第15話 お菓子隊
夜の月明かりも届かない、古いアパートの一室。そこには一人の男が、一枚の写真をじいっと見ていました。
「はあ~、はあ~、全くもって可愛いなあ~」
それを見ながら興奮している彼の元に、誰かがやって来ます。
「やあ、楽しそうだね。」
「邪魔するな。俺はこの子とイチャイチャするので忙しいんだ。」
お楽しみの所を邪魔された男は不機嫌のようだ。しかし、それ以前のことに彼は今気付いた。
「お、お前・・・誰だよ!?」
部屋の主人である男は、それを言うと共に立ち上がって振り返ると、そこには前に女に土蜘蛛を使わした男が悠々と立っていました。我に返った主人の男は怯えているが、もう一人の男は話を続けます。
「なあに安心してくれ、怪しい者じゃないよ。 僕は・・・
・・・君の願いを叶えに来たんだ。」
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その頃の石導家自宅のマンション。居候しているグレシアは、自分のベットに涙目の顔を埋め、足をバタバタして悔しがっていました。
「キーーーーーーーーーー!! あの馬鹿王子、久々に会ったと思ったら相変わらずのくそったれた態度を・・・ ホントどこまでいってもムカつくわ~!!」
そこに、部屋からの騒音を聞きつけて、家にいた少女がそこに来ます。
「どうしたの、グレ姉? 珍しく暴れて・・・」
彼女は<石導 美照>、平次の一つ下の妹です。
「聞いてよ~、美照~! かくかくしかじかで~・・・」
「わ~、それはまた酷いわねえ。」
「そうよ、大体あいつ、久しぶりの再会なのに会話も全然無くいきなり情報よこせなんて!! こっちは話したいこといっぱいあったのに!!」
「グレ姉の言う事はもっともだと思うよ~。いくらなんでもそれは失礼過ぎるわね~・・・」
「そうよ!! せっかく二人で話しようと思って部屋に連れ込んだのに、別の子のためにすぐにどっか行っちゃうし・・・」
「何よれ!? もしかして会ってない間に彼女作ってたとか!?」
「そうではないみたいなんだけど・・・ それにしたって・・・」
「フーン・・・」
ニヤけながらグレシアの顔を覗き込む美照。対する彼女は困惑気味のようでした。
「な、何・・・ どうかしたの?」
「いや、何にも~・・・」
美照はそれを聞くとグレシアの部屋からニヤついた顔で離れていきました。
「何しに来たのかしら、あの子・・・」
一人自室までの廊下にウキウキで歩いていた美照。
『クックック・・・ これは良い感じの恋の予感・・・』
石導美照、兄に負けず劣らずの恋愛脳。そんな彼女は、これからのことを楽しみに思いながら自室に戻っていきました。違和感を感じ、ベットに座ったグレシア。
「何考えてたんだろ・・・」
するとそこに、白い光が輝いた。グレシアが自室においていた水晶からです。
「これは、現れたわね・・・」
水晶を見たグレシアは、涙を引っ込め、きつい表情になりました。
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翌朝、教室はどこか変な雰囲気になっていた。クラスメイトが男女共にフィフスの方を注目していたのです。
『何なんだこの空気。何で俺注目の的になってんの?』
『どうやら今朝、変な噂が流れたようで・・・』
『噂?』
フィフスが周りの声をよく聞いてみると、ヒソヒソとした話し声が聞こえてきます。
「彼がそうなの?」
「ああ、あの奥山さんに告られた挙げ句、それを振ったらしいぞ!!」
「何だと!!」
「クソッ!! 何て罪深いことを・・・」
「こりゃ、奴らに目をつけられるぞ・・・」
『ああ、そういうことか・・・』
そう、フィフスは昨日の事が変に変えられてしまい、「校内のアイドルを振った非情な男」というレッテルを貼られていました。
『こりゃ、居心地の悪いことだ・・・』
当のグレシア本人は欠席しており、その事と相まってその日中フィフスはイヤな視線を浴びていました。彼自身は苦ではないようだが、近くにいる瓜には話が別です。
『うう~、朝からこの視線はきついですう・・・』
『今回お前は関係無いからな・・・』
そのとき、ふとフィフスは辺りをチラ見しました。
『どうかしましたか?』
『スマン、トイレに行きたいんだが・・・』
『ああ、なら案内します。』
瓜について行き、フィフスは男子トイレに到着しました。
「悪い、腹痛だから、時間かかる。」
「かまいませんよ。待ってますので。」
瓜に許可をもらい、トイレに入るフィフス。個室に入りかけたそのとき、周りから複数人の男が突然襲ってきました。
「キエーーーーーーーーーーーーーー!!」
ボコッ!! ドシッ!! ドンッ!!
一悶着が終わると、扉を開けた個室の便器にズボンをはいたままのフィフスと、見事に返り討ちされた男達がその前に正座していました。
「で、お前ら俺に何の用?」
上から圧をかけてくるフィフスに屈しず、男達は反論を始めます。
「お、おのれ!! またしても我らの怒りを買いおって!!」
「あ? 俺お前らと話したこと無いだろ。」
すると男達が打ち合わせをしたかのごとく順番に立ち、名乗り始めました。
「我ら、共に誓いを立て!!」
「たった一人のお方、奥山さんをお守りする為に集いし者達!!」
「その規約に従い、貴様を粛正しに参った!!」
「「「我らは、<お菓子隊>!!」」」
「言ってることクソ理不尽なのに名前だけやたらファンシーだな・・・」
『てか要するに、グレシアの熱狂的なファンクラブってことか。あいつのどこがそんなに良いのか・・・』
追い打ちをかけるように三人はビシッ!! っとフィフスに指を指した。
「小馬五郎、貴様は規約第六条『奥山さんと二人で行動するべからず』・・・」
「第十条『奥山さんからの頼みを断るべからず』・・・」
「そして第五十六条『奥山さんと絡んだ者は他の女子と付き合うべからず』の三つを破った容疑として、粛正対象となった!!」
「最後に至っては完全にひがみだろ。てか規約多いな!!」
じりじりと迫ってくる男達。
「さあ、制裁の時間だ。最後に何か言いたいことはあるか?」
「さっき返り討ちにあっただろ。」
「そんなことで我らの信念は砕けん!!」
「きっちり償ってもらう・・・」
フィフスは小さくため息をついた。
『はあ、どう始末するか・・・』
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一方その頃の瓜、男子トイレの前で立ちんぼ中。
『随分長いですねえ、後でお薬でも買ってきますか。』
何てことを考えていたら、そこに平次がやって来ました。前回とは違い、走ってはいない様子です。
「やあ、町田さん。」
「石導君。 あなたは・・・ 私に何か?」
相変わらず小声の片言だが、平次には伝わった。しかし、彼は予想と違うことを言います。
「いいや、今回はあの鬼に用があってね、どこにいるか知らない?」
「十分前から・・・ トイレに・・・」
「エッ? 十分間ずっと待ってんの?」
「はい・・・」
平次はそれを聞いて瓜のことを不憫に思いました。そして要件と共に文句を言おうと、トイレに突入しようとしたそのとき・・・
ドーーーーーンッ!!
「ドワッ!!」
「な、何ですか!?」
その場にいた瓜と平次は、音のする方向を向くとそこには、コウモリにも似た二足歩行の怪人が立っていました。
「あれって・・・」
「まじか! ここに来るなんて聞いてないぞ!?」
ざわめき出す周囲に、怪人は辺りをキョロキョロと見回します。
「・・・ ここにはいないのか。ならいい。」
現れた怪人はそう言うと首を上に向けて口を大きく開きます。その行動に平次は感づき、瓜に両手を伸ばしました。
「町田さん、危ない!!」
とっさに平次に耳を塞がれる瓜。すると怪人は口から奇っ怪な音波を放ってきます。それを聞いた人達は、意識を奪われたようにぼ~っとしながらその場から離れていきました。
「これって・・・」
向こうの怪人は瓜達の方を見てきた。二人に術が効いていないことを疑問に思っていました。
「ほう、俺の術が効かない人間がこの世界にいるとは、驚いたな。」
怪人はその事に興味を持ち、二人に近づいてきます。平次は警戒をしながら瓜の前に出てきました。
「ま、町田さんに近づくな!!」
「石導君!?」
かっこよく守ろうとした平次でしたが・・・
「どけ、男はいい。」
バシッ!!
次の瞬間怪人に弾き飛ばされていました。
「石導くーーーーーーーーん!!?」
「アハハ、最後に女の子を守って死ねるだなんて、幸せな人生だったな・・・」
バタッ・・・
平次は倒れてしまい、瓜は心配になり平次に駆け寄りました。
「し、しっかりしてください!!」
「女、逃げないでくれ。顔が見えないだろ。」
迫ってくる怪人に、とにかく避難しようと平次を抱えようとします。しかしとても間に合わず、怪人はもう目の前にいました。
「ヒッ!!・・・」
もうどうすることも出来ず、怪人が手を出して来そうとしてきたそのとき・・・
パシッ!!
「よお、いきなり派手に学校に来て何の用だ?」
怪人のその腕を、擬態を解いたフィフスが後ろから掴んでいました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
奥山志歌非公式ファンクラブ「お菓子隊」団員(上はコードネーム)
・団長 茎山
・副団長 千代崎
・参謀 明日委
・制裁部隊隊長 木駅
・制裁部隊副隊長 汲谷
・その他大勢の団員達
グレシアからの扱いは皆平等に足蹴にされている。
フィフス「名前だけ無駄にキャラ立ってんな・・・」
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