王はフィフスに間合いへの侵入を許してしまいました。
「しまっ・・・!!」
「<術装伝獣拳 紅蓮犬牙>」
「ガァ!!!!・・・」
フィフスは炎を纏わせた犬牙を蜂王の腹に直撃させ、吐き気を及ぼす相手に追い打ちの言葉をかけます。
「自分からじゃなく分身に先陣を切らせるんだったな。ま、どっちにしろやられているがよ。」
「アァーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
蜂王はフィフスの攻撃に腹からヒビが入り、断末魔を上げながら爆散しました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・フィフスやグレシア、サードは伝獣拳に各々の術装を加えて強化することが出来ます。
個々によって属性による効果は違うので、技によっても効果に差が出てきます。
フィフス「俺は単純な火力強化。」
グレシア「アタシは飛び道具に転用可能よ。」
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