第184話 私は代わり?
重い空気が漂い続ける一等客室。フィフスは渋木の言った事に一瞬動揺した顔を見せましたが、自覚してすぐに元に戻します。
彼が部屋の中に進んでいくと、その逆に自分で事を起こした張本人の渋木は一気に気まずい気分になったようで、座っていたベッドから立った流れのままに足を動かし、無言のままで部屋を出て行きました。
取り残された二人。瓜はふと言葉をこぼしました。
「フィフスさん・・・」
瓜がそこから何をどう話せばいいのか分からなくなる中、彼女から目をそらしていたフィフスは、無理矢理飄々としながら話し出しました。
「ハハ~ン・・・ 昨日からアイツに会うと気まずくしていると思ったらそういうことか。ガキの頃のボーイフレンドと再会ねえ・・・」
「彼氏じゃないです!!」
瓜は自分の声で強調してそう言いました。そこから小声で呟きます。
「そのときは・・・ うやむやになって・・・」
それを聞いてフィフスは経緯をなんとなく察し、口下手な彼女の代わりに語りまして。
「そのまま向こうが引っ越してハイ、さよなら・・・ だったのが、こんな所でバッタリとね・・・」
「は、はい・・・ その通りで・・・」
少し考えたような姿勢をしてからフィフスは机の方に歩きながら軽口を出し始めました。
「・・・ いいじゃねえか。」
「え?」
「こんなことは滅多にない! まさしく、運命の再会ってわけだ。せっかくだ、追いかけたらどうだ? 今ならすぐに追い付くだろ。」
「しかし・・・」
「どうせお前のことだ。答えを出さなかったのも自分に自信がなかったからなんだろ。今からでも行ってこい。」
「そんな!!・・・」
瓜は煮えたぎった思いがはじけて立ち上がってしまいました。
「フィフスさん、さっきから変です! どうしちゃったんですか!!? まさか魔人のことで何か・・・」
「何でもない! お前には関係無いことだ!!」
「またそうやって!!・・・」
瓜はフィフスに近付き、彼に真剣に言います。
「なんでいつも、あなたは大事なことを話してくれないんですか?」
「さっきも言ったろ。この世界の人間であるお前には関係無い!!」
「!!!・・・」
フィフスは頭に冷や汗を流して勢いで言ったこの台詞に、彼女がどんな思いをするのか気付きませんでした。
「関係無い・・・ ですか・・・」
フィフスの軽率な言葉は、彼女の胸には鋭い刃のように刺さっていました。
「じゃあ・・・ 私はあなたにとって、何だったんですか?」
瓜の今度は抽象的な質問にフィフスは当然の答えを出そうとします。
「何って・・・ 友達で・・・」
「友達の・・・ 代わりなんですよね。」
「!!・・・」
フィフスは瓜の言った事にさっきまでの表情が一瞬で崩れていき、そして彼女を凝視しました。
「お前・・・」
「知ってます!・・・ 向こうの世界にいる友人の代わりでしかないんです。」
フィフスはすぐに彼女の言うことを否定しようとします。
「そんなことは・・・」
「じゃああなたの部屋にあった写真は何なんですか!!?」
「写真?・・・ !! あれを見たのか!!?」
「・・・はい。」
瓜はまた顔を下に向け、声を小さくして話の続きをします。
「偶然でした・・・ でも、どうにも私とそっくりすぎて・・・ 彼女は誰ですか!!?」
瓜からの必死な言葉に今度はフィフスが言葉を詰まらせてしまいます。
「・・・言いたくない。」
「なんで!! 人の秘密は知りたがるのに!! 自分になった途端それって・・・」
瓜は反論しますが、そのときの彼の顔を見て声を抑えました。そのときの彼は、自分よりもっと嫌なことを思い出さされたようだったのです。
「・・・」
「・・・」
「・・・わかりました。」
沈黙を破った瓜の言葉にフィフスは黙ったままでいます。しかし彼女が下を向いて言った次の言葉には違いました。
「前から写真のことが気になって・・・ ずっと聞きたかった・・・ でも、それすらも蚊帳の外にする・・・ 私は、あなたの安心のための人形じゃない!!!」
「俺はそんなこと思ってなんてない!!」
瓜は目線だけフィフスに向けて、怒りの混じった声で言いつけます。
「・・・お望み通り、猿柿君のもとに行かせていただきます。彼は私を町田 瓜として見てくれますから・・・」
「瓜!!」
瓜はフィフスのすぐ横を通って部屋の外に出ようとします。しかし彼はその腕を掴んで止めました。
「どうしたぁ? お前こそ様子がおかしいぞ・・・」
「・・・」
しかし瓜は無言でその手を払いのけ、そのまま部屋の外に出て行ってしまいました。フィフスは追いかけようとしますが、自分があんなことを言ってしまった手前、足は止まり彼女を追いかけることは出来ませんでした。
「友達の代わり・・・ か・・・」
フィフスの頭の中に、写真の少女が思い浮かびます。
「まだ重ねちまっているのかよ・・・ 俺は・・・」
彼は伸ばしていた手をゆっくりと下ろしながら、どうすればいいのか分からなくなって立ち止まってしまいました。
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対して部屋を出て行ってしまった瓜。あの後結局渋木に追い付くことは出来なかったのか、廊下の隅にある窓の枠に手を乗せて外の海を眺めていました。
「・・・」
さっきフィフスに言った事を後悔しているのか、どんどん頭が沈んでいきます。
カツンッ・・・ カツンッ・・・
足音が聞こえた瓜は誰かと振り返りますが、そこには誰もいませんでした。
「?」
瓜を越えて部屋が並ぶ廊下。そこでは先程の足音が静かに響き渡っていました。
カツンッ・・・ カツンッ・・・
<魔王国気まぐれ情報屋>
・心の中のフィフス
『オイ! 何言ってんだ俺は!!? 止めろ!! これ以上馬鹿なことを言うな!! こんなこと瓜が喜ぶわけねえだろ!! やめろぉ!!!』
心の中では自分の言っていることが間違っていると気付いていても、歯止めがきかなくなってしまったようです。
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