第185話 二人目の刺客
一人っきりになったフィフスは、ただでさえもやついていたものがとことん重なり、部屋の中をグルグルと歩き回っていました。
『俺のバカ!! この非常時に何やってんだよ!!・・・ 明らかに今瓜と離れるのは得策じゃねえってのに・・・ いや、いっそ渋木の所にいた方が安全なのか?』
そこからフィフスはさっき休憩所でカオスに会ったときのことを思い出します。
『アイツがわざわざ自分から現れたって事は、いつ何が起きても不思議じゃねえ・・・ そうだ! しょうもない喧嘩なんてしている場合じゃねえ! すぐにでも・・・』
フィフスが多少時間が経ってそう思い立ちました。しかし次の瞬間、部屋の扉が独りでに開きだし、そこから殺気を感じた彼がすぐさまそこに体ごと剥けて睨み付けます。
「ッン!!・・・」
そして彼が見たのは・・・
「・・・どうかしました?」
両手に飲み物を持った瓜でした。より気まずくなったフィフスはまた顔を反対に向け、所々詰まりながら話し出します。
「な! 何だよ!!・・・ さっき啖呵切って出てった癖に、もう戻ってきたのか!?」
それに対して瓜は意外と軽い口調で話してきます。
「何というか・・・ 出て行ってすぐに考え直しまして・・・ その・・・ お詫びと言ってはなんですけど、これを・・・」
瓜は持っていたコーヒーの一つをフィフスに差し出しました。彼はそれを遠目にしながら受け取ります。
「そ、そうか! ありがとな・・・」
何か急いだフィフスはそのまますぐにコーヒーを飲みきり、「フゥ~・・・」と息を吐きました。
「ウン! 美味い!! 流石豪華客船の一品。ドクターのラボのものとは全然違うな!!・・・」
フィフスはそこから変にハイテンションになって笑っていましたが、次の瞬間・・・
「ウッ!!・・・」
フィフスは体に異常を感じて顔を苦しそうにしかめ、手に持っていたコーヒーカップを床に落として割ってしまいました。
「これは・・・」
「アハハハ!!!」
フィフスがまさかと思ってかろうじて頭を瓜に向けると、彼女はこちらをまんまとはめたとでも言いたげにあざ笑っています。
「ハハハハハ!!・・・ ほぉう・・・ カオスのやつが雪人から盗んできたとかいう痺れ薬はなかなか効くな。」
『雪人・・・ !! こないだグレシアが盗まれたって言ってたやつか!!』
フィフスは力を込めようとしましたが、残念なことに子供の腕力ほども出せず、そのままコーヒーカップの破片付近に頭から倒れてしまいました。
「ググ・・・」
瓜はそんな彼を見下ろし、鼻で笑ってきます。
「いくら獄炎鬼でも、動揺している時を狙えばこんなものか。なんともつまらないものだ。」
フィフスは彼女の口調からあることに気が付き、顔をなんとか上げて瓜らしき人物にこう言います。
「お前・・・ 誰だ?・・・」
するとその人物は冷たい真顔になってから両目を赤く光らせ、フィフスが擬態変化を解くときと同じように足下から発生した炎に包まれました。そしてそれが晴れると、足下から見ても大柄な魔人の男が、仰々しく大きな歯をニヤつかせました。
「天邪鬼!!・・・ やっぱり魔人は・・・ まだいたのか!!・・・」
「その通り。にしてもこうも上手くいくとはな。」
次にフィフスは、天邪鬼の現れ方から一番気になったことを聞きました。
「お前アイツを・・・ 瓜をどこへやった!!?」
「安心しろ、この先の廊下で一人黄昏れている。それに彼女はこれから襲うんだよ。」
「んな・・・ させるか!!」
フィフスは会話の間に近くの物に掴まってかろうじて立ち上がり、天邪鬼に殴りかかりました。しかしこんなにすぐ力が戻るわけもなく、簡単にかわされ、そのまま勢いでまた倒れてしまいました。
「クッソ・・・ お前の目的は渋木じゃないのか?・・・」
「ああ。だからこそスムーズに事が進むように人質がいるんだろ。」
「!!・・・」
「お前はそこで大人しくしているといい。」
天邪鬼は言葉を切ると一度顔を正面に向けて仁王立ちになります。するとまた擬態変化のさいの炎によって全身が包まれ、その炎が晴れて現れた天邪鬼の姿は、擬態したフィフスにそっくりになっていました。着ている服やしわの位置までそのままです。
「・・・俺!?」
フィフスはまた近くの物を掴んで立ち上がろうと画策しましたが、先に天邪鬼は気付いてその背中を踏みつけにしました。
「グッ!!・・・」
「大人しくしていろと言っただろう。暴れたところでもう遅いんだよ。」
天邪鬼はわざとらしく踏みつける足の力を強めてフィフスを痛めつけます。
「君のお友達はこれなんかよりよっぽど苦しむだろうねえ・・・ なんせ信頼していた奴に殺されるんだからなぁ!!!」
「て、てめぇ!!・・・」
フィフスは拳に力を入れてせめて魔術だけでも繰り出そうとしますが、天邪鬼に横腹から蹴り飛ばされてベッドにぶつけられ、力を緩めてしまいました。
「カハッ!!・・・」
「寝ていろ、獄炎鬼。無力化したお前にもう要は無い。俺は彼女の元に行こう。喧嘩はちゃあんと仲直りしないとな。」
「・・・」
フィフスは天邪鬼を睨み付けますが、相手の方は鼻で笑って歯牙にもかけませんでした。
「さあ、楽しいショーの始まりだぁ!! ハッハッハッハッハ!!!!」
そして天邪鬼は自身を形を変身させ、人とは比べものにならない速度で部屋を出て廊下を走って行きました。
「待て・・・ クソ野郎・・・」
取り残されたフィフスは蹴られたダメージもあってより動けなくなってしまいました。
『早くアイツに伝えないと・・・』
フィフスはテレパシーで瓜にメッセージを送りました。
『瓜! 今からそっちに来る俺は偽物だ! 制限を超えてもそこから逃げろ!!』
しかしこの質問を飛ばしてますが、次の瞬間、普通なら帰ってきそうな返信がありませんでした。
「瓜? オイ瓜!? このタイミングにシカトすんな!!・・・」
そのとき、彼は今朝からの瓜の違和感を思い出しました。変に彼女が無口だったこと。そしてそれと、深夜にユニーを召喚できなかった事態。この二つを合わせて考えたことで、ある結論が導き出されました。
『まさか・・・ テレパシーが使えない!!?』
その事実がどういうことか彼はすぐに理解し、自分でも気付かない間に表情が絶望的な物になっていました。結果今の彼には・・・
「ハァ・・・ ハァ・・・ 瓜・・・ 逃げろぉ!!」
彼はモゾモゾと全身を動かしながら、到底届くはずのない叫び声を上げることだけでした。
<魔王国気まぐれ情報屋>
天邪鬼の擬態変化は一種の他の者より優れており、『変化の術』として、普通一種しか出来ない変化をいくつもの姿に化けることが出来ます。
フィフスなどの一般の魔人では、自分の姿を元にそれをそのまま人間化した姿になるのが限界になっています。
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