第175話 お守りブレスレット
外側から見た大きさのこともあって、二人が中を軽く歩いただけでも大量の客室や、豪華な装飾を発見しました。異世界とはいえ王族出身のフィフスはともかく、一般人の瓜はこの慣れない華やかさに既に疲れが出ていました。
「うぅ~・・・」
「おいおい、来ていきなりダウンか?」
『そ! そんなことはありません!!』
「そうか? ま、どっちにしろもうすぐ部屋には付くから安心しろ。」
二人は更にしばらく奥へと進み、ようやくフロントから言われた客室にたどり着きました。
「ここだな。」
フィフスは部屋の扉を開けます。三等船室なのでそこまで広いわけではありませんが、奥の窓からは広い海が見える良い部屋です。割と庶民的な部屋に入ったことで、瓜はようやく落ち着いたような力の抜けた顔になりました。
『分かりやすいやつ・・・』
「?」
二人は部屋のエアコンをつけてからいそいそと荷ほどきを始め、その後ハンドバッグに最低限の貴重品を入れて部屋を出ました。瓜はまた慣れない空間に出ることに結界に阻まれるかのごとく足を躊躇させていましたが、フィフスが引っ張って出しました。
「何してんだお前?」
『すみません・・・』
そこから二人は部屋の鍵を閉めて船内を歩いてロビーに出ました。そこでの案内板を見て、フィフスは感心します。
「へ~・・・ 温泉に映画館、温室プールに演劇って・・・ 流石豪華客船、何でもありだな。」
『どこから行くか迷ってしまいますね・・・』
「う~ん・・・ ま、悩んで時間を潰すのもなんだし、土産物でも買いながら考えるか。」
『ですね。』
二人はロビーの近くにあったお土産屋さんに行こうと歩き出しますが、その途中でふと瓜が足を止めました。フィフスがそれに気付いて彼女の見る方向を見ると、そこには小さな露店に、お守りと書かれた看板がありました。
「瓜?」
『ちょっと、よっていって良いですか?』
「? 何か気になったものでもあったのか?」
瓜は何も言わずに露店に向かって歩いて行き、フィフスはその店の少し前で彼女を待ちます。彼女はおもむろに品物を見て、そしてその内の一つを取りました。
「あった!」
瓜はその足でレジまで進み、無言のままに会計を済ませて彼のもとに戻ってきました。そしてその手に持っていたものを手渡してきました。
『これ、この前のぬいぐるみのお返しです。』
「俺に?」
フィフスが受け取った紙袋を開けてみると、中には中心に赤い石の装飾が付いてあるブレスレットが入っていました。
「何だこれ?」
『『厄除け』です。このところ、災難続きでしたから・・・』
「あぁ・・・ そりゃあ、どうも・・・」
フィフスは少々リアクションに困りながらそれを目の近くに持ってきて全体を見ます。瓜はそれを見て困らせてしまったと思ったようで、すぐに慌て出しました。
『あぁ!! すみません!! こんなの、迷惑でしたよね・・・』
彼は無言のままさっき瓜が行った露店に歩いて行きました。そして少しして戻ってくると、その手にはもう一つ、彼女があげたものと同じブレスレットを持っていました。
『フィフスさん?』
「お前用だ。人のこと言えないほど不幸だったからな。」
『ウッ!!・・・』
「いらねえか?」
瓜はフィフスの言葉に首を横に振ってから言葉にして言いました。
「欲しいです。」
「・・・ そうか。」
フィフスは少し嬉しそうにしてブレスレットを渡しました。瓜もそれを受け取り、二人一緒にそれを左腕にはめました。
『お揃いですね。』
「ま、記念に良いんじゃないか?」
二人はそのとき気付いていませんでした。露店に置いてあった商品を示す文字盤が、商品の下に書いてあったこと。そのブレスレットが『厄除け』ではなく、『縁結び』だったことに・・・
その後、二人はさっき言っていたとおりグレシア達へのお土産を探し出します。二人はそれぞれ別れて別々に探していました。
「う~ん・・・ 種類が多いもの考え物だな・・・ どれにすれば良いのか分からん・・・」
フィフスが瓜と別れたことをすぐに後悔していると、その彼女本人はある程度目星を付けていました。全て相変わらずセンスは皆無でしたが・・・
「あ! あれも良い!!」
彼女がそう呟いて見つけたお菓子に触れようとすると、反対方向から同時に手が伸び、彼女がお菓子に触れた次の瞬間にその手が重なってきました。
「「アッ!!・・・」」
瓜が相手の顔を見ると、そちらも彼女の顔を見ていました。そこにいたのは、フィフスとは違い爽やかに顔の整った、彼女と歳の近そうな青年でした。失礼をかけていると思った彼女はすぐにお菓子から手を離して青年に謝ります。
「すっ! すみません!!・・・」
すると青年もお菓子から手を離して謙虚に返しました。
「いやいや、こちらこそ・・・」
「その・・・ お先に・・・」
「いや、先にそちらが取ってましたし・・・」
「いや・・・ でも・・・」
瓜は小さい声で青年の方に先にお菓子を取らせようとします。しかし彼も同じような態度をし、二人の悶着はしばらく続きました。
その後、結局相手が折れて先にお菓子を取り、瓜に愛想笑いを見せてレジに向かって行きました。彼女も一礼して青年と別れます。しかし直後に彼女は一度立ち止まってふとあることを思いました。
『さっきの人・・・ どこかであったことがあるような・・・』
瓜は少し考えながら他のお土産を探しに行こうとすると、突然後ろから声をかけられました。
「もしかして・・・ 町田か?」
「・・・エッ?」
どうやら早速、縁結びの効果があったのかもしれません・・・
<魔王国気まぐれ情報屋>
・装飾品の露店の店主
『カップル二人が縁結び買ってったなぁ~・・・ いいなぁ~、ああいう青春・・・』
フィフスと瓜のことにどこか勘違いをしていました。
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