第196話 裏切り者
フィフスは自分に今起こっている現象を何かの間違いかと感じ、後ろの渋木に聞いてみました。
「何の冗談だ? これは・・・」
しかし次の瞬間、渋木は黙ったまま銃を発砲し、フィフスは紙一重でそれを回避して彼と距離を取りました。そのため、せっかく近付いた瓜から離れてしまいました。
「何すんだ!?」
「魔人狩りに協力すると言っただろ。例外は無しだ。」
そう冷たく言って渋木は両腕の銃口をフィフスに向けました。
「嘘だろ、オイ・・・」
「死ね、化け物が!!」
渋木は一切の遠慮もなくマシンガンを撃ち出し、フィフスは前回の時と同じく走り回ってそれを忌避し続けていました。そんな中でフィフスは渋木に聞こえるよう大声で聞きます。
「瓜を助けるんじゃなかったのか!!?」
それに対して渋木はこう言いのけました。
「ああ助けてやる・・・ お前という化け物からなぁ!!」
「こんな所でまで・・・ そんなに魔人が憎いのか? お前、魔人に何をされたんだよ!!」
フィフスは必死に話していると、それは横方向から突然飛んできた攻撃の回避で止められてしまいました。
「!? 今のは・・・」
その方向からは、どう考えても渋木は攻撃が出来ません。何があったのかとフィフスが首を向けると、さっき渋木が倒していたはずの蜂王がこちらに槍を向けて立っていました。
「倒されてなかったのか!!?」
「やられたふりをしていた方が、隙を作れる!!」
フィフスが視線を代わる代わる変えて警戒していると、また全く違う角度から今度は水の塊のような弾が飛んできました。二人に気を取られていたフィフスはそれを背中に受けて吹っ飛んでしまいます。
「グガッ!!・・・ 」
そしてそこからフィフスをあざ笑う声が聞こえてきます。
「ハハハハハ!・・・ まんまとはめられたな。」
声の主は、さっきフィフスが撃退したはずの化ケガニでした。
「お前も・・・ かよ・・・」
そのとき、フィフスはある違和感に気付きました。起き上がった魔人の二人は、こちらに対してばかり攻め、渋木の方には一切の攻撃をしていなかったのです。
「渋木!? なんで攻撃しない!!?・・・ 魔人を倒すんじゃなかったのか!!!」
しかしフィフスの焦った言葉を受けても彼は蜂王や化ケガニに攻撃をしようとはせず、銃口はフィフスに向けたままでした。
これを見てフィフスは、あることを思い立ちます。しかし彼はそれを信じたくありませんでした。ですが、彼が聞く前にその答えを渋木が自ら話し出しました。
「ああ、そういえば言ってなかったな・・・
これをフィフスは出来ることなら嘘と言って欲しかった。何故ならこれが正しければそれはつまり、この船で今までしてきた戦い、自分に恥をさらしてでもした交渉、嫌われてでも巻き込まないようにしてきた友達への対応・・・
・・・その全てが、無駄だったと言うことだったからです。
「俺は、コイツらと手を組むことにした。共通の敵である、お前を倒すためにな。」
そのとき、フィフスはここに来て自分がやって来た行動の全てを走馬灯のように振り返り、そして大きく後悔しました。
渋木に嫌われても、瓜と喧嘩しても、自分なりに二人を救えるよう出来るだけ最善の行動を取ってきたつもりでした。
しかしそれもこれも全部、ボードゲームの駒のように自分が彼らによって動かされていただけだったのです。
「・・・」
「どうした? ビックリして声も出なくなったか?」
態度が変わり、馬鹿にしてくる渋木。その声の調子にフィフスは彼を睨み付けました。
「お前・・・ はなからそいつらとグルだったってのかよ。じゃあ瓜は!!」
「心配するな、瓜のことを愛しく思っているのも本心だし、何よりこれも彼女のための行動だ。」
「はぁ?・・・」
フィフスは感極まって震えながらも顔が固まってしまいます。そんな彼の姿を楽しそうに見ながら渋木はこう話しました。
「どうでもいい人間を騙す魔革隊より、俺の大事な人をたぶらかすお前を先に潰す!! そのためなら悪魔とだって手を組むさ。俺がやることは正しいんだからな!!」
フィフスは渋木の正体を見て顔つきを変え、彼を強く睨み付けました。
「お前ぇ・・・」
「・・・ やれ。」
渋木は右手を振りながら声で合図を出すと、それを待っていましたかとばかりに蜂王と化ケガニがさっきまでより明らかに強くフィフスを攻め出しました。彼は元から追い詰められていたこともあり、逃げながらも何発かはかすってしまいました。
「クッ!・・・」
しかしフィフスはこれにめげず、四面楚歌になったこの場所から瓜を助け出そうと走り続け、一定の範囲内に入った途端に銃弾の嵐がやみました。どうやら渋木が瓜を攻撃する気は本当にないようです。
『ここは危険すぎる!! すぐにでも連れ出さないと・・・』
相手が近付いてこないうちに瓜とこの部屋を脱出しようと、彼女に向かって手を伸ばしました。
「瓜!!・・・」
そしてその手が彼女に届こうとしたそのとき・・・
プシュ・・・
「!?・・・」
フィフスは突然その体勢で動きを止め、そして力を失うように床に倒れてしまいました。
『何が・・・ 起こっ・・・ た?・・・』
フィフスは倒れながら薄れゆく意識の中で、閉じていくまぶたに見える景色。そこには、さっきまで気絶していたはずの瓜が目を開けて立ち上がり、こちらを見下している様子がありました。それも、フィフスの死角にあった手には、麻酔銃らしきものを握っています。
「な、んで・・・ 気絶していたんじゃ・・・ なかった・・・ のか・・・」
言葉を言い終えると、彼は気を失ってしまいました。