第199話 商談
刻一刻と自分が売られる番が迫ってくる中、フィフスはどうにか手錠を外そうと奮闘していました。しかしこの拘束は頑丈に出来ており、鎖が揺れるだけで外れる様子はありませんでした。
『クソ・・・ だったら高熱で・・・』
今度は手から炎を出して溶かしにかかりましたが、まずその炎すら出て来ませんでした。
「・・・何!?」
「無駄だよ。」
窓の外を見ていながらも、カオスは今フィフスが何をやろうとしていたのか手に取るように分かっていました。そしてその理由を話してきます。
「その鎖には術をかけてある。君の技を封印するようにね。」
「てめぇ・・・」
「そう怖い顔しないでくれよ。全ては、彼女を突っぱねた自分を恨むんだね。」
「それは天邪鬼が・・・」
フィフスの言葉の最中にカオスは笑い出しました。
「ハハハ!!・・・ 人っていうのは相手を外見で判断するからね。同じ見た目ってだけでも、ちょっと嫌がらせをすれば信用なんてすぐに壊せるんだよ。」
「これも渋木の指示か!?」
「正解。そもそも君達をこの船に呼んだもの、彼だからね。」
フィフスはカオスが言った言葉に驚き、同時に合点がいきました。この船に乗ったときから、全ては仕組まれていたことだったのです。
罠にはまって落ちるところまで落ちた自分を感じ、フィフスはもがく動きを弱めました。するとカオスは振り返って歩き出し、彼の心を折りにかかりました。
「何をショック受けているんだい? 君は異世界で散々人殺しをしてきただろう。」
「それは・・・」
「本当に人間と仲良くなれるとでも思ったのかい? 随分と楽観的な頭だったね。」
「・・・」
フィフスはそのとき、過去に会った人間から言われた言葉の数々を思い出しました。
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「悪魔め!!」
「恐ろしい・・・」
「殺ろせぇ!!!」
「人間のために倒せ!!」
「一人も逃すなぁ!!!」
「はやく滅べばいいのに・・・」
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そうしてゆっくりとフィフスの動きは止まってしまい、その目がどこか曇っていきました。カオスはこれを調子よく見ながら顔を近付け、トドメにかかりました。
「この船に君の味方は一人もいない。勝機はもうないんだよ。」
「・ ・ ・」
フィフスはそのまましゃべらなくなり、瞳が完全に暗くなってしまいました。カオスは満足したように出入り口に向かって歩いて行きました。
「それじゃ、僕はあの人のご機嫌を取らないといけないんで、失礼するよ。せいぜい捨てられないように頑張ってねぇ~!!」
そこからは足音もなくカオスは姿を消しましたが、フィフスがそれに反応することはありませんでした。その場だけの言葉でも、彼の言っていたことが心に突き刺さったのです。
その上、仕向けられた形とはいえ、瓜と言い合いになってしまった事実があるのです。
『しょうもない喧嘩でこの様か・・・ 笑えるな・・・』
彼は一人になった部屋でいつの間にか笑っていました。すると部屋の中に船員が数人は入り、彼に近付いて来ました。言葉は交わされませんが、どうやら彼の順番が来てしまったようです。
『とうとう・・・ か・・・』
フィフスは拘束具の一部を外して部屋から運び出されましたが、特に抵抗することもなく運ばれていきました。
しかし心の中では、もやついたものがありました。その中でも特に大きかったのは渋木や瓜への怒りではなく、むしろ彼女に対しての後悔でした。
『このまま喧嘩別れかよ・・・ こうなることだけはあって欲しくなかったんだけどな・・・』
通路をゆっくりと進む中、フィフスはこの船での彼女とのことを振り返っていました。
『あの時・・・ 渋木の所に行くのを止めていたら、違っていたのか? いや、どうにしろ俺はアイツに隠し事がある。遅かれ早かれ離れていただろう・・・
何を期待してたんだ俺は・・・ 魔人の俺が人間と仲良くするなんて、相手に迷惑をかけるだけだってのは、とっくに分かってたはずなのにな・・・』
彼がボーッとしながら歩いていると、視線が定まっていなかった目に煌々と光が入り込み、瞬きをしました。どうやらとうとう人身売買の会場に到着してしまったようです。
会場の端にいる司会者が、場を盛り上げる声を上げます。
「さて続いてはぁ!! 本日の目玉商品!! 皆さんも一度は物語で聞いたこともある存在!! 本物の~・・・ 赤鬼だぁーーーーーーーーー!!!」
司会者の言葉を合図に船員が彼を引っ張って壇上の中心に立たせます。彼が前を見ると、身元を隠したいのか、仮面舞踏会のような姿をした人が大量にこちらを見ていました。
「・・・」
黙って動かないフィフスに、観客は当然のことを言い出します。
「オイ! これが本物か!?」
「特殊メイクで誤魔化してんじゃないか!!?」
司会者はその反応に右人差し指で「チッチッチ・・・」と送り、フィフスの後ろに銃口を突きつけました。そして・・・
バンッ!! バンッ!! バンッ!!
「アッ!! ガハッ!!・・・」
フィフスはいきなりかなりの痛みを感じましたが、どうにか耐えきりました。それを見て司会者は再び声を上げます。
「この通り! 人間ならば簡単に死ぬダメージでも彼は死にません!!」
観客がざわめき出します。これを見てしカシャが商談を始めました。
「さぁ! 働かせるもよし! コレクションにするもよし! 提供先からは十万からのスタート!! はったはったぁ!!!」
始まった値踏みに、金持ち達は珍しいものほしさに次々金額を上げていきました。
「二十万だ!!」
「四十万だそう!!」
「四十五万!!」
「六十万でどうだ!!」
「百万!!」
しかしカオスから言われたことでどん底に落ちていたフィフスは、一周回ってどうでもいいようでした。しばらく続くかと思われたこの時間は、次に言われた値段に区切りが付かれました。
「六百万!!」
その金額の大きさに周囲の金持ち達も驚きを見せます。会場が打って変わって静まり返り、誰も反論をしませんでした。司会者はここまでかと話し出します。
「は~い!! ではこの男、六百万にて、らくさーーーーーーーーーーーーーーt!!!!」
そして司会者が商談の締めに小槌を叩こうとしたそのとき・・・
「一億。」
静まった広間に小さいながらも聞こえて来たその金額の大きさに、会場は再び驚愕しました。何人かにいたっては大きくあんぐりしています。言った本人は周りに聞こえていないと思ったのか、もう一度言ってきました。
「一億って言ったんだ。聞こえなかったかい?」
司会者も唖然としていましたが、声を聞いて我に返りました。
「ハッ!・・・ す、すみません・・・ え~・・・ 皆さん、一億と出ましたが、これ以上はいますか?」
さっき高値を出した金持ちも、これ以上は手が出ないようです。
「ないみたいよ。じゃ、決定でいいよね?」
司会者はおどおどとしながらも小槌を叩きました。
「い、一億! 一億で、落札でーーーーーーーーーーーーす!!!!」
周りが金額に驚く中、これから売られるフィフスは、別の意味で驚いていました。
『今の声・・・ まさか・・・』
フィフスを買い取った男は、仮面の下で開いた口をフッと笑わせました。
男 「次回、第200話!! 仮面の男は誰なのか!!」
フィフス「本人がそれを言うな・・・」
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