第198話 監獄の瓜
フィフスに意地悪い別れの言葉を告げた渋木は、その部屋を出た後、VIPエリアの廊下を歩き回り、一つの扉の前に立ち止まりました。
「フフッ・・・」
ガチャ・・・
彼はその扉を開き、軽く笑みを浮かべながら部屋の中に入っていきました。そこは廊下より更に豪華に装飾され、まるで童話のお姫様が暮らすような空間でした。
その中心の広いベッドの上に、薄手のドレスを着ている女性がはかなげにうつむいています。彼は部屋の奥に歩きながらその子に優しく声をかけます。
「着てくれたんだ! やっぱりそっちの方が似合ってるね。」
「・・・」
「さっきは上出来だったよ。よく決意してくれたね。」
「・・・」
ベッドの上の女性は反応の言葉をせず、両腕を小さく震わせて唇を噛み締めています。そんな彼女に渋木は再度声をかけました。
「そう落ち込まないでくれよ、瓜。」
その女性は、先程フィフスを裏切って渋木に付いた瓜でした。
「後悔しているのかい? 元とはいえ、友達を攻撃したことを・・・」
「・・・」
瓜は普段以上に黙り込んでいます。渋木はそんな彼女に近付き、右手を伸ばしました。しかし彼女は反射でそれを拒んで顔を下げます。その対応に彼は少しムッとしました。
「いい加減心を開いてくれないかなぁ~・・・ せっかく子供の頃のケリを付けたんだから。」
「・・・」
渋木は一向にしゃべらない瓜を見て彼は部屋の隅まで移動し、そこでティーカップにお茶を二人分注ぎ、彼女の元に運びました。渋木はそれを取って一口飲みましたが、瓜は変わらず動かずにいます。
「そう警戒しないでくれよ。毒なんて入ってないさ。」
「・・・」
しかしそれでも瓜は警戒しているようでした。そこで渋木はこう言い出しました。
「飲んでくれなよ・・・ でないと・・・」
彼が何かを遠回しに伝えようとしたその言葉を言い終わる前に瓜は両手を急いで出し、カップを受け取り、その速さのままカップのお茶を一気飲みしました。それを見て渋木は何か思ったような顔になります。
「ハァ・・・ まだ執着しているのか。あの化け物に・・・」
瓜が渋木の言葉に怒りを感じて一瞬睨むと、彼はオッとと呟いて口を空いていた手で抑えます。
「悪い、こう言っちゃいけなかったんだったね。」
「・・・」
視線を下げる瓜。渋木はベッドに座ってそんな彼女に更に近付き、その左頬に自身の手を伸ばします。
「ま、向こうはもう君のことを嫌っているだろうけど。そんな相手のことを思うなら、ここで俺と仲良くした方が良いんじゃないかい?」
そして渋木はどこか邪な心で彼女に触りかけると、その動き方にゾッとした瓜は声を出して身を引きました。
「イヤッ!!」
彼は距離を離されたのをみてベッドから離れると、やれやれと言いたそうな息をつきます。
「フゥ・・・ いいさ。ゆっくり慣れてもらえれば。」
瓜はそこでようやくボソッとこんなことを呟きました。当たり障りのないようにしたいのか、その声すらも震えています。
「その・・・ 約束は・・・ 守ってくれるん・・・ ですよね・・・」
「!!・・・ ハァ・・・ 君はまだそんなことを心配しているのかい。安心してくれ、君を悲しませるような真似はしないさ。」
話が始まったことで、瓜は出来るだけ情報を聞き出そうとまた質問をしました。
「それで! 彼は今どこに!!?」
瓜の話し方に渋木は彼女の心情を察します。
「瓜・・・ まだ彼のことを心配しているのか・・・ あんなにカラッと裏切っておいて。」
「ッン!・・・ それは・・・」
瓜は自分の言った事に後ろめたさを感じます。しかし渋木は瓜に背を向け、敢えて言うことにしました。
「まあいいや・・・ 彼なら今順番待ちの最中だ。」
「順番待ち?」
すると渋木は瓜に見えない事を良いことにクスクス笑いながら詳細を話し出しました。
「クククク・・・ VIPエリアがなんで隠すように置かれているか。その答えのある場所だよ・・・」
「え?・・・」
ここから先に言う渋木の言葉に、瓜は耳を疑いました。
「この船はね、悪い金持ち達の格好の遊び場なんだ。そのうちの一つに、人体収集をしている輩も大勢いる。」
瓜は驚いて前に身を出し、彼の言っていることがどういうことかを問い詰めます。
「まさか・・・ フィフスさんは!!」
話している内に渋木はこらえられなくなったようで、とうとう笑いながら近くの壁を叩いて結論を言いました。
「ハッハッハ!!・・・ そう・・・ 彼は今、俺名義で人身売買の商品にしてある・・・ 異世界の化け物ならいくらで売れるだろうねぇ~・・・」
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窓からの景色で盛り上がっている会場を見ていたフィフス。そこでは歳半も行かない若い女性が露出の多い姿になり、客席のおじさん達から次々と高額な数字が飛び出しています。
「渋木のやつ・・・ 禄でないことを・・・」
「いいでしょ~・・・ 最もこっちじゃ異世界違って、人間同士で売買してるけどね。」
「お前もお前で、クッソサイコパスだな。」
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そして渋木の部屋では、瓜が動揺した顔で彼に叫んでいました。
「話が違います!! 彼は・・・」
「いいや違わない。それに、どうにしろ君はまだ約束を守っていない。」
「?・・・」
そのとき、彼女は自分の体に急激な睡魔が襲いました。
『あれ・・・ なんで・・・』
「だから今から果たして貰うんだ。君が僕に振り向いてくれるように・・・」
『意識が・・・』
そのまま瓜はベッドに倒れ込んでしまい、眠ってしまいました。
崩れる形で眠りに入った彼女に、今度こそ渋木はじっくりとその頬に手を触れます。そして彼女の顔を見ながらニンマリと笑みを浮かべました。
「美しい・・・ 眠っている君もとても美しいよ、瓜・・・」
そのとき、渋木は息を切らすほぼ震えました。
「フフフフフ・・・ もうじき君は、今度こそ俺の物になる・・・」
そう言うと渋木は、ゆっくりと彼女の顔に向けて右手を近付けていきました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
瓜に着せるために持ってきていた大量の服。
サードとあんまり変わんないレベル・・・
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