第192話 VIPエリア
目の前から攻めてきた毒液にフィフスが万事休すかと思っていると、突然右側からコンコンとノック音が聞こえて来ました。
「!?」
何だと彼がそこに首を向けると、突然壁の一部が扉のように開いて手が伸び、彼の服の裾をを掴んでその中に引っ張っていきました。
「こっち!!」
「何だ!?」
しかしおかげでギリギリ毒液の塊の回避に成功しました。塊は通り過ぎ、フィフスはいきなり暗がりに連れ込まれてどこかに頭を打ってしまいます。
「イッツ・・・ 何だってんだよいきなり・・・」
すると彼を引っ張った人が謝罪の言葉をかけました。
「ごめん、でもあれしか思い付かなかったから・・・」
「お前、誰だ?」
暗がりで見えなかったフィフスが目を細めると、後ろを向いた姿は見えました。かなり背中のスリッドを露出した赤い煌びやかなドレスを着た若い女性でした。
「こっちに!!」
「・・・」
彼女は話を聞かないままに指示を出してきますが、フィフスは蜂王の追跡を完全に逃れるために一旦彼女についていくことにしました。
彼女は静かに手招きをし、フィフスはその案内に従うまま階段を降りていきます。少しの間歩き続け、その場所から出ると・・・
「うおぉ~・・・ こいつは・・・」
そこで彼が見たのは、さっきまで自分がいた一等客エリアよりも更に華やかに飾り付けられた照明や装飾品、それこそまるで王族でも居座っていそうな空間が広がっていたのです。そしてそこにいかにもなお金持ちやラフな格好の青少年もいました。
「乗る前からえらくでかい船だと思ってはいたが、下の方にこんな空間があったのか!!」
「・・・」
二人は豪華な廊下を歩いて行き、フィフスは自身が王族でありながら、急に目の前に飛び込んできた景色に目をキョロキョロと動かしていました。
そして彼女がハンドサインで合図を出し、フィフスもそれに従って動くと、周りに人のいない所で立ち止まりました。
「ここまで来たら大丈夫かしら?」
「どうも。 ・・・で、ここはどこだ?」
「この船のVIPエリアよ。」
「VIPエリア? そんなものパンフレットには載ってなかったぞ?」
すると彼女は無言でフィフスの方に振り返りました。明るい場所で彼女の顔を見たことで、フィフスはこんなことを言い出しました。
「ッン!?・・・ お前、どっかで見たことが・・・」
「高足 倉よ。」
フィフスは彼女に引っかかりを感じました。しかしそれ以上に気になったことを優先して聞きます。
「お前、なんで俺を助けた?」
フィフスの言葉に倉は静かに答えました。
「もう、見ていられなくなったから・・・ あなたが怪物に襲われるのが・・・」
「あ? あぁ・・・ それなら大丈夫だ。こういうことには慣れている。」
「それに・・・ あなたとあなたの彼女を助けたくて!!」
「彼女?・・・ ッン! 瓜のことか!!?」
倉は頷いて肯定します。
「このままじゃあなたも彼女も取り返しが付かなくなる!! この船から速く降りて!!」
「待て待て! 突拍子過ぎて訳が分からん! 詳しく説明してくれ。」
「これは罠なの!! アイツが・・・ ウッ!!・・・」
話の途中で突然倉は体勢を崩しすと同時に胸を押さえて苦しみだし、フィフスは彼女に寄りかかります。
「おい! どうした!?」
「な・・・ なんでも・・・ ないわ・・・」
すぐに彼女の調子は戻って立ち上がりましたが、まだ息は上がりどこか悔しそうな顔になっています。
「と、とにかく・・・ 彼女を見つけたらすぐに逃げて。後がなくなる前に!!」
倉はそう言い残してその場から歩いて去って行きました。フィフスは止めようと手を伸ばしますが、相手は余程焦っているのか制止することもなく消えました。
「・・・一体何だったんだ?」
フィフスは彼女の言っていたことを気にします。
『さっきの話、嘘にしてはえらく必死なようだった。だがもしアイツの言っていたことがガチだったとしても、瓜を見つけなければ話にならない・・・』
フィフスはポケットからスマホを取り出してその画面を見ますが、変わらず表記は圏外のままでした。
『スマホも使い物にならない・・・ 上には最低でも蜂王がいる・・・ コンディションは最悪だが、足で探すしかねえか・・・』
フィフスが瓜を探し出そうとそこから歩き始めたそのとき・・・
「随分追い込まれているようだね。」
「!!?」
フィフスは突然後ろから聞こえた声にビクッと驚きながら振り返ると、いつの間にか楽しそうにしているカオスがいました。
「お前! 何のようだ!?」
フィフスは簡単に後ろを取られたことにゾッとし、すぐに武器に手をかけます。
「怖い顔するなぁ~・・・ せっかくまたヒントをあげようと思ったのに・・・」
「あ?」
「契約者を探しているんだろう? いいこと教えてあげるよ。」
するとカオスは小さな紙を取り出しました。彼はそれをフィフスに近付け、フィフスは何だとそれをよく見ます。そしてそこに写っていた存在に気が付き、目を大きくしました。
「瓜!!」
そこに写っていたのは、暗い部屋の中で気絶し、両腕を縄で拘束されている瓜の姿だったのです。
カオスは写真を引っ込めて顔をフィフスに近付けます。仮面で隠れてはいますが、フィフスは彼が今笑っている事はすぐに分かりました。
「は~いこの通り、彼女は現状僕らの手中にある。まあそうカッカしないで、僕と話をしようじゃないか。」
フィフスは主導権が完全に向こうにあることを自覚し、この場の話し合いに乗らざるおえなくされました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・クルーズ船 VIPエリア
フィフス達の乗っているクルーズ船に隠すように置かれていた一等客エリア寄りの豪華な空間。何故わざわざこのように隠しているのかは後々判明する。
よろしければ、『ブックマーク』、『評価』をよろしくお願いします。