第166話 世間は狭い
さて、冬も終わりにかかったこの時期。しかし肌寒い日はまだまだ続きます。そんな時にはふと食べたくなる物がありますよね。今回はそれにまつわるお話し・・・
ヒュ~・・・
この日、フィフスはこの前のぬいぐるみ騒動のせいで学年末試験が受けられなかったために補修を食らい、夜遅くになってようやく解放され、北風の吹き抜ける夜道を歩いていました。魔術で体温を上げてはいますが、それでも寒がっています。
「うぅ~さっむ! もう二月も末だっていうのに身に応える寒さだ・・・」
「うぅ~・・・ 寒い・・・」
彼の隣を歩いている瓜は、もっと深刻のようです。
「だから先に帰っとけって言ったんだ。お前は補修もなかったってのに・・・」
『心配なんです。またこの前のように急にいなくなったらと思うと・・・』
「はぁ・・・ 過保護なもんで・・・」
ビューーーーーーーーー!!!
「「ウググゥーーーーーーーーー!!!」」
二人は再び吹いてきた強風に揃って身震いをしてしまいます。
『せっかくですし、何か温かいものでも食べて帰りませんか?』
「だな。でもこんな所に店なんてあるのか?」
するとそこに、特徴的なメロディーが聞こえて来ました。
チャララ~ララ!! チャラララララ~!!
「何だこの音?」
なじみのない音にフィフスがキョトンとすると、瓜が説明しました。
『屋台のラーメン屋さんの音ですね。丁度いいところに・・・』
「ラーメンか・・・ ありだな。行くか。」
『ですね。』
二人はピタリとタイミング良く来たラーメン屋の屋台に入り、座席に腰掛けて早速注文をします。
「親父、ラーメン二つ頼むわ。」
「はい、分かりました。」
早く温かいラーメンが来ないかうずうずしている瓜に対し、フィフスは屋台の親父の声に聞き覚えがあることを思い出し、ふと入れ物から割り箸を取る手を止めてしまいました。
『どっかで聞いたことがあるような・・・ 気のせいか?』
そこから彼も割り箸を取って少し待っていると、時間はあっという間に過ぎてお望みの物が目の前に出されました。
「はい、ラーメン二つ。」
「お! アザ~ッス!」
そのとき、二人が初めて屋台の親父と目が合ったことで、お互いに「アッ!!」と声を出して驚きました。
「弁爺さん!?」
「五郎殿に瓜殿!?」
そこにいたのは、経義の執事の『武蔵 弁』でした。
フィフスと瓜は出されたラーメンをすすりながら気になったことを質問しました。
「デカい屋敷の執事が何してんすか? こんな所で・・・」
「いやその・・・ 私のちょっとした副業でして、前々からこうして密かに働いているんです。」
フィフスはその言葉に違和感を覚えました。しかし他人の事情にズケズケ詮索するのも悪いと思い、敢えて黙っておきました。
「そうっすか。執事の給料って少ないんすね。」
「それは・・・ まあ・・・」
二人はラーメンを食べ終わると、代金をきっちり支払って屋台から出ました。
「フゥ~・・・ 食った食ったぁ。」
『温まりましたね。』
二人はそこから家に帰ろうと歩き始めながら話を続けます。
「いや~、世間は狭いって言うのをこの世界で聞いたが、本当にそうなんだなぁ。」
『まさか、あんな所に知り合いがいるなんて思いませんでしたもんね・・・』
しかし二人がそろそろ道を曲がろうとした次の瞬間・・・
バタッ!!・・・
「ッン?・・・」
フィフスが後ろから聞こえて来た変な音に振り返り、瓜がそれに続くと、そこには、さっきまで優しく接客をしてくれていた弁が倒れている姿がありました。
「オイッ!!」
二人は急いで弁に駆け寄って肩を揺さぶり、声をかけます。
「弁爺さん!?・・・ 爺さん!!・・・」
しかし弁は目を覚まさず、そこで二人はすぐに電話をかけました。
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そこから弁は牛若家屋敷に運ばれ、すぐにベッドに寝させました。すぐに経義と静も駆けつけました。
「ったく、風邪引いてたってのに外出やがって・・・」
「も、申し訳ございません・・・」
二人の少し後ろにフィフスと瓜はいます。
「風邪引いてたのにあんなことしてたのか。」
「あんなこと?」
経義が振り返ってフィフスに聞いて来ました。
「ああ・・・ 弁爺さん、さっきまでラー・・・ムグッ!!?」
話の途中だった彼の口は、静の手によって強制的に防がれました。
「とにかく! 何事もなく戻ってこられて良かったです。もう時間も遅いですし、お二人は私が帰りの案内をしますのであしからず。」
「おおそうか、頼んだぞシズ。」
静は経義に一礼し、二人を連れて玄関まで行きました。そこでようやくフィフスも口の縛りも離れます。
「プハァ!!・・・ いきなり何をすんだよ!?」
「あの場で余計なことを言って欲しくなかっただけです! 口には気をつけてください!!」
「え? 何で・・・」
「いいから! 今日は帰ってください!!」
ピーンポーーーーーーン!!・・・
するとそこに突然インターホンが鳴り、それを合図に絶え間なく連続でインターホンが鳴り響きました。
ピンポンピンポンピンポーーーーーーン!!!・・・
すると静は二人の間を割って扉を開け、いそいそと敷地の門まで走って行きました。そこから少しの間音沙汰がありません。
「「?」」
気になった二人は門を出て庭の木の陰に入り、彼女の様子を覗いてみました。するとそこには・・・
「いい加減ちゃんと払ってよ紅茶代!!」
「うちの肉の代金も!!」
「うちの魚も!!」
複数人の人達が全員一枚の紙を取り出して静一人に詰め寄っています。
「すみません! すみません!! 来週には必ず・・・」
フィフスと瓜は目をパチクリとしながらお互いの顔を見て、またそこを見ました。
「何だぁ?」
<魔王国気まぐれ情報屋>
追試中のフィフス。これまで忙しかったのが影響して早速ピンチ中
フィフス『ああクソッ!! ここの公式なんだったっけ・・・』
先生「小馬~、あと十分だぞ~・・・ 後騒ぐなぁ~・・・」
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