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第183話 あの時の返事を・・・

 そこから二人は特に問題もなく部屋の付近の廊下にまで到着しました。


 「アイツ、見つかんねえな。」


 ここまで来る間に渋木は見つからず、無事なのかどうなのかも分からないまま部屋まで到着しました。


 「・・・」


 フィフスは隣の瓜の心配そうな顔にどうしたものかと悩みながらも、とりあえず部屋に入ろうと鍵をかざそうとしたとき・・・


 ガチャ・・・


 「!?・・・」


 開けようとした扉が勝手に開き、中から誰かが出て来たのです。フィフスは瓜の前に腕を引いて少し下がって警戒を強めると、出て来た人物が話しかけてきました。




 「町田!?・・・ それに、小馬君か?」




 「猿柿君!?」


 現れたのは、臼負いの騒動ではぐれてしまっていた渋木でした。どうやら彼も二人を捜し回っていたようで、その姿は汗をかいた顔に乱れた髪、そして着ている服は一部が破損しており、随分焦っていたことがうかがえます。


 「良かった・・・ 二人とも無事だったか・・・」


 渋木は焦点が定まりきってなかった目が止まり、表情を柔らかくして二人に近付きます。しかしフィフスは意外にも冷たく質問をしました。


 「どうやって部屋に入った? 鍵かけてただろ。」

 「中々見つからなかったから部屋に戻ったのかと思って・・・ 今朝着替えさせたときに場所は分かってたから、後はスタッフと裏でね。」


 渋木はポケットから取り出したカードキーを二人に見せつけます。


 「当然のようにやばいこと言ってねえか?」

 「フフン! こう見えてもけっこうなとこのお坊ちゃんなのだ! 人助けに惜しむ金は無いよ。」


 すると後ろの瓜が声を出しました。


 「猿柿君も、良かったです・・・」

 「へヘッ!!・・・」


 そのときフィフスが見た瓜の顔は、安心しているところもありますが、どうにも何か後ろめたいような感じでした。


______________________



 その後無事を確認したことで渋木とは離れ、フィフスと瓜は部屋の中に入りました。瓜が扉を閉めたのを見て、フィフスは声をかけました。


 「瓜。一ついいか?」

 「?」


 フィフスは瓜の目を見て気になったことを質問します。


 「お前、過去に渋木(アイツ)と何があった?」

 「!!・・・」


 瓜は黙ったまま目を横やしたにそらしてしまいます。


 「アイツに会う度にいつもよそよそしくしている。まるで後ろめたいことでもあるかのようにな。」

 「そ、それは・・・」


 瓜はその事について余程言いたくないのか、言葉を詰まらせてしまいます。空気が悪くなってきた事を察したフィフスは、頭をかいて話を変えました。


 「あぁ・・・ にしてもさっきのことがあったからなぁ・・・ 念のためだ、ちょっと外見て回る。」


 瓜はベッドを立ち上がって彼を止めようとしますが、彼はその理由が分かっていました。


 「安心しろ、制限の範囲は超えないさ。」


 フィフスはそう言うと瓜はまたベッドに座り込みました。確認したフィフスは軽い笑顔を彼女に向けてから扉を開き、部屋を出て行きました。彼の姿が消えると、すぐに扉のオートロックが閉まる音が聞こえてきました。


 その部屋に一人っきりになった瓜は会話が無くなり、部屋が沈黙に包まれました。そこから彼女は頭を下げてどこか気まずくしています。


 「・・・」


 少しそんな時間が過ぎると、沈黙は扉の方からのノック音で破られました。瓜が何だと顔を上げると、扉は勝手に開いて誰かが中に入ってきました。


 「!?・・・」

 「やあ、町田。」

 「猿柿君・・・」


 勝手に部屋に入ってきたのは渋木でした。何でも旧友である瓜のことを心配に思ったそうです。彼はすぐにそこから移動して彼女の隣の空いていたベッドのスペースに座り込み、声をかけてきます。


 「その・・・ さっきのこと、大丈夫かい?」


 瓜は首を縦に振って肯定を示します。


 「そうか、なら良かった。」


 また沈黙が流れましたが、彼は言葉を選びながら彼女に積極的に話しかけ続けていきます。


 「・・・にしても、本当に驚いたよ。たまたま乗ったクルーズ船で、君と再会出来るだなんて思ってもなかったよ。」

 「私もです。」


 渋木は少し間を置いて、改めて話し出します。


 「・・・こうして二人で話をするのはあの時以来だなぁ~・・・ 覚えているかい? 俺と君が最後に会った日のこと。」


 渋木が言ったことに瓜は目を丸くして両腕をピシッ!!っと石のように固めてしまいました。


 「それは・・・ はい・・・」


 つい濁した言葉を口にしてしまう瓜。余程このことについて触れたくないようです。しかし渋木はそんな彼女に優しい声をかけました。


 「なぁに、あのことなら気にしなくていいよ。」

 「でも! あの時私は!!・・・」


 瓜が部屋に響く大きさの声を出して彼に体を向けました。そこに・・・


 パシッ!!・・・


 っと渋木は彼女の手を突然掴み、握りしめました。


 「分かっている。だかこの部屋にもう一度来たんだ。あの時のケジメを付けようと思って・・・」

 「まさか・・・」


 渋木は握る手の力を強め、優しいまま声を大きくして言いました。


 「聞かせて欲しい、返事を・・・














  ・・・あのとき、俺が君にした『告白』の返事を!!!」




 「ハアァ!!!・・・」


 瓜は渋木の言葉に息を大きく飲み込んでしまいます。そして彼女は、そのとき扉の方向から物音がしたことにも気が付きました。


 とても嫌な予感を感じて彼女がそこにゆっくりと首を向けてみると、そこには丁度見回りを終えて部屋に戻ってきたフィフスが、重要部分をガッツリと聞いてしまって目が点になり、全身が固まって動かなくなっていました。


 「あぁ・・・ うん・・・」

 「・・・」

 「・・・」


 本日で一番の重い空気が部屋中に流れ出しました。

<魔王国気まぐれ情報屋>


・マスターキー


 渋木がスタッフに賄賂を握らせて手に入れたカードキー。クルーズ船内にある個室全てのセンサーにかざすことで入ることが出来る。





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