第180話 固有能力
フィフスへの心配から戻ろうとする瓜と、彼女のために更に逃げようとする渋木が口論で立ち止まっています。
「・・・」
「大丈夫だよ瓜! 君は心配することなんてないんだ!」
「でもこれじゃあ・・・」
しかし次の瞬間、瓜は渋木の近くの壁から人型の腕が飛び出してくるのが見えました。
「猿柿君!! 後ろ!!」
「!?」
渋木が振り返ろうとすると、その途中で壁から出て来た手によって頭を掴まれてしまいました。
「ウグッ!!?」
「猿柿君!!」
すると腕が出て来た付近の壁が盛り上がり、そこからさっきまでフィフスと戦っていたはずの臼追いが出て来ました。
「あ! あなたは・・・」
「お前は邪魔だ!!」
臼負いは瓜の腰辺りにもう一方の腕を当てて弾き飛ばしました。
「ようやく捕まえたぞ、小僧。」
「ヒ! ヒィ!!・・・」
瓜は動揺して固まり、渋木は冷や汗を流して震えます。
「フフフ・・・ この程度の抵抗造作もないわ。さて、ではお前を切り刻んで終いに・・・」
「や、やめ・・・」
しかし次の瞬間・・・
ドンッ!!・・・
「ウガァ!!?・・・」
臼追いは理解できない何かのダメージを負い、手を離してしまいました。
『今のは一体・・・ ここは一旦戻るか?』
臼負いはすぐに壁に戻って撤退しようとしました。しかし・・・
ガシッ!!・・・
「ンナッ!?」
「よぉ婆さん、こんな所に隠れてたのか。」
今度は叫び声を聞いて場所に気付いたフィフスが瞬間移動できたことで、腕を掴まれてしまいました。渋木は今の彼の姿を見て驚き、腰を抜かしてしまいます。
「な! 何だぁ!!? 今度は赤鬼・・・」
フィフスはそのとき臼負いの体の一部が近くの壁に入り込んでいるのが見えました。
『コイツ! 壁に潜り込めるのか!?』
臼負いはやけくそに電撃を放ってフィフスの腕を離し、同時に近くの壁を破壊して渋木と二人を分断しました。
「町田!!」
「猿柿君!!」
すぐにまた臼負いは壁に入り込み、姿を消しました。フィフスは一緒の側にいた瓜を近くに寄せて警戒しながら、相手について考えます。
『これは臼負いの固有能力ってとこか・・・ さて、こうなると奴の次の手はまた渋木を襲いに行くか? いや、アイツは俺の瞬間移動の制限を知らない。とすると優先すべきは・・・』
フィフスが考え込んでいると、突然二人の死角の壁から臼負いが飛び出し、彼らに向かってきました。しかし彼は、その方向から来ることが分かっていたかのように振り向き、剣で相手の攻撃を弾きました。
「やっぱ俺から潰しにかかるか。」
臼追いはその勢いのまま反対の壁に入り、同じように出現しては、フィフスに弾かれるのを繰り返しました。
「フィフスさん・・・」
「・・・」
結果一地点に足止めされ、動けないでいる二人に臼負いは挑発の言葉をかけてきます。
「へへへ! そうやっていたところでいつまで経っても解決はせんぞ! どうする? どうするぅ~!?」
しかし相手の言葉に気を触れる様子もなく、フィフスはこの交易を何度も捌くことで、頭の中である仮説を立てていました。
『攻撃パターン、出現場所、そして現在地・・・ 不測の事態もいくらかあるかもしれねえが、試してみるか・・・』
そしてフィフスはその行動を起こそうと、瓜に話しかけます。
「瓜・・・」
「はい!」
そして次に彼はこう言います。
「全速力で逃げるぞ!!」
「エェ!!?」
そうしてフィフスは突然逃げ出し、瓜も言われるままについて行きました。臼負いはこれを笑いながら追撃をかけます。
「逃げるか腰抜けめ! じゃがワシはそれを逃がすほど甘くはないぞ!!」
臼負いは壁から両手を出して電撃を放ち、フィフスは瓜の分もまとめてそれを捌きます。
しばらく追いかけっこが続きましたが、とうとう二人は回り込まれ、逃げる方向の側面の壁から臼負いが出てきます。二人はこれに足を止めました。
「残念、追いかけっこはもう終わりじゃ。」
余裕の体勢で臼追いはじわじわ二人を追い詰めようと歩いて近付いて来ますが、そんな相手にフィフスはこう言いました。
「そりゃあ、もう必要がないからな。」
「?」
するとフィフスは、今の言葉の意味が分からず動きが一瞬止まった臼負いにドロップキックを決め、その先の電気が消灯した広間の扉を突き破らせました。起き上がった臼負いは声を荒げて反応します。
「な、何じゃ!!?」
「ここは・・・」
そこは、今朝フィフス達が朝食を取った広間でした。スタッフによる片付けも済み、既に部屋はだだっ広い場所になっていました。
「ええい!!」
臼負いはまたすぐに壁に入り込もうとしますが、さっきの蹴りで広間の中心に来てしまったために入り込む壁がありません。そんな相手にフィフスは推理を話しました。
「仮説だが・・・ お前、さっきから壁にばっか入って、木で出来た床には同化しようとはしなかったよな? さながら同化できるのは『鉱物』のみって予想なんだが、どうだ?」
臼負いは下唇を噛んで悔しそうにしていることから、どうやら図星のようです。
『クゥ・・・ このままでは・・・ ハッ!!』
臼負いは状況を打開しようと考えると、フィフスの後ろには瓜がいることを思い出しました。彼女に攻撃を向ければ少しでも彼の意識をそれると思い、早速行動に移します。
『<雷鳴術 電撃線>』
電撃は彼を通り越そうとしますが、彼はこれも読んでいました。
「バカか・・・」
フィフスは両手でそれぞれ違う場所に爆破裂を発生させ、二分していた電撃を見事に相殺しました。
「ナッ!!?・・・」
「行動が単純すぎるんだよ婆さん。」
ビキィ!!!
フィフスの軽口に臼負いは怒りが頂点に達し、返事に大声を浴びせました。
「言ってくれるのぉ!!! ならばこれも受けきれるのか、試すとしよう!!!」
臼追いはその位置から飛び上がり、すぐに二人の頭上にまで到達します。そしてその体から、何かを切り離していきます。
「あれは!!?」
「へへへ!! 今は何も同化していないとでも思ったか!? ワシは臼負いじゃぞ!!」
臼負いの言うとおり、彼女の全身から切り離された物体は、二人を軽く潰せてしまうような巨大な石臼でした。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・固有能力
魔人の一種族のみが使える特殊術。『臼負い』の場合は鉱物との同化が可能となり、グレシア達『雪人にいたっては『氷結術』そのものが固有能力となっている。
実はフィフス達『鬼』も固有能力を持っているが、それは後々に出すことにします。
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