第167話 静からのお願い
それからしばらくして押し入っていた人達が帰っていったのを見て、フィフスと瓜は静の元に行きました。瓜はまた筆談で話します。
「おい、何だってんだ今の?」
「なんだか問い詰められているようでしたが。」
見られていたのかと静は一瞬嫌な顔になりましたが、ここまで知られては仕方ないと思ったようで、眺めの瞬きをしてから何か諦めた顔になりました。
「その・・・ 場所を変えましょう・・・」
そこから三人は町田家のリビングで話をすることになりました。瓜は静の分のお茶も用意し、静も瓜に礼をします。そして瓜も椅子に着いたのを確認すると、早速フィフスは静かに聞きました。
「先程はお見苦しいところをお目にかけました・・・ 」
「構いやしねえよ、勝手に覗いたのはこっちだ。で、さっきのは何だ?」
静は、深呼吸をしてからゆっくり話を始めました。
「取り立てです。今月は特にツケが溜まっていたので・・・」
「「ツケ!?」」
二人はそれだけでも驚きます。なんせ二人は牛若家がお金持ちの家柄だと聞いていたので、ツケ、即ち『借金』があること自体矛盾することだからです。
「おいおい、牛若家って金持ちじゃなかったのかよ!?」
「はい、本家の方はもちろんそうです。」
「本家?」
静はここから先のことを言うことを渋りましたが、この際話しておいた方がいいと思い白状しました。
「実は・・・
若様は、追放された身の上なのです。」
「「!!」」
二人は大きく驚くと共に、どこか納得しました。そこからも説明は続きます。
「・・・ そもそも奥様、若様のお母様は、言うところの不倫中というものだったんです。縁談で決まった奥様との仲が悪かった旦那様が、たまたま任務で出会ったのが、フリーで活動していたときわ様だったんです。それで・・・」
「ガチ恋して出来ちまったと・・・ ドロドロだな。」
『フィフスさん!!』
フィフスのトゲのある言葉に反応せず、次に静はこう言います。
「ハイ・・・ 牛若家は由緒正しき家柄として、このような事態をどうしても闇に葬りたかったようで、ときわ様と若様をあの別荘地に追い払ったんです。」
途中から完全に黙って話を聞いていた二人はそこで口を開けました。
「牛若さんに・・・ そんな事情が・・・」
「給料面はどうなってんだ? その感じだと余裕はねえんだろ?」
「私は恩返しのためにやっているので別に・・・ 弁さんも、特にはないと・・・」
「てことは二人揃って無給でやってんのか!!? まさか、任務終わりにいちいちドクターに報酬を貰ってんのも・・・」
「ドクターには、前々から資金援助を受けています。今の屋敷はそれでなんとか・・・」
ある程度説明を終えると、フィフスは両腕を組んでふと思い出したことを言います。
「なるほどな。下着泥棒のときに弁爺さんがいなかったのはそれでか・・・」
『それが今月は多すぎて、過労で倒れてしまったんですね・・・』
二人がまた沈黙すると、静は出されたお茶を飲んだ後に、改めて二人の顔を真っ直ぐ見てきました。そして・・・
「その、ここからが本題なのですが・・・」
「本題? さっきの説明じゃなかったのかよ。」
「はい、これで事情はお話ししました。だからこそ・・・
お頼みします!! どうかお二人、このことは若様には言わないでもらえないでしょうか!?」
フィフスと瓜は彼女の言うことに口を大きく開けました。
「あぁ!!? 何でだ!?」
「若様は屋敷の没落については一切知らないのです! 出来ればこのまま、余計な心配をして欲しくなくて・・・」
「だからってな・・・」
「お願いします!!」
静は何度も頭を下げてきますが、フィフスは頭をかきながらこう返します。
「そもそも、今月の出費も間に合ってないんだろ? すぐに牛若には誤魔化せなくなんじゃねえのかよ。」
すると静は途端に表情を変えてハッキリ言いました。
「あ、その事についてはもう当てが出来てますので大丈夫です。」
「「当て?」」
二人は同時に首を傾げました。
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そして翌朝、フィフスと瓜は・・・
それらしい格好になってラーメン屋の屋台の店員になっていました。
「ちょっと待てぇい!!?」
フィフスが当然の突っ込みをすると、合流していた静が話します。
「なんで関係の無い俺らが働く羽目になるんだよ! どう考えても勝手が過ぎるだろ。」
「だから昨日説明したでしょう。あなた方がラーメン屋さんをするのが一番の手なんです。」
彼女曰く、弁はもちろんのこと、自分も姿を消せば経義に怪しまれてしまう。そこで事情を知った二人にツケ分の稼ぎをしてもらえるのが一番の手だそうです。不満顔のフィフスに瓜からも説得されます。
『私は構いませんよ。今日から春休みですし・・・』
「瓜・・・ 同情するのは分かるが、それで引き受けてたら切りがないぞ・・・」
『しかし・・・』
すると静は目を細めながらフィフスに近付きます。
「五郎さん、あなたに拒否権はないですよ?」
「あ? なんで・・・」
静はフィフスの耳元でこう囁いてきました。
「この前のチョコのこと、忘れたわけではありませんよね?」
ドキッ!!・・・
「それは・・・ 俺は操られてただけで・・・」
「ぬいぐるみのこと、志歌さん達にも話しましょうか?」
彼女の闇のこもった睨み付けに、フィフスはとうとう参ってしまいました。
「ああ! 分かった分かったよ、やればいいんだろ!! 牛若にはこないだので借りがあるしな。」
『フィフスさん!!』
「ただしツケの分が精算できるまでだ。後は知らん!!」
「十分です! ありがとうございます!!」
仕方なく決心を付けたフィフスは、静に肝心なこと聞きました。
「それで、ツケってどのくらいあるんだ?」
「ああ! そうですね・・・」
静はどこからか電卓を取り出して計算し、それを終えると二人に見せました。
「ざっと、このくらいです。」
「どれどれ・・・」
「「・・・ ッン!!!?」」
さて、フィフスと瓜のラーメン屋、開店です!!!
<魔王国気まぐれ情報屋>
屋台の店名 『ラーメン ラーラー』
命名主 町田 瓜
フィフス「相変わらずセンスねえ・・・ というか安直すぎるだろ。」
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