第171話 女性ホイホイ
翌日、昨日と同じ広場にて、事前に鈴音を呼び出しておきました。そして事情を説明したところ、彼女は・・・
「いいぞ!」
「いいのか!? 頼んでなんだが、そんな簡単に・・・」
「屋台の宣伝をすればいいんだよな? そんな物朝飯前だぞ。ルーズ!」
「はい、早速準備を。」
二人はすぐに動画の撮影準備に取りかかり、フィフス達は待っている中、こう呟いていました。
「何というか、即決だったな。自宅配信者なんだし、こういう外での撮影はてっきりやらないものかと思っていたんだが・・・」
そこに準備で荷物を持ちながら通りかかったルーズが囁いてきました。
「お嬢様は嬉しいんですよ。恩返しが出来る機会が出来て。」
「恩返しだと?」
フィフスが何のことかと疑問を浮かべると、ルーズは小さく笑顔を浮かべて話しました。
「鈴音様は、以前のオークのことに心を深く傷つけられました。王子や瓜さん、グレシアに姫様も、そんなあの方に気軽に接され、少しずつそれを治していってくれた。」
「それを言うなら、一番はお前だろ。」
「ええ、でも自分は日々感謝の言葉をいただいていますので。今回あの人は、普段何も出来なかった自分が役に立てると思っているんです。
「ホ~・・・」
ルーズは一礼して離れていき、また準備に取りかかっていきました。
「別に恩返しされるいわれはないんだけどな・・・」
フィフスが独り言を呟いていると、隣の平次が聞いて来ました。
「なあ、今岡見の奴、俺の名前だけなかった気がするんだけど・・・」
「お前は特に何もやってないからな。」
「酷くない!? 皆酷くない!!?」
そうたわいのない会話をしている間に、鈴音とルーズは撮影の準備を大方完了させました。
「よし、後はこれで・・・」
鈴音は鞄からウィッグを取り出し、それを被りました。すると・・・
「よしルーズ! 撮影始めるわよ!!」
「はい、カメラ回します。」
実は撮影するところを初見で見たフィフス達は、これを見て・・・
「アイツ、ズラを被ると口調変わるのか?」
「モード入ったな・・・」
『この方も、やっぱり凄いですね・・・』
「オン、オフしっかりしてるのねぇ・・・」
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どこかの電車で移動中の女子高生二人組。
「ねえ見て! ベルリズムが配信してるよ!」
「え!? どれどれ・・・」
その他にも、各地で撮影された動画が見られました。
・ベルリズムの動画 省略版
「チャオー! ベルリズムよ!! 今日は特別編、私、ベルちゃんが皆の街へ繰り出しちゃいます!! どこか良いお店でご飯を食べたいなぁ~・・・ あ! あれは!!」
ベルちゃんは広場に開いているラーメン屋の屋台を発見した!!
タタタタタ・・・
「どうも! あの~・・・ 撮影よろしいですか~?」
店主のアポ、OK!!
ツルツルツルツル~・・・
「う~ん! 美味しぃ~!! これまで食べたラーメンの中で一番の味だわぁ!!」
「このラーメン屋さんはあと数日間だけこの広場にいるみたいよ! 皆、住所はこちら! 気になった人は是非食べてみてね~!!」
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鈴音の動画が広がり、数時間したこの日のお昼時。その効果は・・・
「ここのお店なんだって!!」
「凄い美味しいらしいわよ!!」
「やっぱベルリズムの情報は追っとかないとね~!!」
フィフス達の予想を超えた大盛況でした。人気配信者の異名、それも普段企業案件をやらない彼女の影響は伊達ではなかったようで、動画を見た女性客は次々と押し寄せ、いつしか先の見えない行列が出来ていました。
「んなアホな・・・
と、言いたいところだが、事実目の前で起こっている。ベルリズムの力ってスゲえなぁ・・・」
『で、ですね・・・』
その行列は留まることを知らず、鈴音達が密かに出た広場の出口にさえ、待ち人がいるほどでした。
「いや~、我ながら効果絶大だな!」
「流石です、お嬢様。」
その日の夜、やっと落ち着きを見せて畳んだ店で集計を取ってみたところ、その額は・・・
「二十三・・・ 二十四・・・ 二十五・・・ スゲえ・・・ おつりが出るレベルだ・・・」
『・・・ てことは!』
「ああ、ノルマ達成だ。」
それを聞いて瓜、そしてフィフス自身が腕を上げ、「ヨッシャァ!!」と声を上げました。残りの手伝った二人は一落ち着きして座り込みます。
「ハァ~・・・ 中々疲れたわね・・・」
「慣れない事はするもんじゃないなぁ・・・」
そこにフィフスは近づき、お礼の言葉をかけます。
「お疲れさん。色々世話になったな。」
「ホントだ! 巻き込みやがって・・・」
「報酬はちゃんと出しなさいよ!!」
「分かってる分かってる。」
フィフスはあらかじめ用意しておいた封筒を取り出し、二人にそれぞれ渡しました。受け取ったサードはふと聞いてみました。
「ねえ、それで結局あんた達何のために働いてたの?」
「俺も気になった。」
フィフスは例のことを言おうか悩みましたが、後ろで瓜が彼の服の裾を小さく引いたことで意図を理解しました。
「悪い、その事は俺と瓜だけの秘密だ。」
「何だよ! 俺にも教えろ!!」
「ま、いいんじゃない。コイツは良いけど、ウリーちゃんに迷惑はかけたくないし。」
「何事もそれ優先かよ!!」
「アハハ・・・」
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その場のメンバーを解散し、フィフスと瓜は静かに屋台を引きながら牛若家屋敷に到着しました。そこでコッソリやって来た静に収入を渡しました。
「本当に、ありがとうございます!!」
静は大きく頭を下げました。
「これで借り貸しは無しだ。もう何も頼んでくるなよ!」
すると静は頭を少し上げて聞いて来ます。
「あの~・・・ 秘密の件は・・・」
「もちろん言わねえよ、俺を何だと思ってやがる。」
「え? イキリを地で生きるムッツリスケベ。」
「金返せゴラ。」
軽く冗談を交えた後、静はまだ仕事が残っていると言って屋敷に戻っていきました。残って二人はそれを見送りました。
『なんとか終わりましたね。』
「腹減ったな。家でラーメン食うか。」
『〆に良いですね。』
二人はそこから会話をしながら家に帰っていきました。
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それとときを同じくして家に着いた平次。
「ただいま~・・・ ん?」
玄関に入った彼は、廊下にまで浸食している薬草などの謎の物体がありました。
「おいおい何してんだグレシア。」
するとグレシアは部屋から顔だけ出してこう言いました。
「あ! 平次! 昨日アンタドア開けたまま出てったでしょ!!」
「え! マジで・・・」
「そうよ! それで見てみたら、いくつか薬品が消えてたの。全く不用心なことしてくれたわね!!」
「おお、それはすまない・・・」
平次は狭い廊下を通り抜けてリビングに着くと、頭の中でこう思いました。
『でもなんでグレシアの薬なんて盗むんだ? 物好きな奴もいるもんだなぁ~・・・』
彼は誰にグレシアの薬が盗まれたのか、少し気になりました。
その当人は、どこか分からないビルの非常階段に立って、盗んだ薬のフラスコを振らしていました。
「フンフフ~ン・・・ いいもの手に入れちゃったなぁ~・・・」
フラスコに映るは、特徴的な仮面。またしても、カオスの仕業でした。
次回から新しい長編に入ります。エデン篇以来の長期投稿になります。
物語の一つの区切りになる重要な話にしようと思って執筆いますので、少しでも楽しんでいただけると幸いです。
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